★★       条 文 の 解 説        ★★

建物の区分所有等に関する法律

(この解説においては、略称:区分所有法 と言う)

第1章 建物の区分所有 第1節 総則

T-b.第4条(共用部分)から 第10条(区分所有権売渡請求権)まで

◎はじめに 
第一条 建物の区分所有  
第二条 定義
第三条 区分所有者の団体
第四条 共用部分
第五条 規約による建物の敷地
第六条 区分所有者の権利義務
第七条 先取特権
第八条 特定承継人の責任
第九条 物の設置又は保存の瑕疵に関する推定
第十条 区分所有権売渡請求権

マンション管理士・管理業務主任者を目指す方のために、区分所有法を条文ごとに解説しました。 

試験問題は、過去の問題から出されるのではありません。条文から出題されます。

条文を勉強することが、合格への道です。

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(共用部分)

第四条

1項 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
過去出題 マンション管理士 R01年、H24年、H18年、H16年、H15年、H13年
管理業務主任者 H15年、

*共用部分とは...また、建物の定義に戻ります。
  マンションのように複数の人が1つの棟の中で生活をしている場合、区分所有法第2条1項の定義で規定された区分所有権の対象である数個の専有部分(各室)に通ずる廊下が誰かの専用となり、他の人が通れなくなったのでは他の人の専有部分の使用に支障が生じます。
  従って、玄関(エントランス・ホール)、廊下、階段室、エレベーター室など複数の居住者が一般的に使用する建物の部分は、特定の人がその権利を主張することができない、すなわち「区分所有権の目的とならない」つまり専有部分として扱うことができなくしました。
  それなら、専有部分でないその建物の部分はどのような名称にするのか。
そこで、繰り返しになりますが、区分所有法第2条4項で、これら、玄関(エントランス・ホール)、廊下、階段室、エレベーター室などは「専有部分」に対応して「共用部分」と呼ばれ、また、法律の条文でも、例示して、明確に定めているため「法定共用部分」とも呼ばれます。

*区分所有権の目的とならない...共用部分は建物の中にあっても、個人の権利(区分所有権=専有部分)とは別のものとする。

 本第4条1項で規定します「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする」は、既に説明しました第2条の定義条項の6種、
  1.区分所有権
  2.区分所有者
  3.専有部分
  4.共用部分
  5.建物の敷地
  6.敷地利用権
 の内、第2条4項で規定した、「共用部分」とは、
「この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び
第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。」を再び規定しています。

 既に述べましたように、第2条4項では、建物の「共用部分」を、
  @専有部分以外の建物の部分
  A専有部分に属しない建物の附属物
  B第4条2項の規定により共用部分とされた附属の建物
 としていたのに対し、この第2条4項の規定だけでは、共用部分とは何かの定義が、かなりあいまいであり、分かり難いと法の創案者が感じたのか、本第4条1項では、第2条4項に加え、さらに例をあげて具体的に記述し、共用部分とは、
  @数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室
  Aその他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分
 と示し、第4条1項に規定される「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室」は、別に定めがなくても法律上”当然”にみんなのために使われる「共用部分」であり、これらは次の第4条2項で規定される区分所有者の多数が決めた「規約」をもってしても「共用部分」にできず、また、「共用部分」となれば、建物内にあっても、区分所有権の目的にはならず、後で(第21条以下)説明しますが、区分所有法では特別な扱いを受けると定義しています。

 このような定義はマンションなど区分所有関係にある建物で廊下や階段室などの部分の管理を、民法での「共有」関係から、団体法である区分所有法での「多数決」へ移すための技法と考えると、少しは他の定義事項も含めて分かり易くなるでしょうか。

★共用部分の例
 それでは、建物のどの部分が共用部分に該当するのでしょうか。
法律的には、共用部分とは本第4条1項でいう、専有部分以外の区分所有者の全員または一部の”共用に供されるべき建物の部分”ということになります。(注意:共用部分とは、繰り返しますが、建物の部分であって、土地は入っていない。)

 もう一度、共用部分とは、で第2条4項に戻りますが、
  @専有部分以外の建物本体の部分(廊下、階段室などが例示)
  A専有部分に属しない建物の附属物
  B規約によって共用部分とされた専有部分または附属の建物(第4条2項) です。

 従って、通常は外部の第三者が客観的に見ても、数個の専有部分(室)が共に使用していると見られる部分が、つまり共用されている「共用部分」ということになります。
しかし、法律の条文ではこのようになりますが、廊下や階段室なら共用していると一般に分かり易いのですが、具体的には、専有部分か共用部分かの区分が明確でないことも実に多く、どの建物の部分が共用部分に該当するかは個々のマンションの構造に応じて判断されます。

  一般には本条で例示された廊下、階段室のほか、建物の構造上基本となる柱などの躯体部分、外壁・屋上・屋根は勿論のこと、玄関、エントランスホール、エレベーターホール、エレベーター室、エレベーター機械室、受水槽室、電気室等が共用部分に該当します。

 また、建物に附属した、電気設備の外部にある電気の幹配線、ガス・水道設備のメインの配管、メインの排水管、消防設備なども共用部分にあたります。

★法定共用部分 〜登記ができない建物の部分〜

  これら第4条1項の要件として例示された廊下・階段室、その他構造上からみて区分所有者の全員または一部の区分所有者の共用部分は誰が見ても共用部分ですから、法律上当然の共用部分として「法定共用部分」といわれ、且つ共用部分であることに関し紛争が生じる恐れがありませんので、紛争当事者間の権利関係決定基準たる登記を必要とせず、かえってこれらは登記をすることができないものとされています。

 ただし、それは法律の理論の上でそうであるだけで、実際にはその建物の部分が、共用部分であるのか、専有部分に属するのではないかの紛争がかなりあり、「法定共用部分」という呼び方が適切でないとの指摘もあります。
 区分所有法の規定では、建物の部分としては「専有部分」か「共用部分」しかなく、「専有部分」と「共用部分」では、法的にその扱い方が異なるため、必ずどちらかに属させる必要があり、これが度々紛争の種になっています。

建物 @専有部分 @構造上、
A利用上の独立性があること
住居、店舗、事務所、倉庫など 住居に限らないことに注意
A共用部分 @法定共用部分 廊下、階段室、エレベーター室など 法律上当然
A規約共用部分 本来は専有部分、物置、管理人室、集会室など 登記をすれば、第三者に対抗できる。

 なお、条文の逆の解釈として、同じ廊下や階段室であっても、それが特別な1個の専有部分(室)だけに通じる場合には、法定共用部分に該当しませんから注意してください。共用部分であるためには、数個の専有部分に通じることが、要件です。 

*法定共用部分(階段室やエレベーターホールなど)でも、他の共有者の全員が賛成すれば、専有部分に出来る(民法に戻る)

  また、階段室やエレベーターホール等の法定共用部分を専有部分に変更するには、その効用の著しい変更を伴う共用部分の廃止となり、この行為は民法の共有関係での「共有物の変更」(民法第251条1項)に該当し、共有者全員の同意がなければ、出来ません。区分所有法での多数決ではできない行為となります。

<参照> 民法 第251条 (注:改正に合わせた。令和4月1日施行)

(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

★共用部分の個別的な検討

*配管、配線について

 水道やガスの配管、電気の配線などの設備に関して専有部分と共用部分の区分についても説の分かれるところですが、その物の性質とか、設置目的によって判断するほかはありません。

 各専有部分のためにのみ存在する枝管・枝線は、本管・本線の分岐点あるいは電気・水道など戸別の専有メーターがある場合には、そのマンションが管理することになっています引っ込み線や配管の部分から、専有部分にあるメーターまでを共用部分とし、専有部分内の配管・配線は専有部分に属することになると解せます。

 「標準管理規約(単棟型)」では例をあげて、かなり明確に「共用部分」の範囲を示していますので、イメージがつくれます。
なお、この共用部分の中には「法定共用部分」と第4条2項にありあとで説明します管理事務室や集会所など「規約共用部分」も入っていますので注意してください。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第8条、「別表第2」の共用部分の範囲 

別表第2 共用部分の範囲

1 エントランスホール、 廊下、階段、エレベーターホール、エレベーター室、共用トイレ、屋上、 屋根、塔屋、ポンプ室、自家用電気室、機械室、受水槽室、高置水槽室、パイプスペース、メータ ーボックス(給湯器ボイラー等の設備を除く。)、内外壁、界壁、床スラブ、床、天井、柱、基礎部分、バルコニー等専有部分に属さない「建物の部分」

2 エレベーター設備、電気設備、給水設備、排水設備、消防・防災設備、インターネット通信設備、 テレビ共同受信設備、オートロック設備、宅配ボックス、避雷設備、集合郵便受箱、各種の配線配管(給水管については、本管から各住戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、配管継手及び立て管)等専有部分に属さない「建物の附属物」

3 管理事務室、管理用倉庫、清掃員控室、集会室、トランクルーム、倉庫及びそれらの附属物 (注:ここは、規約共用部分)

★設備、配管、附属物など、読んだだけで、どこにあるのかイメージを描いてください。メーターボックス(MB)やパイプスペース(PS)も、一度開けて覗いてください。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第8条、「別表第2」:別表第2関係コメント 

@ ここでいう共用部分には、規約共用部分のみならず、法定共用部分も含む

A 管理事務室等は、区分所有法上は専有部分の対象となるものであるが、区分所有者の共通の利益のために設置されるものであるから、これを規約により共用部分とすることとしたものである

B 一部の区分所有者のみの共有とする共用部分があれば、その旨も記載する。

 

  なお、ここで、注意すべきことは、「標準管理規約」では、以上のとおり専有部分と共用部分を区分していますが、その区分は、必ずしも費用負担と連動しないということです。
 例えば、下水管が詰まって、清掃費用負担の原因が、専有部分の使用にある場合には、たとえ共用部分の配管等に故障があった場合でも、その専有部分を所有する区分所有者の責任となります。

   (よく、判例などでも問題になっている。下の階の室に漏水の責任問題がからむ。)

  ★上の階からの水漏れの場合:このような事故の際のトラブルを避けるためには、配管について、どこまでが専有部分でどこまでが共用部分かを、できるだけ具体的に規約やできれば図面で明確にしておく必要がありましょう。

{判例}床下コンクリートスラブと階下天井板との間の空間に設置された階上者専用の排水管の枝管は、「専有部分に属しない建物の附属物」にあたり、区分所有者全員の共用部分にあたるとし、同排水管からの漏水について、階上者の損害賠償責任を否定し、排水管の修理費用は全区分所有者の負担で行うとした最高裁の判決が平成12年3月に出されています。

  ★屋上に広告塔の設置:屋上は、特定の人がテラス等で専用使用するなど特殊な例外を除いて、通常は区分所有者全員のための法定共用部分になります。従って、屋上に広告塔を設置することは共用部分の変更になりますので、集会(総会)において区分所有者(組合員)総数および議決権総数の3/4以上の賛成があれば、設置可能と思われます。(第17条参照)


{判例} 携帯電話会社のアンテナをマンションの屋上に設置する

 (注意)屋上は共用部分であることは認めたが、屋上に携帯電話会社の基地局としてのアンテナを設置するための短期でない賃借権の設定(10年間)は、区分所有者の団体(管理組合)の決議ではできない。

 つまり、区分所有法での多数決ではなく民法の共有者の全員の合意必要であるとした判決が、平成20年5月30日;札幌地裁でありました。
 その後、平成21年2月28日、同件の控訴審の判決が札幌高裁であり、今度は、民法ではなく区分所有法の適用を認め、契約は総会の普通決議事項とされました。

@「地裁での判決」概要:携帯電話会社がマンションの管理組合に対し,屋上に携帯電話の基地局を設置するために締結した賃貸借契約に基づき設置工事の妨害禁止等を求めた請求について,契約を締結するのに必要な区分所有者全員の同意を得ていないとして,これを棄却した事案。

A「札幌高裁での判決」概要:携帯電話側の請求を棄却した一審判決を取り消し、管理組合に工事妨害の禁止を命じました。「基地局の設置で屋上に著しい変更が生じるとは言えず、電磁波が住民に健康被害を与える証拠もない」と判断。10年間の賃貸借契約締結に住民全員の同意は必要なく、総会の普通決議の過半数の賛成で足りると判示しました。民法602条の短期賃借権の規定は管理組合に適用されず、3年過ぎる契約でも無効とはいえないとのことです。

(注)このように、論点が「電磁波の影響」や、短期賃貸借の契約締結で民法の適用か区分所有法の適用か、また区分所有法第17条の「著しい変更に該当するか」など多くの問題を含んでいますが、裁判官の勉強次第で解釈は大きく変わります。区分所有法は民法に比べてまだ設定の歴史が新しいため、裁判官は各条文に精通していません。

 なお、私(マンション管理士 香川)は、「屋上に基地局の設置」は、区分所有法第17条の「その形状の著しい変更」に該当すると判断します。(特別多数決議要:区分所有者及び議決権の各3/4以上の決議)。
そして、設置状況によっては、最上階の区分所有者等に特別の影響を及ぼすこともあると思います。その際には、その専有部分の区分所有者の承諾を得る必要があります。
 また、賃貸借契約は、管理組合の自主的な判断を尊重して、契約期間に関係なく総会での普通決議(過半数)で可能と考えます。

<参考>平成21年マンション管理士試験 「問6」


★住居侵入罪 〜マンションの共用部分は刑法での住居にあたる?〜  

*最近気になっている事件に、次のような判決がありました。

 事件の概要:被告は、支援する共産党の「都議会報告」などを配るために東京都葛飾区にある民間7階建のマンションに入り、各戸のドアポストに投函していたところ住民に通報されて警察に逮捕され、23日間の身柄拘束の後に起訴された。

東京高裁判決の認定によると、マンションにはオートロック方式の玄関は無く、管理人も常駐していなかったが、管理組合理事会はチラシやビラ配布のために立ち入ることを禁止していた。玄関ホールの掲示板には「敷地内に立入り、パンフレットの投函、物品販売などを行うことは厳禁です」などと記した紙が貼り出されていた。

 ◎住居侵入罪の成立を認めた

マンションの構造に加え、ビラ配布のための部外者の立入りを許容していないことを被告が知っていたと認められることなどを考慮すると、被告の行為は、ビラ配布のために玄関内東側ドアより先への立入りはもちろん玄関ホールへの立入りを含め刑法130条前段の住居侵入罪を構成すると認めるのが相当。なお罰金5万円です。

マンションの構造などに照らせば、ビラの配布を目的として住民らの許諾を得ることなく立ち入り、7階から3階までの多くの住戸のドアポストにビラを投函しながら滞留した行為が相当性を欠くことは明らかであり、被告は相当な理由がないのに本件マンション内に侵入したとの事実を認定する。(東京高裁:平成19年12月11日)

*これは、共産等の政治ビラだから、問題になったという意見がかなりあります。
 通常、ポストには商売上の宣伝ビラや風俗的なチラシが毎日のように入っていますが、誰も住居侵入まで問題にしていませんよね。


★上の住居侵入で最高裁の判決が出た  〜平成21年(2009年)11月30日 〜(朝日新聞より)

 政党のビラを配布するために東京都葛飾区のマンションに立ち入ったことで、住居侵入罪に問われた住職の荒川庸生(ようせい)被告(62)の上告審判決が30日、あった。

 最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は「表現の自由の行使のためとはいっても、管理組合の意思に反して立ち入ることは管理権を侵害する」と述べて弁護側の上告を棄却した。一審・東京地裁の無罪判決を破棄して罰金5万円を言い渡した二審・東京高裁判決が確定する。

 関与した4人の裁判官全員の一致。

 判決は、マンションの入り口に「チラシ・パンフレット等広告の投函(とうかん)は固く禁じます」などの張り紙があったことを挙げ、「張り紙の内容や立ち入り目的などからみて、立ち入りが管理組合の意思に反するものだったことは明らかで、荒川住職もこれを認識していた」と判断。荒川住職がマンションのドアを開け、7階から3階までの廊下に立ち入ったことを考えると「法益侵害の程度が極めて軽微とはいえない」と述べた。

 そのうえで、ビラ配布のための立ち入りを罰することが、憲法で保障された表現の自由を侵害するかどうかについて検討。
「表現の自由は無制限に保障されるものではなく、公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受ける」というこれまでの最高裁判例を引用し、「表現そのもの」でなく、「表現の手段」を処罰する今回のケースは、憲法に反しないと結論づけた。

 二審判決などによると、荒川住職は2004年12月23日午後2時20分ごろ、共産党の「都議会報告」などを配るためにマンションに入り、各戸のドアポストにビラを投函していたところ住民に通報されて逮捕され、23日間の身柄拘束の後に起訴された。マンションにはオートロック方式の玄関はなく、管理人も常駐していなかった。

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*最高裁の例示事項 平成21年11月30日
1 分譲マンションの各住戸にビラ等を投かんする目的で,同マンションの共用部分に立ち入った行為につき,刑法130条前段の罪(注:住居侵入等)が成立するとされた事例
2 分譲マンションの各住戸に政党の活動報告等を記載したビラ等を投かんする目的で,同マンションの共用部分に管理組合の意思に反して立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことが,憲法21条1項に違反しないとされた事例

*最高裁の裁判趣旨
1 分譲マンションの各住戸のドアポストにビラ等を投かんする目的で,同マンションの集合ポストと掲示板が設置された玄関ホールの奥にあるドアを開けるなどして7階から3階までの廊下等の共用部分に立ち入った行為は,同マンションの構造及び管理状況,そのような目的での立入りを禁じたはり紙が玄関ホールの掲示板にちょう付されていた状況などの本件事実関係(判文参照)の下では,同マンションの管理組合の意思に反するものであり,刑法130条前段の罪(注:住居侵入等)が成立する。
2 分譲マンションの各住戸のドアポストに政党の活動報告等を記載したビラ等を投かんする目的で,同マンションの玄関ホールの奥にあるドアを開けるなどして7階から3階までの廊下等の共用部分に,同マンションの管理組合の意思に反して立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項(注:第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。)に違反しない。


  *バルコニー/ベランダについて:
   (呼び方としてバルコニーとベランダとの区別は明確ではありません)については、それが共用部分か専有部分かで争いがないわけではありませんが、バルコニー/ベランダは、一般に避難通路の役割をしているものが多く、その種のものは共用部分と考えられています。(「標準管理規約(単棟型)」は共用部分説を採用しています。同規約第8条別表第2参照。)

  *玄関扉等について:
   標準管理規約(単棟型)第7条2項では、玄関の扉のうち、錠と内部の塗装部分は専有部分ですが、それ以外の外部などは、共用部分としています。
  また、窓枠及び窓ガラスも専有部分から除き、外観を構成する部分については加工等外観を変更する行為を禁止しています。
 具体的には、区分所有者は、玄関扉の外側の色の変更は勝手に出来ませんが、玄関扉の内側(室内側)の色の変更は、独自にできます。また、錠前も自己の負担で交換できます。
 窓枠(窓サッシ)や、網戸があれば、これは勝手に変更できません。窓ガラスが壊れれば、同じガラスの入れ替えは自己負担で可能ですが、今までの透明ガラスを、刷りガラスにすることは、マンション全体のデザインにも影響しますので、勝手に変更できません。

  本当にマンションに住むということは、戸建と異なり制約が多いということです。
マンション購入前に、これらの制約があることを、販売が中心のマンション業者に代わって、マンション管理士が説明する機会が法定されるといいですね。

<参照>標準管理規約(単棟型) 7条:(専有部分の範囲) 

第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2. 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
   一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。

   二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする
   三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする

3. 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。
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同コメント:第7条関係

@ 専有部分として倉庫又は車庫を設けるときは、「倉庫番号を付した倉庫」又は「車庫番号を付した車庫」を加える。また、全ての住戸に倉庫又は車庫が附属しているのではない場合は、管理組合と特定の者との使用契約により使用させることとする。
A 利用制限を付すべき部分及び複数の住戸によって利用される部分を共用部分とし、その他の部分を専有部分とした。この区分は必ずしも費用の負担関係と連動するものではない。
 利用制限の具体的内容は、建物の部位によって異なるが、外観を構成する部分については加工等外観を変更する行為を禁止し、主要構造部については構造的変更を禁止する趣旨である。
B 第1項は、区分所有権の対象となる専有部分を住戸部分に限定したが、この境界について疑義を生じることが多いので第2項で限界を明らかにしたものである。
C 雨戸又は網戸がある場合は、第2項第三号に追加する。
(第3項関係)
D 「専有部分の専用に供される」か否かは、設備機能に着目して決定する。

★専用使用権について

  特定の区分所有者が、区分所有者全員の共有部分(建物の共用部分及び敷地)を、排他的、独占的に利用できる部分を専用使用部分といい、専用使用部分を使うことのできる権利を「専用使用権」とよびます。
  専用使用が出来る例としては、1階の居住者だけが使える専用庭、上層階の居住者だけが利用できる専用テラス、また特定の区分所有者だけが使える駐車場がこれに該当します。
  民法にも区分所有法にもない権利ですが、標準管理規約(単棟型)では、バルコニー(ベランダ)も共用部分として、専用使用権を認めています。

  マンションの分譲形態にもよりますが、全室に共通して設置されているバルコニーなどでは、別途バルコニー使用料は徴収しないのが普通ですが、専用庭、専用テラス、また駐車場では、専用使用権者が別途使用料金を区分所有者の団体(管理組合)に支払います。

<参照>標準管理規約(単棟型) 
 

(バルコニー等の専用使用権
第14条 区分所有者は、別表第4に掲げるバルコニー、玄関扉、窓枠、窓ガラス、一階に面する庭及び屋上テラス(以下この条、第21条第1項及び別表第4において「バルコニー等」という。)について、同表に掲げるとおり、専用使用権を有することを承認する。

2 一階に面する庭について専用使用権を有している者は、別に定めるところにより、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。

3 区分所有者から専有部分の貸与を受けた者は、その区分所有者が専用使用権を有しているバルコニー等を使用することができる。
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(駐車場の使用)
第15条 管理組合は、別添の図に示す駐車場について、特定の区分所有者に駐車場使用契約により使用させることができる。

2 前項により駐車場を使用している者は、別に定めるところにより、管理組合に駐車場使用料を納入しなければならない。

3 区分所有者がその所有する専有部分を、他の区分所有者又は第三者に譲渡又は貸与したときは、その区分所有者の駐車場使用契約は効力を失う。

  そして、通常の使用での管理は専用使用権者が行います。(例:窓枠は共用部分で勝手に変更できませんが、窓ガラスが割れたら、その区分所有者が自分の負担で、以前と同様のガラスを入れ替えます。)

<参照>標準管理規約(単棟型) 21条 「ただし」書き:(敷地及び共用部分等の管理) 

第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。

ただし、バルコニー等の保存行為(区分所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

 2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。

 3 区分所有者は、第1項ただし書の場合又はあらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けた場合を除き、敷地及び共用部分等の保存行為を行うことができない。ただし、専有部分の使用に支障が生じている場合に、当該専有部分を所有する区分所有者が行う保存行為の実施が、緊急を要するものであるときは、この限りでない。

 4 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「保存行為」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事後に、当該工事」とあるのは「第21条第3項の承認を受けた保存行為後に、当該保存行為」と読み替えるものとする。

 5 第3項の規定に違反して保存行為を行った場合には、当該保存行為に要した費用は、当該保存行為を行った区分所有者が負担する。

 6 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。

<参考>標準管理規約(単棟型) 21条 コメント; 

@ 第1項及び第3項は、区分所有法第18条第1項ただし書において、保存行為は、各共有者がすることができると定められていることに対し、同条第2項に基づき、規約で別段の定めをするものである。
A 駐車場の管理は、管理組合がその責任と負担で行う。
B バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担において行わなければならないのは、計画修繕等である。
C 本条第1項ただし書の「通常の使用に伴う」管理保存行為とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入れ替え等である。
D バルコニー等の経年劣化への対応については、Bのとおり管理組合がその責任と負担において、計画修繕として行うものである。
 ただし、バルコニー等の劣化であっても、長期修繕計画作成ガイドラインにおいて管理組合が行うものとされている修繕等の周期と比べ短い期間で発生したものであり、かつ、他のバルコニー等と比較して劣化の程度が顕著である場合には、特段の事情がない限りは、当該バルコニー等の専用使用権を有する者の「通常の使用に伴う」ものとして、その責任と負担において保存行為を行うものとする。なお、この場合であっても、結果として管理組合による計画修繕の中で劣化が解消されるのであれば、管理組合の負担で行われることとなる。
E バルコニー等の破損が第三者による犯罪行為等によることが明らかである場合の保存行為の実施については、通常の使用に伴わないものであるため、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、同居人や賃借人等による破損については、 「通常の使用に伴う」ものとして、当該バルコニー等の専用使用権を有する者がその責任と負担において保存行為を行うものとする。
F 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
G 配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。
H 第3項ただし書は、例えば、台風等で住戸の窓ガラスが割れた場合に、専有部分への雨の吹き込みを防ぐため、割れたものと同様の仕様の窓ガラスに張り替えるというようなケースが該当する。また、第5項は、区分所有法第19条に基づき、規約で別段の定めをするものである。
承認の申請先等は理事長であるが、承認、不承認の判断はあくまで理事会の決議によるものである(第54条第1項第五号参照)。
I 区分所有法第26条第1項では、敷地及び共用部分等の保存行為の実施が管理者(本標準管理規約では理事長)の権限として定められている。第6項では、災害等の緊急時における必要な保存行為について、理事長が単独で判断し実施できることを定めるものである。災害等の緊急時における必要な保存行為としては、共用部分等を維持するための緊急を要する行為又は共用部分等の損傷・滅失を防止して現状の維持を図るための比較的軽度の行為が該当する。後者の例としては、給水管・排水管の補修、共用部分等の被災箇所の点検、破損箇所の小修繕等が挙げられる。この場合に必要な支出については、第58条第6項及びコメント第58条関係Dを参照のこと。
J 災害等の緊急時において、保存行為を超える応急的な修繕行為の実施が必要であるが、総会の開催が困難である場合には、理事会においてその実施を決定することができることとしている(第54条第1項第十号及びコメント第54条関係@を参照。)。しかし、大規模な災害や突発的な被災では、理事会の開催も困難な場合があることから、そのような場合には、保存行為に限らず、応急的な修繕行為の実施まで理事長単独で判断し実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。更に、理事長をはじめとする役員が対応できない事態に備え、あらかじめ定められた方法により選任された区分所有者等の判断により保存行為や応急的な修繕行為を実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。なお、理事長等が単独で判断し実施することができる保存行為や応急的な修繕行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。
K 第6項の災害等の緊急時における必要な保存行為の実施のほか、平時における専用使用権のない敷地又は共用部分等の保存行為について、理事会の承認を得て理事長が行えるとすることや、少額の保存行為であれば理事長に一任することを、規約において定めることも考えられる。その場合、理事長単独で判断し実施することができる保存行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。


★区分所有法で「専用使用権」の用語がないわけ

  どうも、「使用権」という権利の用語なのに、区分所有法で明確にしていないのは、おかしいと思っていたので、あちらこちらの本を読んでいたら解答に近いのがあった。

  平成7、8年頃に裁判になった古いマンションの分譲(実は、最近も、「マンション管理士 香川事務所」に相談があった例)で「駐車場専用使用権」を分譲会社が、マンション本体の分譲とは別に分譲してその代金を分譲会社が取っていた。
 これは、既に販売の対象となったマンションの敷地を二重に売買しているので、民法の「公序良俗違反」で無効ではないか、また有効であってもその駐車場の分譲代金は、敷地の共有者の団体である管理組合に帰属するものではないかという争いがあった。

 下級審では、管理組合に帰属するとの判決もあったが、最高裁は平成10年10月22日;ミリオンコ−ポラス高峰館事件、また平成10年10月30日;シャルム田町事件の一部で、「駐車場専用使用権分譲は有効であり、分譲代金は、分譲業者に帰属する」との判決内容です。

平成10年10月22日;ミリオンコ−ポラス高峰館事件 判決の要旨:
  マンション分譲業者が、マンションの分譲に伴い、区分所有者の共有となるべきマンション敷地の一部に駐車場を設け、マンション購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権を分譲し、その対価を受領した場合において、分譲業者が営利の目的に基づき自己の利益のために専用使用権を分譲したものであり、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたなど判示の事情の下においては、分譲業者が区分所有者全員の委任に基づきその受任者として専用使用権の分譲を行った等と解することはできず、右対価は、専用使用権分譲契約における合意の内容に従って分譲業者に帰属すべきものである。

理由:
 1 前記一の売買契約書、重要事項説明書、管理規約案の記載に照らすと、本件駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人(分譲業者)が特定の区分所有者に分譲したものであるところ、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得ることを、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を承認すべきことをそれぞれ認識し理解していたことが明らかであり、分譲業者である上告人が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情も存しない。なお、本件のように、マンションの分譲に際し分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得する取引形態は、好ましいものとはいえないが、このことのゆえに右契約の私法上の効力を否定することはできない。
 2 そして、右売買契約書の記載によれば、分譲業者である上告人は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意の内容に従って上告人に帰属するものというべきである。この点に関し、上告人が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右専用使用権分譲契約における当事者の意思に反するものであり、前記管理委託契約書の記載も右判断を左右しない。また、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものといわなければならない。
 3 したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき右対価の引渡しを求める被上告人の予備的請求は、理由がない。
 4 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の予備的請求は理由がないから、第一審判決中、右予備的請求に関する部分を取り消した上、これを棄却することとする。

 この判決に対して、
 遠藤光男裁判官の補足意見が以下のようにあります。


 私は、本件におけるマンション販売方式ないしマンション管理業務に関連して、若干補足して意見を述べておくこととしたい。
 一 分譲業者がマンションを分譲するに当たり、建物専有部分(敷地の共有持分を含む。)とは別に、駐車場の専用使用権を分譲してその対価を取得する販売方式については、
 (1)分譲業者が、購入者に対して分譲したはずの敷地について二重の利益を得ている疑いが持たれるのみならず、
 (2)マンション分譲後においても、専用使用権の譲渡、存続期間、有償化ないし使用料の増額などをめぐって専用使用権者と管理組合との間に紛争が生ずる等の問題の存することは、被上告人の指摘するとおりである。
 したがって、既に建設省が行政指導において明らかにしているように、このような販売方式は好ましいものではなく、速やかに根絶されなければならないと考える。
 しかし、立法論や行政指導としてであれば格別、基本的に契約自由の原則が妥当する現行法の下における解釈論としては、おのずから限界があるものといわざるを得ない
 二 まず、(1)の二重の利益の点については、右の販売方式が分譲業者に常に二重の利益をもたらすものということはできない。
 分譲業者がマンションを分譲するに際しては、まずもって、その原価、諸経費、利益金等を念頭に置き、分譲代金の総額を定めた上、各建物専有部分につきできる限り分譲しやすい販売価格を設定するべく、その一つの方法として、購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して駐車場専用使用権付きでマンションを分譲し、別途その対価を支払わせることによって、その分だけ建物専有部分を廉価に販売することも十分に考えられるところである。このように価格の設定が経済的合理性に基づいて行われている限り、専用使用権の分譲代金は、自己の利益のために専用使用権を分譲した分譲業者に帰属するものと解するほかはない。
 原審の判示するように、価格の設定が合理的なものかどうかを判定するのは実際上容易なことではないが、このことのゆえに、右の販売方式の効力を否定したり、分譲代金の帰属について当事者の意思と異なった解釈を採ることはできない。
 また、(2)の点については、このような問題が生ずる可能性があるからといって、直ちに右の販売方式の私法上の効力を制限する解釈を採ることは困難というべきである。これらの問題は、別途、建物の区分所有等に関する法律の規定の解釈などを通じて、妥当な解決を図るほかはない。
 三 そうすると、購入者の無思慮に乗じ、専用使用権分譲代金の名の下に分譲業者が暴利を得ているような場合には、公序良俗違反(暴利行為)として専用使用権分譲契約自体の効力を否定することができ、また、分譲業者が二重の利益を得たことが客観的に立証された場合には、不当利得返還請求を認めることができるとしても、前記のような問題が存することのみに依拠して、契約当事者が合意の上で締結した専用使用権分譲契約の効力を否定すべきいわれはなく、いわんや、分譲業者において、管理組合が活動を開始するまでの間、管理業務の一部を代行している事実があるからといって、契約に明示された当事者の意思に反し、専用使用権の分譲までもが委任事務の一環であるとして、その収受金を委任事務処理上受領した金員と評価することなどはできない筋合いである。原判決の意図するところは理解し得ないではないが、結果的な妥当性を追求する余り、解釈論としての範囲を超えた無理な法律構成、法律解釈を採るものといわざるを得ない。
 四 私は、法廷意見も、以上の言わば現行法の下における解釈論上の当然の帰結を明らかにしたにとどまるものであり、本件の販売方式を積極的に容認したものではないとの理解の下に、法廷意見に賛成するものである。

 これらを受け、「専用使用権」が持つ曖昧さから、区分所有法では「専用使用権」の用語を規定していないようです。
また、一時は標準管理規約でも「専用使用権」の用語は廃止されていたとのことですが、今は以下のように規定されています。

 <参考> 標準管理規約(単棟型) 第2条 (注:令和3年6月の改正に合わせた)

(定義)
第2条 この規約において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 区分所有権 建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)第2条第1項の区分所有権をいう。
二 区分所有者 区分所有法第2条第2項の区分所有者をいう。
三 占有者 区分所有法第6条第3項の占有者をいう。
四 専有部分 区分所有法第2条第3項の専有部分をいう。
五 共用部分 区分所有法第2条第4項の共用部分をいう。
六 敷地 区分所有法第2条第5項の建物の敷地をいう。
七 共用部分等 共用部分及び附属施設をいう。

八 専用使用権 敷地及び共用部分等の一部について、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利をいう。

九 専用使用部分 専用使用権の対象となっている敷地及び共用部分等の部分をいう。


十 電磁的方法 電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって次に定めるものをいう。
   イ 送信者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの
   ロ 磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの(以下「電磁的記録」という。)を交付する方法
十一 WEB会議システム等 電気通信回線を介して、即時性及び双方向性を備えた映像及び音声の通信を行うことができる会議システム等をいう。

 なお、判決にある分譲業者が定めた原始管理規約の衡平については、区分所有法第30条3項が平成14年に追加されています。

 区分所有法で専用使用権を規定しなかったのは、法制審議会において、「専用使用権者の承諾を必要とする」のようにするには、専用使用権はその実態が様々で、一律に規定することは問題があり、解釈に委ねることにしたとのことですが、ここは、一歩踏み込んだ規定が必要な箇所です。


 *「駐車場の専用使用権をめぐる平成10年の最高裁判所の判決について」
  
 私、マンション管理士 香川 としては、区分所有者の共有財産である敷地において、分譲業者が別途に駐車場を専用使用できる権利を売っている行為は、どうしても分譲業者の二重利得にしか思えません。
 そこで、別のサイト 「◎マンションの駐車場の専用使用権の分譲をめぐる平成10年の最高裁判所の4件の判決について」 を作成し、
   平成10年に最高裁判所から出された4件の判決
  1.ミリオンコーポラス高峰館事件・・・判決日:平成10年10月22日
  2.シャルマンコーポ博多事件・・・・・判決日:平成10年10月30日
  3.シャルム田町事件・・・・・・・・・判決日:平成10年10月30日
  4.高島平マンション事件・・・・・・・判決日:平成10年11月20日
 とその争点、
  *分譲業者が一部の買主に駐車場の専用使用権を分譲して得た対価は業者のものか管理組合のものか
  *分譲業者は委任契約で二重の利益を得ているので、管理組合に返還しろ
  *規約の変更が「特別の影響をおよぼすべき」とは、
  *@駐車場の一部の専用使用権を消滅させる集会決議は有効か(消滅決議)
    A無償であった駐車場の専用使用権を有償化する集会決議は有効か(有償化決議)

  について、論評していますので、参考にしてください。


★専有部分と共用部分の基準を法律で定めたら?

 区分所有法では、建物を 
 1.専有部分 と それ以外の 
 2.共用部分 
 に分けていますが、その区分けが難しく、管理人事務室や水道の配管などでどちらに属するかの争いが、数多く起きています。

 そこで、法制審議会でも、専有部分と共用部分の基準を法的に明確にしようとする動きがありましたが、管理人事務室はその形態が多種すぎる、水道などの配管も千差万別で基準ができない、との判断で、改正に至っていません。

 これらの事情から、当分、争いがあれば裁判でマンションごとに、専有部分か共用部分かを決めることになります。


★まとめ:1棟の建物の部分わけ (建物の部分は必ず、@専有部分、か A共用部分 に属する。)
 土地は入っていないことに注意。

建物 @専有部分 @構造上、
A利用上の独立性があること
住居、店舗、事務所、倉庫など 住居に限っていないことに注意
A共用部分 @法定共用部分 廊下、階段室、エレベーター室など 法律上当然
A規約共用部分 本来は専有部分。物置、管理人室、集会室など 登記をすれば、第三者に対抗できる。


{設問-1}法定共用部分は、規約で定めても、区分所有者以外の者が排他的に使用することとすることはできないか

答え: できることがある。 
 例えば、一階などにある建物空間のピロティー内は、広場やホールなど区分所有者全員の共用に供されるので法定共用部分と解されるのが適当で、そのピロティー内に設けた駐車・駐輪場所等も法定共用部分であると考えられるが、駐車場などは使用契約により、区分所有者でも外部の者でも使用可能な排他的使用権が設定されることがある。つまり、規約で定めれば、法定共用部分も、第三者が排他的に使用できることがある。


{設問-2}法定共用部分を専有部分とする場合には、これについて、その共有者全員の同意が必要か。

答え:全員の同意が必要である。 
 今までの解説を読んできた人には、廊下や階段等の法定共用部分を専有部分に変更するという設問に戸惑うだろうが、それは、区分所有法での制限であり、例えば、ある部屋の前の廊下であっても、権利者全員が認めるなら、個人の所有にしてもそれは自由である。つまり法定共用部分も専有部分にできる。しかし、法定共用部分を専有部分とするのは処分行為であり、区分所有法上の多数決の原理の変更行為から外れ、民法の共有(民法第251条)により、原則として全員の合意(同意)なくして処分できないとなる。必要である。


{設問-3}あるマンションで301号室に水漏れ事故があった場合に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定並びに判例によれば、最も不適切なものはどれか。

1 401号室に居住している区分所有者が401号室内の水道栓を閉め忘れたため301号室に水漏れした場合には、401号室の区分所有者が水漏れによる責任を負う。

答え:適切である。 
 401号室に居住している区分所有者は「401号室内の水道栓を閉め忘れた」という故意・過失による不法行為につき、「301号室の水漏れ」について責任を負う。専有部分での行為が原因なのは、そこの人の責任である。民法第709条参照。

2 給水管の本管に経年による劣化が原因で穴があいたため301号室に水漏れした場合には、通常区分所有者全員が水漏れによる責任を負う。

答え:適切である。 
 給水管の本管となると明らかに共用部分である。共用部分の管理で、経年・劣化が原因の時は区分所有者全員が責任を負う。区分所有法第16条参照。

3 301号室の専有部分である天井裏にある401号室の専用の排水管に、401号室に居住している区分所有者が物を詰まらせたため301号室に水漏れした場合には、401号室の区分所有者が水漏れによる責任を負う。

答え:適切である。 
 401号室の区分所有者は、「401号室の専用の排水管に物を詰まらせた」という個人の不法行為につ き、「301号室に水漏れ」について責任を負う。専有部分での行為が原因なのは、そこの人の責任である。民法第709条参照。

4 301号室の専有部分である天井裏にある401号室の専用の排水管に、経年による劣化が原因で穴があいたため301号室に水漏れした場合には、401号室に居住している区分所有者が水漏れによる責任を負う。

答え:適切でない。 
 301号室の専有部分である天井裏にある401号室の専用の排水管は、「排水菅が排水管使用者の専有部分に存在しておらず、排水管使用者の専有部分において排水管のメンテナンス工事を実施することが出来ない」ことにつき、「共用部分とすることが相当である。」という判例がある。よって、経年劣化が原因の共用部分の瑕疵による責任は区分所有者全員が負う。区分所有法第16条参照。

正解:4


{設問-4}マンション(マンションの管理の適正化の推進に関する法律第2条第1号イのマンションをいう。以下同じ。)の法定共用部分(区分所有法上当然に共用部分とされる部分をいう。以下この問いおいて同じ。)に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

{平成15年 マンション管理士 問2}

1 構造上区分所有者の共用に供されるべき建物の部分は、専有部分ではなく、法定共用部分である。

答え:正しい。 
 共用部分とは、区分所有法第2条4項「この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。 」とあり、
法定共用部分とは、区分所有法第4条第1項、「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。」をさす。よって、構造上区分所有者の共用に供されるべき建物の部分は、専有部分ではなく、法定共用部分である。

2 区分所有者の現実の共用に供されていない建物の附属物であっても、専有部分に属しないものは、法定共用部分である。

答え:正しい。 
 選択肢1でも述べたように、法定共用部分は、区分所有法第2条第4項「この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。」と定める。現実の共用に供されていなくても専有部分に属しない建物の附属物は、法定共用部分となる。

3 区分所有者全員の共用に供される附属の建物がある場合、この建物は、法定共用部分である。

答え:間違いである。 
 区分所有者全員の共用に供される建物の部分は、選択肢1及び2で述べたように、法定共用部分であるが、ここには設問の附属の建物は含まれていない。附属の建物は、区分所有法第4条第2項本文、「第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。」と定める。たとえ、区分所有者全員の共用に供されていても、附属の建物は規約によって初めて共用部分となる。

4 法定共用部分であるためには、区分所有者の共用に供され得る状態にあれば足り、現実に共用に供されていなくてもよい。

答え:正しい。 
 法定共用部分であるためには、区分所有者の共用に供され得る状態にあれば足り、現実に共用に供されていなくてもよい。

正解: 3



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第四条

2項  第一条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

過去出題 マンション管理士 R05年、R03年、R01年、H30年、H25年、H24年、H22年、H21年、H20年、H19年、H18年、H16年、H15年、H13年
管理業務主任者 R03年、R02年、H20年、H18年、H15年、

規約で共用部分にすることができる...専有部分(単独で所有できる部分)や附属の建物を規約で共用部分(みんなのもの)にできる。でも、しなくてもいい。任意である。古い、小さなマンションでは、共用部分のような管理人室などがあっても、規約もなくまた登記していない場合が多い。だから、トラブルも起きるわけですが。

第三者に対抗することができない...登記していなければ、第三者にはマンションの内情は分からないので主張できない。第三者に対して主張できないだけで、マンションの内部的には、規約で定めれば共用部分であることに変わりはない。

<参照>区分所有法 第1条(建物の区分所有)

第一条  一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

民法からの原則として、不動産(土地・建物)の権利は、登記しなければ、第三者に対抗できない(権利を主張できない)、があります。(民法第177条)

<参照>民法 第177条 (不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

★現実にはマンションでは、エントランスや廊下や階段やエレベーターなどのいわゆる明らかな共用部分(法定共用部分)だけで共同生活をしてはいません。多くのマンションでは受付や警備用(業務委託契約には警備業務は正式には入っていませんが)に管理人室があります。また集会室や災害用倉庫などが必要な規模のマンションもあります。

  これら、管理人室や集会室などはマンション内部で使用する立場からは共同利用施設といえますが、普通の室としての転用が可能である以上、共同利用施設であるとの認識はあくまでマンション内部の利用者の主観的なものであり、外部からの客観的な判断では、権利関係がどうなっているのか不明です。

 また、トイレや給湯設備を備えている集会室などは、区分所有法第1条で定める「建物として構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することのできる部分」に該当し、本来的には専有部分にもなることができる建物の部分でもあります。
 従って、このような建物の部分をマンションの内部では、みんなの物として、共用部分と決める必要性がある一方、外部からはその使用実態が分からないため、共用部分なのか専有部分なのか権利上の紛争の生じる可能性があることになります。

 そこで、このような専有部分にも成り得る建物の部分や附属の建物を規約により共用部分とすることができるとするとし、それは共用部分である旨を、不動産登記法に従った登記をしなければ、これをもって第三者に対抗(主張)することができないこととしました。

  

★規約で共用部分とする理由

 独立して利用できるマンションの一室や別の建物を内部的に集会室(集会所)、管理人室にするなど、一見すると他の室(専有部分)と区別のつかないものは、規約で共用部分と定め、そして第三者(外部の人)にもはっきりさせるため、「登記」します。
規約により共用部分と定められるとその共用部分は「規約共用部分」と呼ばれます。
 どのような形態でも、区分所有権の目的となる建物の部分や附属の建物は規約があれば、専有部分でも共用部分にできます。

★規約共用部分とするには...建物の専有部分でも規約があれば共用部分にできる。登記は任意。登記がないと、ただ第三者に対抗できないだけ。

   ◎登記:建物登記簿の「専有部分の建物の表示」に1つの家屋番号がついて登記される。

   「原因及びその日付」の欄に「平成x年y月z日 規約設定 共用部分」として登記はされるが、持分(x分のyとか)までは記載されない。
   (区分所有者が専有部分を譲渡しても、規約共用部分として登記されている権利変更には影響が無く、登記上も簡単に処理できる。)

 <参照> 分譲業者など最初の全部の所有者がする公正証書による規約の設定 第32条に入っている項目(その1/4)。

★規約共用部分とすべき場合
 該当の建物の部分や附属の建物を規約で共用部分とした場合としない場合の違いは、適用される法律が民法か区分所有法かの違いとなって現れます。

 規約で共用部分とした場合は区分所有法が適用されますからその扱いは他の共用部分と同じですが、規約で共用部分としない場合は民法が適用されることになります。
民法が適用される場合には、その施設の保存行為は単独で、管理行為は持分の過半数で、変更(処分も含む)行為は全員の合意で行い、各自の持分は全て登記され持分の処分や分割請求も自由となります。
従って、附属の建物の性格、用途にもよりますが、他の共用部分と同様の全員の共同利用施設である場合は規約で共用部分とすべきでしょう。

★規約共用部分の登記
 共用部分である旨の登記の手続きは、不動産登記法第44条に規定されており、登記簿の表題部又は甲区に記載された所有者が規約を添付して申請し、受理されると表題部に「共用部分」である旨が記載されて表題部又は甲区に記載された所有者名は抹消されることとなっております。(所有権者がいなくなる。)
 なお、登記簿上では、単に「共用部分(または、団地共用部分)」と記入されるだけで、特に「規約共用部分 」とは記入されません。

<参照>不動産登記法 第44条:(建物の表示に関する登記の登記事項)

第四十四条  建物の表示に関する登記の登記事項は、第二十七条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
   一  建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である建物にあっては、当該建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)
   二  家屋番号
   三  建物の種類、構造及び床面積
   四  建物の名称があるときは、その名称
   五  附属建物があるときは、その所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である附属建物にあっては、当該附属建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)並びに種類、構造及び床面積

   六  建物が共用部分又は団地共用部分であるときは、その旨

   七  建物又は附属建物が区分建物であるときは、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の構造及び床面積
   八  建物又は附属建物が区分建物である場合であって、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の名称があるときは、その名称
   九  建物又は附属建物が区分建物である場合において、当該区分建物について区分所有法第二条第六項 に規定する敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、区分所有法第二十二条第一項 本文(同条第三項 において準用する場合を含む。)の規定により区分所有者の有する専有部分と分離して処分することができないもの(以下「敷地権」という。)があるときは、その敷地権

2 前項第三号、第五号及び第七号の建物の種類、構造及び床面積に関し必要な事項は、法務省令で定める。

★共用部分となると、権利の設定ができない
  該当の部分が登記され名実共に共用部分(法定共用部分と規約共用部分の区別はありません)になりますと、この共用部分は区分所有法の適用を受け、単独で所有権移転や担保権設定の目的となることができなくなりますから、所有権や担保権設定に設けられている権利事項の記載欄である甲区(所有権関係)・乙区(所有権以外の権利)は不要となるためこれらは閉じられ、表題部のみの登記簿となります。 (参照:不動産登記法第58条)

 なお、新築分譲時の規約共用部分の設定・登記は、分譲業者が公正証書で規約証書を作成し、その規約証書を添付して、規約共用部分の設定・登記を行います(第32条参照)が、入居後に規約で共用部分を設定する場合は規約事項のため規約変更手続き(第31条参照)で行うことになります。このことは規約共用部分を廃止する場合でも同様です。

  なぜ公の公証人がからむ「公正証書」にするかというと、分譲前にはまだ購入者がいないため、分譲後に専有部分か共用部分かの争いを、公的に明らかにすることによって、防ぐためです。

<参照>不動産登記法 第58条:(共用部分である旨の登記等)

第五十八条  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記に係る建物の表示に関する登記の登記事項は、第二十七条各号(第三号を除く。)及び第四十四条第一項各号(第六号を除く。)に掲げるもののほか、次のとおりとする。
 一 共用部分である旨の登記にあっては、当該共用部分である建物が当該建物の属する一棟の建物以外の一棟の建物に属する建物の区分所有者の共用に供されるものであるときは、その旨
 二 団地共用部分である旨の登記にあっては、当該団地共用部分を共用すべき者の所有する建物(当該建物が区分建物であるときは、当該建物が属する一棟の建物)

2  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をする建物の表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は、申請することができない。

3  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分又は団地共用部分である建物に所有権等の登記以外の権利に関する登記があるときは、当該権利に関する登記に係る権利の登記名義人(当該権利に関する登記が抵当権の登記である場合において、抵当証券が発行されているときは、当該抵当証券の所持人又は裏書人を含む。)の承諾があるとき(当該権利を目的とする第三者の権利に関する登記がある場合にあっては、当該第三者の承諾を得たときに限る。)でなければ、申請することができない。

4  登記官は、共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をするときは、職権で、当該建物について表題部所有者の登記又は権利に関する登記を抹消しなければならない。

5  第一項各号に掲げる登記事項についての変更の登記又は更正の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の所有者以外の者は、申請することができない。

6  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物について共用部分である旨又は団地共用部分である旨を定めた規約を廃止した場合には、当該建物の所有者は、当該規約の廃止の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。

7  前項の規約を廃止した後に当該建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。


 なお、
 
@建物の表題部所有者とは...一筆の土地または一個の建物ごとに作成される登記記録において、まだ所有権の保存の登記がされていない時点で、表題部に所有者として表示されている者が表題部所有者です。
 これには多くの場合、建築主が該当します。表題部には登記義務があります。表題部は物理的な現況を示しているだけで、権利関係を記録しませんから、所有者といってもこのままでは、原則;第三者に対抗はできません。
 当事者の申請で所有権の登記がなされると、表題部所有者に関する登記事項は、抹消されます。

 
A所有権の登記名義人とは...一筆の土地または一個の建物に関する登記記録において、不動産に関して”所有権を有する者”として記載されている者が所有権の登記名義人です。
 所有権は登記簿の「権利部」の甲区に記録されます。登記義務はなく、任意ですから、表題部所有者の名義とは異なることがあります。

★注:既に、該当の部分に別の所有者が登記されていたり抵当権が設定されている場合には、共用部分としての登記はできない。
    共用部分(法定共用部分と規約共用部分の区別なく。また団地共用部分も含めて)として登記されますと、その後、その建物の該当部分の権利関係は登記できなくなりますから、既に建物の表題部の所有者と異なった所有者が登記されていたり、抵当権がその部分に設定されているときには、異なった所有者や抵当権者の承諾がなければ、共用部分の登記はできません。不動産登記法第58条3項参照。

*登記簿(区分建物全部事項証明書)の見方は、下の出題例(設問-2)を参考にしてください。

--------------------------------------------------

ところで、本第4条及び第2条より区分所有権には共用部分の権利は含まれないことになりましたから、 

  区分所有者が有する権利は、

 1.建物に対して、 @区分所有権 及び 
              A共用部分の権利 と 

 2.土地に対して、 B敷地に対する権利(敷地利用権)

    の3つということになります。

*注;何度も言いますが、共用部分とは建物についての言葉。土地には関係していない。(混同しないように!)


{設問-1} 集会室として使用している専有部分について、所有者である区分所有者の同意を得たが、抵当権者の承諾を得ないで、共用部分とすると規約で定めることはできるか。

答え:できない。 
 通常の場合、専有部分の所有権者の同意により所有権は処分可能で、抵当権者の承諾がなくてもいいが、規約で共用部分にすると、登記上、所有権者がいなくなり、よって抵当権の設定も出来なくなる。これは、既存の抵当権者の権利を侵すことになる。既に専有部分が抵当権の目的になっている場合、抵当権者が承諾をしない限り、規約共用部分と定められない。不動産登記法第58条3項参照


{設問-2}下の書面は、あるマンションの区分建物全部事項証明書の例であるが、この書面に関する次の記述のうち、不動産登記法及び区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。注:赤字の枠は、ついていません。答え用につけています。

1 甲マンションの敷地は、面積が932.74uの一筆の土地である。
2 東京建設株式会社から専有部分の一つを購入した甲野太郎が、その所有権保存登記を行った。
3 甲マンションの203号室(床面積71.01u)は、甲野太郎の所有であり、この専有部分には抵当権設定の登記はない。
4 甲マンションの1階部分の面積は、480.17uであり、これは共用部分の面積は含まない。

     

答え

1 正しい。
 区分建物(マンション)の場合、表題部は、1棟全体の表題部(1棟の建物の表示と敷地権の目的たる土地の表示)と各室の表題部(専有部分の建物の表示と敷地権の表示)があることに注意のこと。

表題部(一棟の建物の表示)により、甲マンションの敷地は、表題部1棟の建物の所在の地番と敷地権の目的たる土地の表示の地番が一致し、この個数は1であるから、地積の部分の面積が932.74uの一筆の土地である。

2 正しい。
 表題部(敷地権の表示)により、表題部の所有権者である東京建設株式会社の下に下線が引かれて抹消されているから、当初の所有者は東京建設株式会社であり、甲区(所有権に関する表示)の表示により、専有部分の一つを購入した甲野太郎が、その所有権保存登記を行ったことが分かる。

3 正しい。
 
専有部分の表題部および甲区(所有権に関する事項)より甲マンションの203号室(床面積71.01u)は、甲野太郎の所有であり、抵当権などを記載する「乙区に記載されている記録事項はない」とあるので、この専有部分には抵当権設定の登記はない。
  (なお、マンションでの専有部分の登記簿の床面積は、マンションでは「内法計算」です。壁の中心からの「壁芯計算」より狭くなっています。<参照:不動産登記規則115条>(建物の床面積)
第百十五条  建物の床面積は、各階ごとに壁その他の区画の中心線(区分建物にあっては、壁その他の区画の内側線)で囲まれた部分の水平投影面積により、平方メートルを単位として定め、一平方メートルの百分の一未満の端数は、切り捨てるものとする。 )

4 間違いである。
 表題部(一棟の建物)の床面積より甲マンションの1階部分の面積は、480.17uであるが、これには、玄関、廊下、エレベーター室などの共用部分が入っている。
 (注意:建築基準法52条6項後段:「・・・に規定する建築物の容積率の算定の基礎となる延べ面積には、共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積は、算入しないものとする。」とあり、建築基準法の容積率の計算では、延べ面積からは、マンションの廊下・階段部分は除かれている。)

正解:4

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(規約による建物の敷地)

第五条

1項 区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。
過去出題 マンション管理士 R05年、R04年、R01年、H28年、H27年、H25年、H21年、H18年、H17年、H15年、H13年
管理業務主任者 R02年、H29年、H26年、H23年、H18年、

敷地とすることができる...規約で敷地にしなくてもいい。任意である。
   実際には、その土地の上に、マンションが建っていないが、 マンションが上に建っている土地(法定敷地)と共に管理・使用することにした登記簿上は別の土地である。

  この第5条は、マンションの土地について規定する。

 建物の敷地とは、既に説明しました区分所有法において他の法律と異なった特別な事項であることを定義した第2条での定義条項の6種、
  1.区分所有権
  2.区分所有者
  3.専有部分
  4.共用部分
  5.建物の敷地
  6.敷地利用権
 の内、第2条5項で規定した、「この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び
第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。」
 とあることを受け、建物の「共用部分」には、廊下・階段など「法定共用部分」の他に、集会室のように専有部分であっても規約によって共用部分にできる「規約共用部分」がありました(第4条2項)ように、敷地においても規約で「建物の敷地」にして、区分所有関係にある敷地の管理を、
民法での共有から区分所有法による団体での「多数決」に移して管理を簡便にしようとするものです。
 規約の「力」の強さを感じる規定です。

★敷地の種類
 復習となりますが、第2条5項の定義で建物の敷地には、
   @建物が所在する土地 と
  A本第5条1項により敷地とされる土地 の
 2つのものがあることとなっています。

 @の「建物が所在する土地」とは、敷地の要件が「建物が所在すること」と法定されていますから「法定敷地」と呼ばれ、Aの「本第5条1項により敷地とされる土地」は、その土地の上に「建物は建っていないが」法定敷地と同じように管理・使用するなら規約により建物の敷地に出来るので規約敷地」と呼ばれています。



   

★法定敷地と規約敷地の違い
  現実にマンションが上に建っている土地(敷地・底地)は、外部からも見ても分かるため
、区分所有法で定める「建物の敷地」に当然になるため「法定敷地」と呼ばれますが、マンションが上に建っていない土地でも、そのマンションで、法定敷地と一体として管理又は使用をするなら、別の地番にある例えば庭・通路・駐車場・遊園地・テニスコートなどでも、規約でマンションの敷地にすることができます。こちらは、規約により敷地となったので「規約敷地」と呼ばれます。

★建物の敷地となると、建物の専有部分と分離処分ができなくなる(区分所有法第22条 参照)
 区分所有法の勉強が始まったばかりの、今は、どうして面倒な規約を設けて、そのマンションの敷地にするのか、疑問に感じるでしょう。
 
 今後説明しますが、区分所有法独自の規定として、そのマンションの土地(敷地)として規定すると、法定敷地と規約敷地の区別なくまとめて「建物の敷地」となり、建物の専有部分と敷地利用権の分離処分の禁止の適用を受け、勝手にその土地(敷地)だけの処分ができず、建物の権利と共に移動するという制限を受けることになります。

 建物の廊下や階段の共用部分と同じように土地であっても多数の人が関係するため管理も「多数決」で決定できるようにするため(区分所有法第21条参照)の準備として、ここで建物の敷地とは何か、その範囲はどこまでかを明確にする必要があるのです。

 なお、区分所有法独自の構成をなす建物の専有部分とその敷地の分離処分を禁止することは、複雑だった不動産の取引の安全性の面から不動産登記法の改正にもつながっています。

<参照>区分所有法 第22条(分離処分の禁止)

1項 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、
その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない

ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。

 ◎規約敷地は、基本となるマンションの土地(法定敷地)と隣接していなくてもよい。離れていてもいい。登記が建物のある土地とは別になっている土地でも可。(*よく出題される*)

 ★ 土地の登記:その敷地の権利が

      1.所有権なら...甲区に(甲区は所有権に関する事項を記載するところだから)「所有権敷地権

      2.地上権・賃借権なら...乙区に(乙区は所有権以外の事項(他にも抵当権・地役権なども)を記載するところだから)「地上権敷地権

       のように「敷地権」と記載される。(これを相当区事項欄という。)

       ◎これは、登記官が職権でする。

    登記所(法務局)でこの登記がなされると、もう該当の土地の登記簿は閉鎖されたのと同じになり、今後はマンションの建物(専有部分)と共に土地の権利も動き、土地だけ勝手に処分(譲渡とか抵当権の設定など)ができない。

<参照> 分譲業者など最初の全部の所有者がする公正証書による規約の設定 第32条に入っている項目(その2/4)。

★「規約敷地」にする要件
  区分所有建物が上に建っていない土地(敷地)を「規約敷地」とするには、その土地が

   @建物の所在する土地(法定敷地)以外の土地 で、

   A建物及び「法定敷地」と一体として管理・使用される土地であることです。 そして最後に

    B規約で敷地に取り込む必要があります。

@建物の所在する土地(法定敷地)以外の土地
  これは、当然です。建物が上に所在している土地(底地)は、区分所有法第2条5項により当然に建物の敷地(法定敷地)になります。
 そして、建物の登記簿に記載された所在地の地番(複数ある場合もあります。)に、公園やテニスコートや駐車場等があっても、その場合には何もしなくても当然に法定敷地となるので、特に規約敷地にする問題は発生しません。

  この法定敷地以外の土地が対象です。

A建物及び「法定敷地」と一体として管理・使用される土地であること
  規約敷地にできる2番目の要件です。
  建物及び法定敷地と一体として管理・使用される土地であることは法定要件ですから、区分所有者である当事者の主観において一体であることでだけでは足らず建物と法定敷地との関係においてその利用なり管理の実態が、他の状況からも客観的に見て、管理・使用される土地であるという一体性を認められることが必要でしょう。
 そのような一体性が認められれば法定敷地に物理的に隣接していない、離れた土地(別の地番)であっても規約敷地にできると考えられます。
 また、法定敷地を別とする一団のマンション群が中央公園等を共同使用する等の場合は中央公園等の土地を各々で規約敷地とするようなことも考えられます。

B規約で敷地に取り込む必要がある
  上の@及びAの要件を満たした土地は、Bの規約で定めることにより規約敷地とすることができます。
 その方法は、規約の敷地の表示に当該規約敷地の所在・地番等を法定敷地と同様表示することで可能です。

 なお、この規約は、分譲業者など最初に建物の専有部分の全部を所有する者が、分譲の開始にあたり、公正証書によって法定敷地以外の土地を建物の土地にする(つまり規約敷地)ことができます。(区分所有法第32条
  この方法は、公正証書により規約で建物の集会室など専有部分にもなりうる部分を「規約共用部分」として設定・登記したのと同様です。

★規約敷地とする効果 → 区分所有法が適用される

 規約敷地とするか否かで、その敷地に対して、区分所有法が適用されるのか、それとも民法が適用されるのかに分かれます。
 当該土地が区分所有者の団体(管理組合)の管理対象となるか否か、敷地に関する権利の分離処分ができるか否か、敷地権の設定ができるか否かが違ってきますので、法定敷地と一体として管理・使用される土地であれば法定敷地と運命を共にさせる意味からも区分所有法の適用を受ける規約敷地とすべきでしょう。
 なお、特に用途のない「空き地」であっても、規約で敷地にできると解されます。

 一度、規約で敷地にした土地は、集会で区分所有者及び議決権の各3/4以上の賛成を得れば、該当の規約を廃止することが可能です。
規約敷地を廃止した場合、該当の土地には、
民法が適用となります。

★規約敷地の登記方法 〜法定敷地と同様にただ「敷地権」と登記される〜
 建物の登記の場合、”規約”共用部分は「共用部分」と登記されますが、土地の登記では、規約敷地としても、「”規約”敷地」という記載の特別な登記があるわけではありません
 不動産登記法での登記簿には、規約によって敷地となっても、法定敷地の登記と同様に「
敷地権」と登記され、建物の専有部分と分離処分ができなくなるだけです。
法定敷地は一定の要件(敷地利用権が全員の共有又は準共有で且つその旨登記されていること)を満たしたときに敷地権の登記が可能ですが、規約敷地も同様な要件の下に敷地権登記が可能であるにすぎません。

<参照>不動産登記法 第44条
(建物の表示に関する登記の登記事項)第1項第9号:

九  建物又は附属建物が区分建物である場合において、当該区分建物について区分所有法第二条第六項 に規定する敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、区分所有法第二十二条第一項 本文(同条第三項 において準用する場合を含む。)の規定により区分所有者の有する専有部分と分離して処分することができないもの(以下「敷地権」という。)があるときは、その敷地権

<参照>不動産登記規則 第118条
(表題部にする敷地権の記録方法)

第百十八条
 登記官は、区分建物である建物の登記記録の表題部に法第四十四条第一項第九号に掲げる敷地権を記録するときは、敷地権の登記原因及びその日付のほか、次に掲げる事項を記録しなければならない。
一 敷地権の目的である土地に関する次に掲げる事項
  イ 当該土地を記録する順序に従って付した符号
  ロ 当該土地の不動産所在事項
  ハ 地目
  ニ 地積
二 敷地権の種類
三 敷地権の割合


<参照>不動産登記法 第46条
(敷地権である旨の登記)

第四十六条  登記官は、表示に関する登記のうち、区分建物に関する敷地権について表題部に最初に登記をするときは、当該敷地権の目的である土地の登記記録について、職権で、当該登記記録中の所有権、地上権その他の権利が敷地権である旨の登記をしなければならない。

注:申請者の申請に任せると、登記漏れが発生するので、登記官が、必ず登記するようにしてある。

<参照>不動産登記規則 第119条
(敷地権である旨の登記)

第百十九条
 登記官は、法第四十六条の敷地権である旨の登記をするときは、次に掲げる事項を敷地権の目的である土地の登記記録の権利部の相当区に記録しなければならない。
   一 敷地権である旨
   二 当該敷地権の登記をした区分建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番
   三 当該敷地権の登記をした区分建物が属する一棟の建物の構造及び床面積又は当該一棟の建物の名称
   四 当該敷地権が一棟の建物に属する一部の建物についての敷地権であるときは、当該一部の建物の家屋番号
   五 登記の年月日

2 登記官は、敷地権の目的である土地が他の登記所の管轄区域内にあるときは、遅滞なく、当該他の登記所に前項の規定により記録すべき事項を通知しなければならない

3 前項の規定による通知を受けた登記所の登記官は、遅滞なく、敷地権の目的である土地の登記記録の権利部の相当区に、通知を受けた事項を記録しなければならない。

(注)第119条2項の「他の管轄区域にあるとき」を読むと、敷地権(敷地利用権)が、マンションから離れた土地も想定していることが分かる。

 単に規約で規約敷地を定めたとしても、登記簿に敷地権の登記をしないと善意の(実情を知らない)相手方に規約敷地であることを対抗(主張)できません。

★なお、区分所有法では「敷地利用権」と呼ぶが、不動産登記法では、”登記された敷地利用権”を「敷地権」と呼んでいる。

★敷地利用権には、
  ・所有権、
  ・借地権(地上権および賃借権) そして、ほとんどありえませんが
  ・使用借権もあります。
 なお、不動産登記法では、この内登記できる権利は、所有権、地上権、賃借権だけで、使用借権は登記できませんから注意してください。(参照:不動産登記法第3条)

<参照> 不動産登記法 (改正あり。配偶者居住権が追加された)
(登記することができる権利等)

第三条  登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。次条第二項及び第百五条第一号において同じ。)についてする。
一  所有権
二  地上権
三  永小作権
四  地役権
五  先取特権
六  質権
七  抵当権
八  賃借権
九 配偶者居住権

十 採石権(採石法 (昭和二十五年法律第二百九十一号)に規定する採石権をいう。第五十条及び第八十二条において同じ。)

★区分所有法での「敷地利用権」が不動産登記法で「敷地権」として登記されると、所有権移転や担保の登記ができない

 建物の専有部分とその専有部分に係わる土地の敷地利用権は、原則として分離処分の禁止(区分所有法第22条)となり、 敷地利用権が不動産登記簿で敷地権として登記 されると、その後は、所有権移転の登記やその敷地権を目的とする担保の登記はできなくなります。(ただし、規約で認めたり、敷地利用権となる前の登記原因は可能)

 法定敷地と同様に、規約敷地の登記簿も閉鎖されたのと同じになり、今後の権利関係の移動は建物の専有部分の登記簿が中心になります。

<参照>不動産登記法 第73条2項、3項

(敷地権付き区分建物に関する登記等)
第七十三条
2項 第四十六条の規定により敷地権である旨の登記をした土地には、敷地権の移転の登記又は敷地権を目的とする担保権に係る権利に関する登記をすることができない。
ただし、当該土地が敷地権の目的となった後にその登記原因が生じたもの(分離処分禁止の場合を除く。)又は敷地権についての仮登記若しくは質権若しくは抵当権に係る権利に関する登記であって当該土地が敷地権の目的となる前にその登記原因が生じたものは、この限りでない。

3項 敷地権付き区分建物には、当該建物のみの所有権の移転を登記原因とする所有権の登記又は当該建物のみを目的とする担保権に係る権利に関する登記をすることができない。
ただし、当該建物の敷地権が生じた後にその登記原因が生じたもの(分離処分禁止の場合を除く。)又は当該建物のみの所有権についての仮登記若しくは当該建物のみを目的とする質権若しくは抵当権に係る権利に関する登記であって当該建物の敷地権が生ずる前にその登記原因が生じたものは、この限りでない。

注:上の、不動産登記法第73条では、「但し書き」まで注意して読んでください。




   


{設問―1} 平成21年 マンション管理士試験 「問1」

〔問 1〕 建物の敷地に関する次の記述のうち、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)の規定によれば、誤っているものは、どれか。

1 一筆の土地に数棟の建物が存するときは、法律上当然に一筆の土地全体がそれぞれ各棟の建物の敷地となることはない。

X 誤っている。 
 この「法律上当然」とは、法文上に規定され、そのまま認められること。
  区分所有法における「建物の敷地」については、同法第2条(定義)5項によると、
  「5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。 」とあり、

 
  
第5条1項は、
  「第五条  区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。」です。


  
第2条5項で規定される「建物が所在する土地」とは、一棟の区分所有建物がその土地の上にあることです。一筆の土地(土地は筆で数えられます)の一部に建物があれば、その土地全体が、建物の敷地となり、数筆の土地にまたがって建物があれば、その数筆の土地の全てが建物の敷地となります。また、一筆の土地の上に数棟の建物があれば、その1筆の土地全体が、各建物それぞれの敷地となります。これらの土地は、法文で定められた土地ですから、法律上当然に建物の敷地(「法定敷地」とも呼ばれます)となります。よって、選択肢1は誤りです。
  次に、第5条1項で規定される土地は、実際にはその上に建物がない場合ですが、管理や使用が法定敷地と一体となっていれば、規約によって、「建物の敷地」とし、法定敷地と同じように扱うことができます。これは、「規約敷地」ともよばれ、規約がなければ「建物の敷地」にはできません。


2 区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理する土地は、法律上当然に建物の敷地となることはない。

○ 正しい。 
「区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理する土地」は、区分所有法第5条1項で規定される土地です。
   この土地は、選択肢1で説明したように、そのままでは建物の敷地となりません。規約がなければ、建物の敷地にはできませんから、法律上当然ではありません。区分所有法で「規約敷地」と呼ばれる土地です。


3 一棟の区分所有建物が所在する土地は、法律上当然に建物の敷地となる。

○ 正しい。 
選択肢1で説明したように、「一棟の区分所有建物が所在する土地」は、区分所有法第2条5項の土地に該当しますから、法律上当然に建物の敷地となります。法定敷地です。


4 建物が所在する土地が一筆のうちの一部であっても、法律上当然に一筆全体が建物の敷地となる。

○ 正しい。 
選択肢1で説明したように、「建物が所在する土地が一筆のうちの一部であっても」、区分所有法第2条5項の土地に該当しますから、法律上当然に建物の敷地となります。これも、法定敷地です。


答え:1 


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第五条
2項  建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となったときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地となったときも、同様とする。
過去出題 マンション管理士 R02年、R01年、H26年、H24年、H15年、
管理業務主任者 R02年、H29年、H26年、

★注意してよく読むこと。「土地」が多くて実に分かりにくい。よくこんな文章を造ったものだと、立法者をうらみ、これをちゃんと解釈する学者を尊敬します。

★以前建物があれば(区分所有法第2条5項の「法定敷地」である)、地震や災害で建物の一部が破壊されて建物がなくなっても、その土地はもとのマンションの敷地と”みなす”。また、建物が無くて空いていた土地を分割しても、マンションの敷地と”みなす”

滅失とは...物がその効用を失う程度に破壊されること。

みなす...Aは本来Bではないが、法律的に同一とする。法律上当然になる。この「みなす」により、いかなる反論もできない。
         (参考:推定する...当事者が反証できれば効果がなくなる。)

★この規定がないと、区分所有法で折角、土地と建物とを一体化した原則が、その後の建物の一部滅失などで崩れてしまい、土地だけ別の所有者が現われる可能性がある。これでは、復旧や建替えも困難になるので規定した。

★土地の上に建物がなくなったので、区分所有法で定める法定の敷地でなくなる。すると、第三者からはマンションの敷地でないと認識されてトラブルが発生するかもしれないので、それに準じた規約敷地と”みなし”て対応する。

★また、以前は建物があった1筆の敷地が登記簿上で新しく分割(分筆ともいいます)され、マンションが建っていなくなっても、これも当然に規約で敷地にしたと”みなす”。
これは、土地の分割後に建物の専有部分を購入した区分所有者も元の区分所有者と同じように全部の土地を共有できるようにしてトラブルを防ぐための規定。

「みなし規約敷地」とも呼ばれる。(一部滅失後に、特に新しく規約で敷地と規定しなくても敷地として扱うこと(みなす)になる。)

★建物の一部滅失や分割(分筆)の場合の法定敷地の取り扱い。

  法定敷地は建物がその上に現実に建っているという状況と建物の登記の敷地の所在の表示で建物の敷地であることを公示していますが、マンションの建築後に、災害等より建物の一部が損壊した場合や、事情により土地を分割(分筆と同じ)した登記上の変更により建物がその土地の上に所在する土地でなくなる場合も稀でしょうがありえます。

 その場合の対応を考えてみましょう。
 区分所有法で規定する「法定敷地」という概念は、もともと建物の専有部分の権利と一体化した敷地として管理・使用されていた土地ですから、滅失などの状況の変化で建物の一部がなくなり、もとの法定敷地の規定に該当しなくなった土地となっても原則として建物の敷地の要件は満たすものと考えられます。

 このような考えから、本第5条2項では建物の一部滅失や土地の分割により、その土地の上に建物がなくなった以上該当の土地は、区分所有法で定める法定敷地には該当しなくなりますが、それに準じた規約敷地として扱うことにしたものです。

 「その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものと”みなす”」の規定は、法律の「みなし規定」の効力がありますから法律上当然に規約敷地が生じ、建物の一部滅失や土地の一部分割などの状況が発生したときに、別途規約を設定することを必要としません

★規約敷地とみなす効果 → 区分所有法が依然として適用される
 この規約敷地とみなす効果として、建物の一部滅失や土地の一部分割があっても、区分所有法第22条の適用があり、敷地利用権は原則として専有部分の処分と分離できなくなっています。(規約で別段の定めはできます。)

 しかし、建物の敷地が広大な土地の一部であるような特殊な場合には、分割後に建物やその法定敷地と、もともと一体性のない部分にはこの規定の効力は及ばないものと思われますし、規約敷地だった土地の場合は建物の一部滅失に影響されることはなく、土地が分割されても当該土地全部が規約敷地であることは当然ですからこのようなみなし規定は必要ありません。

★なお、この規定により、法定敷地であった一部を分割して処分しようとするときには、区分所有法第31条1項(規約の廃止)に該当するため、この「みなされた規約」を区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による特別決議により廃止する必要があります。

<参照>区分所有法 第31条:(規約の設定、変更及び廃止)

第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。

  



{設問―1} 平成26年 管理業務主任者試験 「問34」

【問 34】 敷地に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 建物の敷地とは、建物が所在する土地(以下、本問において「法定敷地」という。)及び区分所有法第5条第1項の規定により、規約で敷地と定めた土地(以下、本問において「規約敷地」という。)を指す。

○ 正しい。 平成25年マンション管理士試験 「問1」平成21年マンション管理士試験 「問1」

 建物の敷地とは、区分所有法第2条5項及び第5条
 「(定義)
  第二条  この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
   2  この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
   3  この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
   4  この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
   
5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう
   6  この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。 」
 とあり、
 5項で引用されています、区分所有法第5条は、

 「(規約による建物の敷地) 
  第五条  
区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。
   2  建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となつたときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められた ものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地となつたときも、同様とする。 」 
です。
 第2条5項で規定されます「建物が所在する土地」とは、実際にその土地の上にマンションが建っている土地(1筆でも数筆にまたがっていてもかまいません)で、これは、法定敷地と呼ばれます。
 次に引用されています第5条1項は、実際にはその土地の上にはマンションは建っていませんが、そのマンションの付近にある駐車場や遊園地をマンションと 一緒に管理するなら、規約があれば、もうそのマンションの敷地として管理を簡単にしようとするものです。この土地は「
規約敷地」と呼ばれます。 正しい。

 
2 法定敷地は、数筆の土地であっても構わず、また、同土地は同一の者に帰属することを要しない。

○ 正しい。
 選択肢1でも説明しましたように、区分所有法第2条5項
 
「 5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地」 (法 定敷地)とあり、この要件としましては、ただ、土地の上に建物(マンション)があるだけですから、実際には、1筆(土地は筆でよばれます)の土地の上でも よく、また、数筆の土地の上に、1棟の建物が建っていてもかまいません。また、複数の土地にまたがっている場合に、地主が、単一の人でなくてももかまいま せんから、正しい。


3 規約敷地は、区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用する庭、通路その他の土地を指すが、建物が所在する土地の隣接地でなくともよい。

○ 正しい。
 規約敷地は、選択肢1でも説明しましたように、区分所有法第5条1項
 「第五条  区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。」 とあり、
 要件としましては、「区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地」だけで、その土地が特に、建物と隣接していなくてはならないとはありませんから、正しい。 
  しかし、いくら建物に隣接しなくてもいいといっても、東京にあるマンションが北海道の土地を規約でそのマンションの敷地とするのは、かなり問題があります。



4 法定敷地である甲乙二筆の土地にまたがって建っている建物のうち、甲地に所在する建物(建物の価格の2分の1以下に相当する)部分が全部滅失してし まった場合、甲地に所在した当該建物部分を復旧するためには、区分所有者の団体は、まず集会を開いて甲地を規約敷地にしなければならない。

X 誤っている。 もうすでに、規約がなくても規約敷地になっている(みなされている)。  平成26年マンション管理士試験 「問26」平成24年マンション管理士試験 「問10」

  選択肢1でも引用しました、区分所有法第5条2項
 「2  
建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となつたときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地となつたときも、同様とする。 」 があります。
  この規約は、まさに設問のように、法定敷地である甲乙二筆の土地にまたがって建っている建物のうち、甲地に所在する建物部分が全部滅失してしまった場合のような状態を想定しています。

この場合、もう既に建物の部分がなくっている甲地であっても、実際の規約がなくても、「みなし規約敷地」として建物の敷地の扱いを受けますから、復旧にあたって、集会を開いて甲地を規約敷地にする必要はありませんから、誤りです。
 このまま、滅失した建物部分の復旧の決議ができます。

 
答え:4  それほど難しくはない出題です。


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(区分所有者の権利義務等)

第六条

1項 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
過去出題 マンション管理士 H27年、H26年、H25年、H24年、H23年、H21年、H19年、H17年、H16年、H14年、
管理業務主任者 H14年、

★いままでの区分所有法の規定は、建物と土地についての規定でしたが、この第6条では、マンションの居住者として、共同生活上守らなければならない規則(ルール)があることを明示しています。

★建物の「保存に有害な行為」とは...建物の一部を取壊して建物全体の安定度を弱める行為など

★建物等の「管理」に関する事項とは...共用部分の清掃や補修、建物等の管理費・修繕積立金の負担割合・額・支払時期・徴収方法・共用部分に関する税金その他の諸経費の支払いなど建物等を維持してゆくために必要又は有益な事項をいいます。そのほか、区分所有者の団体(管理組合)の組織、運営等に関する事項も建物の管理に関する事項として規約で定めることができます。

★建物等の「使用」に関する事項とは...動物の飼育やピアノの演奏に関する事項など専有部分の使用方法に関する規制とか、駐車場、倉庫等の使用方法、駐車料など敷地、共用部分の使用方法や対価等に関する事項をいいます。

共同の利益とは...各区分所有者が共同に持っている利益とは、所有物(資産価値、使用価値と交換価値の双方を含みます。)を維持し、これを自由に使用・収益・処分できることと考えることができます。

★区分所有者の義務 〜共同の利益に反する行為はしては、いけない〜
  第6条は、区分所有者としての権利・義務規定です。
 このうち1項は義務を、2項は一定の権利とそれに付随する義務を、3項で占有者(賃借人など)の義務を規定しています。 

 区分所有者は、区分所有建物内で、専有部分に関しては、区分所有権を持っていて、区分所有権により民法の所有権のように専有部分は自由に使用・売買・賃貸・抵当権の設定などの処分はできます。
また、出入り口や廊下・階段などの共用部分については用方に従って使用できます(区分所有法第13条)が、区分所有建物では他の人たちとの共同生活をおくっているために、団体の一員として、他の人に迷惑をかけてはいけないという義務があるという規定が1項です。

共同の利益に反する行為とは、  〜 どうして、この規定が必要か 〜

 大変に重要なことですが、マンションは、戸建と異なり、壁・床・天井で隣室・上下の室とつながり、エントランスホール、階段、エレベーターなどは、他の居住者と共に使用します。このため、戸建と違って自由・気ままに生活することができないと制限規定(義務)を設けています。

 他にも、共同生活を維持するために、マンションでは騒音・異臭対応や管理費を滞納してはいけないなど守ることが多くあります。これは、マンションでは重要な規定です。



 マンションを購入する人は、鍵をかければ近隣との付き合いから逃れられると思っていると大きな間違いです。

 マンション管理士は、マンションに住むと、この共同生活上の制限規定があることを、マンションの購入者に説明してあげましょう。
 マンションの販売業者は、マンションに住むと様々な制限規定があることを最初から告げると売り難くなるりので、この部分は説明しません。

 第6条で規定する「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用での共同の利益に反する行為」としては、
 1. 積極的に共同の利益を侵害する行為 と
 2. 消極的に共同の利益を守らない行為 に分けることができ、

 1.積極的に共同の利益を侵害する行為は、さらに
   @所有物たる建物(専有部分を含む。)を毀損しその価値を減少させる行為 と
   A他人の所有権の行使を妨害する行為 に分けることができます。

 2.消極的に共同の利益を守らない行為は、
   B区分所有者として負担する諸義務の履行を怠る行為 のことです。

 @所有物たる建物(専有部分を含む。)を毀損しその価値を減少させる行為の例としては、壁を壊すなど建物を物理的に毀損したり汚損する行為、看板を出すなど美観を毀損する行為等により建物の交換価値や使用価値を減少させる行為です。

 A他人の所有権の行使を妨害する行為の例は、ピアノやステレオの騒音、振動等により他人の専有部分の円滑な使用を妨害したり、廊下など共用部分に個人の物品を廃棄・放置する等により他人の使用を妨害する行為等がこれにあたります。

 B区分所有者として負担する諸義務の履行を怠る行為の例は、管理費・修繕積立金等負担金の支払い義務の不履行、決められた用方違反、その他管理規約や使用細則に定められた義務の違反行為が広くこれに該当すると思われます。 

 また、最近の傾向として、上記以外の、騒音・振動・悪臭やプライバシー(名誉棄損など人格権)の侵害を、独立した範疇に分け、ニューサンス(生活妨害)・プライバシー侵害として、積極的に、第6条に規定する「共同の利益に反する行為」に取り込む動きがあります。

 区分所有者はこの第6条のほかにも、規約に禁止事項などがあれば、規約に基づく義務も発生することがあります。(区分所有法第30条参照)

 裁判に持ち込まれた場合に何が「共同の利益に反する行為」かは、その行為の必要性の程度によって、他の区分所有者が被る不利益の様態、程度等の諸事情を比較衡量して決められます。
(東京高等裁判所:昭和53年2月27日)

★共同の利益に反する行為とは

★判断基準
  その行為の必要性の程度によって他の区分所有者が被る不利益の様態、程度等の様々な事情を比較衡量して決める。

{具体的な例-1}
  ・耐力壁の撤去、
  ・専有部分に爆発物(危険物)の持ち込み、
  ・住居専用使用と決めているのに事務所・店舗とする、
  ・廊下や階段室に私物を置く、
  ・勝手に自動車を停める、
  ・外壁やベランダに家庭教師の宣伝用看板を取り付ける、
  ・プライバシーの侵害、
  ・騒音、悪臭の発散
  ・猛獣や規約で禁止されているペットの飼育
  ・バルコニーに大型のサンルームを設置する
 などが「共同の利益に反する行為」

{例-2}管理費等の滞納が原因で、建物の修繕に重大な支障が生ずるような状況に至っている場合は、この滞納は、建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為に当たる。

{例-3}占有者が野鳩に餌付けをして、飼育をしていて他の居住者の迷惑になり、使用賃貸借契約の解除、占有者の退去、占有者に対する損害賠償請求が認められた。

{例-4}役員への誹謗・中傷でも共同の利益に反することもある。
 マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、区分所有法第6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるというべきである。(平成24年 1月17日:最高裁判決

占有者(借りている人、また不法占拠者)も入る。(第6条3項で準用)

★義務違反者に対しては、区分所有法第57条以下で出てくる、「行為の停止(第57条)、専有部分の使用禁止(第58条)、区分所有権及び敷地利用権の競売(第59条)、占有者に対する引渡し請求(第60条)」もある。

★ 多くの出題は、この第6条と第57条以下第60条までの「義務違反者に対する措置」に絡んで出題されます。
   何が、共同の利益に反するかは、マンションにより異なるため、判例も多く、判例からも出題がありますので、注意しておいてください。

★強行規定
 第6条は当事者が欲していなくても適用される強行規定です。この規定に反する規定は、無効となります。
 マンションの規約や合意で区分所有法第6条を変更したり排除することはできません。
   しかし、規約で第6条の「共同の利益に反する行為」と違反時の制裁措置は具体的に定めていい。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第3条:(規約及び総会の決議の遵守義務)  

第3条 区分所有者は、円滑な共同生活を維持するため、この規約及び総会の決議を誠実に遵守しなければならない。
2. 区分所有者は、同居する者に対してこの規約及び総会の決議を遵守させなければならない。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第5条:(規約及び総会の決議の効力) 

第5条 この規約及び総会の決議は、区分所有者の包括承継人及び特定承継人に対しても、その効力を有する。
2. 占有者は、対象物件の使用方法につき、区分所有者がこの規約及び総会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。

<参考>「標準管理規約(単棟型) 第5条関係コメント  

包括承継は相続、特定承継は売買及び交換等の場合をいう。賃借人は、占有者に当たる。


{設問} 平成19年 マンション管理士試験 「問3」

〔問 3〕 区分所有法第6条の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当しないものは、区分所有法の規定によれば、次のうちどれか。

1 自己の専有部分への危険物持ち込み

→ 該当する。 
 区分所有法第6条1項には「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」とあり、共同の利益に反する行為としては、
   ・耐力壁の撤去、
   ・爆発物の持ち込み、
   ・住居専用使用と決めているのに事務所・店舗とする、
   ・廊下や階段室に私物を置く、
   ・勝手に自動車を停める、
   ・外壁やベランダに家庭教師の宣伝用看板を取り付ける、
   ・プライバシーの侵害、
   ・騒音、悪臭の発散
などがあげられ、危険物を自己の専有部分に持ち込むことは、該当する。


2 管理者の人格を中傷するビラの配布

→ 該当しない。→ 該当するに変更に。 
 区分所有法第6条で規定する「共同の利益に反する行為」は、複数の人に影響を及ぼす行為であり、管理者の人格を中傷するビラの配布は、特定の個人に関する行為であるため、該当しない。ただし、管理者に対する不法行為(民法第709条)に該当する場合はある。(注:この選択肢は、上の解説であげた平成24年の最高裁判決に抵触することになったため、変更になる。)(平成24年 1月17日:最高裁判決


3 規約で禁止された動物の飼育

→ 該当する。 
 他の区分所有者が被る不利益(鳴き声による騒音、悪臭など)が大きい。規約で禁止されているにもかかわらず、動物を飼うことはできない。


4 ベランダへの無許可の看板の設置

→ 該当する。 
 選択肢1で述べたように、ベランダに、看板を設置すると、落下の危険性、美観の侵害など、他の区分所有者が被る不利益が大きいため、ベランダには、勝手に看板は設置できない。


以前の答え:2 (平成19年の正解は選択肢2だったが、平成24年の最高裁の判決で、正解なしになる。)


★後から出てくる、第57条以下の義務違反者との関係について
  まだ、勉強を始めたばかりで、この区分所有法第6条の持つ「共同の利益に反する行為の禁止」が、いかに通常の
民法で守られている「所有権」や「財産権」を制限しているかの怖さが分からないと思います。

 例として、ペットの飼育で想像してください。
 戸建に住んでいれば、犬や猫を飼っても、近所からは、鳴き声がうるさいとか嫌な臭いがするなどと文句を言われても、「ああ、そうですか」って程度に聞き流すことができますが、マンション生活では、それだけではすみません。

  まず、犬や猫を飼っていいかどうかの規約があります。もし、犬や猫を飼うことが禁止されていれば、大金を払って購入した自分のマンションでも、犬や猫を飼うことができません。
 次に、犬や猫を飼うことが許されていて、犬を飼ったとしても、多くのマンションでは、その大きさが足元から背中まで何cmなどの制限があります。通常のマンションでは大型犬は飼うことが制限されています。
  さらに、マンションの通路やエレベーター内では、ペットは抱きかかえることなどの、面倒なきまりがあります。

 ペット問題だけでなく、騒音や自転車の置き方など、この第6条が持つ「共同の利益に反する行為の禁止」は、内容が深いですよ。


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第六条
2項  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
過去出題 マンション管理士 H23年、
管理業務主任者 未記入

保存行為...現状維持。修繕工事などで共用部分(廊下・広場など)は当然に使用できる。また、必要なら、他の人の室も使える。

   ただし、その行為で損害を与えた時は、損害弁償をすること。

★区分所有者が持っている権利で、最も重要なものは区分所有権の目的である、建物の「専有部分」を使用できる権利ですが、専有部分はその建物の壁や柱などの躯体から電気・ガス・水道・排水など諸設備にいたるまで他の人の専有部分や共用部分と密接に関連しあって存在しています。

 例えば、水漏れ事故があれば、原因と考えられる配管の調査や修理で上または下の階の専有部分への立ち入りが必要になります。
この場合に、上や下の階の専有部分への立ち入りができないと区分所有者相互の建物の保存・利用に支障をきたし、また社会的にも不経済なことになりますから、本2項で限定された「その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内」での立ち入り権=使用を認めています。

 これは民法で定める相隣関係(民法第209条以下を参照)と同様の考え方ですが、民法では、隣人の承諾がなければ認めていない他人の建物内(住家)への立ち入りを認める点で民法の特則となっています。

<参照>民法 第209条 (隣地の使用請求) (改正あり。令和5年4月1日施行)

第二款 相隣関係

(隣地の使用)
第二百九条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
   一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
   二 境界標の調査又は境界に関する測量
   三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り

2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

4 第一項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。


---------------------------------------------------------------------
 <旧 民法 第209条>


第二百九条
 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができるただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。

2  前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

 本第6条2項の対象となるのは他人の専有部分のほか、自己が権利を有しない一部共用部分です。
自己が権利を有する共用部分はその権利に基づき当然に使用することができるのでこのような定めは必要ありません。

★相手方が、立ち入りを拒んだら?
  立ち入り請求の相手方は、現に対象となる専有部分や共用部分を使用している区分所有者かその専有部分が賃貸になっていれば、借主となります。
 立ち入り請求の相手方が立ち入りを承諾すれば、それでいいのですが、立ち入りを拒絶することも考えられます。
 立ち入りが拒絶されれば、面倒ですが、過去の
民法の理論では訴訟を起こして、承諾に代わる判決が必要となると解釈されます。

 *相手の承諾は必要か?
   マンションで水漏れなどの事故があって、立ち入り請求の相手方が立ち入りを承諾しない場合にも、訴訟を起こして、承諾に代わる判決をもらうなんて悠長なことをしていていいのでしょうか?
   マンション(区分所有建物)では、多くの事柄は
民法の戸建の理論や共有関係の理論を排除し団体法としての特色を持つ区分所有法であれば、ここは、もっと共同生活における「緊急事態」や「規約違反」での専有部分への立ち入りに対する明確な規定が望まれます。

  なお、標準管理規約では、23条において、「立入りを請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない」としています。

★償金の支払い
  区分所有者が他の区分所有者の専有部分等を使用して、損害を与えたら、その損害を賠償します。
 この損害賠償責任には、故意・過失があることを要しないと考えられます。

★区分所有者は他の人の専有部分の使用請求が出来るが、占有者(借りている人)からは請求できない。占有者が問題を見つけたときは、持ち主(区分所有者)に話して、解決する。

 ★保存行為などの詳細は、第17条(共用部分の変更)を参照。


<参考>「標準管理規約(単棟型)」20条:(区分所有者の責務)  

第20条 区分所有者は、対象物件について、その価値及び機能の維持増進を図るため、常に適正な管理を行うよう努めなければならない。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」21条:(敷地及び共用部分等の管理)  

第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。

ただし、バルコニー等の保存行為(区分所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

 2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。

 3 区分所有者は、第1項ただし書の場合又はあらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けた場合を除き、敷地及び共用部分等の保存行為を行うことができない。ただし、専有部分の使用に支障が生じている場合に、当該専有部分を所有する区分所有者が行う保存行為の実施が、緊急を要するものであるときは、この限りでない。
 4 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「保存行為」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事後に、当該工事」とあるのは「第21条第3項の承認を受けた保存行為後に、当該保存行為」と読み替えるものとする。

 5 第3項の規定に違反して保存行為を行った場合には、当該保存行為に要した費用は、当該保存行為を行った区分所有者が負担する。

 6 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。

<参考>標準管理規約(単棟型) 21条 コメント; 

@ 第1項及び第3項は、区分所有法第18条第1項ただし書において、保存行為は、各共有者がすることができると定められていることに対し、同条第2項に基づき、規約で別段の定めをするものである。

A 駐車場の管理は、管理組合がその責任と負担で行う。

B バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担において行わなければならないのは、計画修繕等である。

C 本条第1項ただし書の「通常の使用に伴う」保存行為とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入替え等である。

D バルコニー等の経年劣化への対応については、Bのとおり管理組合がその責任と負担において、計画修繕として行うものである。  ただし、バルコニー等の劣化であっても、長期修繕計画作成ガイドラインにおいて管理組合が行うものとされている修繕等の周期と比べ短い期間で発生したものであり、かつ、他のバルコニー等と比較して劣化の程度が顕著である場合には、特段の事情がない限りは、当該バルコニー等の専用使用権を有する者の「通常の使用に伴う」ものとして、その責任と負担において保存行為を行うものとする。なお、この場合であっても、結果として管理組合による計画修繕の中で劣化が解消されるのであれば、管理組合の負担で行われることとなる。

E バルコニー等の破損が第三者による犯罪行為等によることが明らかである場合の保存行為の実施については、通常の使用に伴わないものであるため、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、同居人や賃借人等による破損については、「通常の使用に伴う」ものとして、当該バルコニー等の専用使用権を有する者がその責任と負担において保存行為を行うものとする。

F 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
 配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである
なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。

G 第3項ただし書は、例えば、台風等で住戸の窓ガラスが割れた場合に、専有部分への雨の吹き込みを防ぐため、割れたものと同様の仕様の窓ガラスに張り替えるというようなケースが該当する。また、第5項は、区分所有法第19条に基づき、規約で別段の定めをするものである。承認の申請先等は理事長であるが、承認、不承認の判断はあくまで理事会の決議によるものである(第54条第1項第五号参照)。

H 区分所有法第26条第1項では、敷地及び共用部分等の保存行為の実施が管理者(本標準管理規約では理事長)の権限として定められている。第6項では、災害等の緊急時における必要な保存行為について、理事長が単独で判断し実施できることを定めるものである。災害等の緊急時における必要な保存行為としては、共用部分等を維持するための緊急を要する行為又は共用部分等の損傷・滅失を防止して現状の維持を図るための比較的軽度の行為が該当する。後者の例としては、給水管・排水管の補修、共用部分等の被災箇所の点検、破損箇所の小修繕等が挙げられる。この場合に必要な支出については、第58条第6項及びコメント第58条関係Dを参照のこと。

I 災害等の緊急時において、保存行為を超える応急的な修繕行為の実施が必要であるが、総会の開催が困難である場合には、理事会においてその実施を決定することができることとしている(第54条第1項第十号及びコメント第54条関係@を参照。)。しかし、大規模な災害や突発的な被災では、理事会の開催も困難な場合があることから、そのような場合には、保存行為に限らず、応急的な修繕行為の実施まで理事長単独で判断し実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。更に、理事長をはじめとする役員が対応できない事態に備え、あらかじめ定められた方法により選任された区分所有者等の判断により保存行為や応急的な修繕行為を実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。なお、理事長等が単独で判断し実施することができる保存行為や応急的な修繕行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。

J 第6項の災害等の緊急時における必要な保存行為の実施のほか、平時における専用使用権のない敷地又は共用部分等の保存行為について、理事会の承認を得て理事長が行えるとすることや、少額の保存行為であれば理事長に一任することを、規約において定めることも考えられる。その場合、理事長単独で判断し実施することができる保存行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」22条:(窓ガラス等の改良) 

第22条 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。

2 区分所有者は、管理組合が前項の工事を速やかに実施できない場合には、あらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができる。

3 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「第22条第2項の工事」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事」とあるのは「第22条第2項の承認を受けた工事」と読み替えるものとする。

<参考>「標準管理規約(単棟型) 第22条関係コメント  

@ 窓枠、窓ガラス及び玄関扉(玄関扉にあっては、錠及び内部塗装部分を 除く。以下「開口部」という。)については、第7条第2項第二号及び第 三号において専有部分に含まれないこととされていること、専有部分に属 さない「建物の部分」については、第8条に基づく別表第2において共用 部分とされていることから、開口部は共用部分として扱うこととなる。

A また、区分所有法は、その形状又は効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更について、集会の普通決議により決することを定めている。

B 第1項は、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上のため行われる開口部の改良工事については、原則として、他の共用部分と同様に計画修繕の対象とすべき旨を規定したものである。

C 第2項は、開口部の改良工事については、治安上の問題を踏まえた防犯 性能の向上や、結露から発生したカビやダニによるいわゆるシックハウス 問題を改善するための断熱性の向上等、一棟全戸ではなく一部の住戸にお いて緊急かつ重大な必要性が生じる場合もあり得ることに鑑み、計画修繕 によりただちに開口部の改良を行うことが困難な場合には、専有部分の修 繕等における手続と同様の手続により、各区分所有者の責任と負担におい て工事を行うことができるよう規定したものである。 承認の申請先等は理事長であるが、承認、不承認の判断はあくまで理事 会の決議によるものである(第54条第1項第五号参照)。

D また、第2項及び第3項は、マンションでは通常個々の専有部分に係る開口部(共用部分)が形状や材質において大きく異なるような状況は考えられないことから、当該開口部の改良工事についてもその方法や材質・形 状等に問題のないものは、施工の都度総会の決議を求めるまでもなく、専有部分の修繕等における手続と同様の手続により、各区分所有者の責任と 負担において実施することを可能とする趣旨である。承認申請の対象範囲、審査する内容等の考え方については、別添2を参照されたい。

E 「共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するもの」の工事の具体例としては、防犯・防音・断熱性等により 優れた複層ガラスやサッシ等への交換、既設のサッシへの内窓又は外窓の増設等が考えられる。

F 本条の規定のほか、具体的な工事内容、区分所有者の遵守すべき事項等 詳細については、細則に別途定めるものとする。その際、上述の別添2の 内容についても、各マンションの実情に応じて、参考にするとともに、必 要に応じて、専門的知識を有する者の意見を聴くことが望ましい。

G 申請書及び承認書の様式は、専有部分の修繕に関する様式に準じて定め るものとする。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」23条:(必要箇所への立入り) 

第23条 前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる。

2 前項により立入りを請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。

3 前項の場合において、正当な理由なく立入りを拒否した者は、その結果生じた損害を賠償しなければならない。

4 前3項の規定にかかわらず、理事長は、災害、事故等が発生した場合であって、緊急に立ち入らないと共用部分等又は他の専有部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがあるときは、専有部分又は専 用使用部分に自ら立ち入り、又は委任した者に立ち入らせることができる。

5 立入りをした者は、速やかに立入りをした箇所を原状に復さなければならない。

<参考>「標準管理規約(単棟型) 第23条関係コメント  

(第4項関係)
@ 第4項の緊急の立入りが認められるのは、災害時等における共用部分に係る緊急的な工事に伴い必要な場合や、専有部分における大規模な水漏れ等、そのまま放置すれば、他の専有部分や共用部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがある場合に限られるものである。

A 第4項の規定の実効性を高めるため、管理組合が各住戸の合い鍵を預かっておくことを定めることも考えられるが、プライバシーの問題等があることから、各マンションの個別の事情を踏まえて検討する必要がある。


{設問-1} 平成23年 管理業務主任者試験 「問6」

【問 6】 甲マンションと乙マンションの各敷地が隣接している場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 甲マンションの管理組合は、乙マンションの敷地との境界又はその付近において、 甲マンションを修繕するため必要な範囲内で、乙マンションの敷地の使用を請求することができる。

○ 正しい。 
 この設問は、突き詰めていくと、区分所有法第3条で規定される、区分所有者の団体の存在と管理組合の権限などで不適切ですが、単純に「所有者=管理組合」と判断して、解説します。(参考:平成23年 マンション管理士試験 「問14」 )
   土地や建物の所有権の近隣との関係(限界)を規定しているのは、民法第209条以下があります。ここは、「相隣関係」と呼ばれます。
   設問の隣地の使用請求は民法第209条
 「(隣地の使用請求)
  第二百九条  土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
   2  前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。」
とあり、
建物を修繕するため必要な範囲内で、乙マンションの敷地の使用を請求することができます。では、請求しても、相手が承諾しないとどうなりますか?(参考:民法第414条但し書き)


2 境界線上に設けられた障壁は、甲マンションの管理組合と乙マンションの管理組合の共有に属するものと推定される。

○ 正しい。 
 障壁とは、隣接した土地の間に設けられた壁などです。これは、民法第229条
 「(境界標等の共有の推定)
  第二百二十九条  境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。」
とあり、
特に決めていない場合には、甲マンションの管理組合と乙マンションの管理組合の共有に属するものと推定されます。(”推定”です。”みなす”との違いに注意のこと。)


3 甲マンションの管理組合は、乙マンションの管理組合と共同の費用で、境界標を設けることができる。

○ 正しい。 
境界標を設けたければ、民法第223条
 「(境界標の設置)
  第二百二十三条  土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。」
とあり、
費用を共同にして、設けられます。


4 甲マンションの管理組合は、乙マンションの敷地の樹木(乙マンションの管理組合の所有)の枝が境界線を越えるときは、その枝を自ら切除することができる。

X 誤っている。 
 昔から民法の問題で出る初歩的な箇所。隣地から伸びてきた根と枝の関係は、民法第233条
 「(竹木の枝の切除及び根の切取り)
  第二百三十三条  隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
   2  隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。」
とあり、
1項によると、隣地の木や竹の枝が境界線を越えてきても、勝手に切ってはいけません。一応、隣地の所有者に話して、切ってもらうことになっています。(じゃあ、根が侵入したら? その木が柿の木で、実が熟して、落ちてきたら、勝手に食べていい?)


答え:4 (またまた、新しい民法の条文からの出題だ。ここは、厳密には管理組合=所有者とすることには問題がありますが。単純に、とらえれば、いい?)


{設問-2} 平成24年 マンション管理士試験 「問28」

 *注:標準管理規約は平成28年3月に改正があり、解説において未対応がありますから、注意してください。

〔問 28〕 規約で小鳥・鑑賞用魚類以外の動物の飼育を禁止しているマンションにおいて、区分所有者Aから専有部分を賃借しているBが、室内で体長約65cmの雑種犬2匹を飼育し、敷地内で犬を散歩させて通行人に吠えかかって恐怖感を与えたり、抜け毛や悪臭を発生させたりする等居住者に多大の迷惑をかけている。この場合において、管理組合としてとり得る措置に関する次の記述のうち、区分所有法の規定及び標準管理規約によれば、適切でないものはどれか。

1 理事長は理事会の決議を経れば、規約に違反しているとして、Bに対し、犬の飼育を止めるよう勧告することも、犬の飼育の差止めを裁判所に請求することもできる。


X 適切でない! 平成23年 マンション管理士試験 「問32」 選択肢2 、平成23年 マンション管理士試験 「問28」 、 平成22年 管理業務主任者試験 「問36」 選択肢2 、 平成21年 管理業務主任者試験 「問34」 、参考: 平成21 マンション管理士試験 「問26」 。 
  
 この設問、マンションおける「規約違反者に対する行為の中止」を裁判所に求める(差止め請求)ことが、理事会の決議だけでできるのか、それとも、集会(総会)の決議が必要かは、非常に問題のある出題だと、過去から私が指摘してきたものです。
 まず、設問のような規約違反者に対する標準管理規約は、67条にあります。
  標準管理規約67条 (平成28年3月の改正でも変更なし。)
 「(理事長の勧告及び指示等)
  第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若 しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
    2 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。
    3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分 所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
      一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
      二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること
    4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
    5 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納 金は、第27条に定める費用に充当する。
    6 理事長は、第3項の規定に基づき、区分所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならな い。この場合には、第43条第2項及び第3項の規定を準用する。」
 とあり、
 3項が該当しています。
 この標準管理規約67条3項によりますと、「区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したときは、理事長は、理事会の決議を経て、行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、 管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること」となり、集会の決議を経ないで、理事会の決議だけで、訴訟ができます。
 この標準管理規約67条は、区分所有法第26条4項
 「(権限)
  第二十六条
      4  管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。 」
 を受けて、設けた規定のようです。
 しかし、区分所有法第57条は、
 「(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
  第五十七条  区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
   2  前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
   3  管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
   4  前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。」、
 とあり、
 2項では、区分所有法第6条に規定されている「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」を訴訟にするには、必ず、集会の決議が必要で、理事会だけの決議ではできないとしています。

 そこで、「規約違反」という設問と、どこまでが管理者(理事長)の職務に該当するかが曖昧なのです。標準管理規約の創案者の頭には、一応、「規約事項」と「区分所有法第57条から第60条」は別だという考え方はあったようですが、規約には、区分所有法第6条で規定される「共同の利益」に反する内容も規定されているために、単純に上で引用しています、標準管理規約67条3項を適用して、理事会の決議だけでいいとはいえないのです。標準管理規約67条3項の表現は、区分所有法第57条に抵触しているため、内容を明確にした変更が必要です。
 そこで、該当の個所は、私も、標準管理規約を定めた国土交通省にメールをだし、標準管理規約67条をもっと明確に整備するよう要請したのですが、回答はなく、国土交通省でのマンション標準管理規約の改正概要案(平成22年12月24日)においても、「第66条に定める義務違反者に対する措置と第67条第3項第1号に定める措置の違いについて、各管理組合において混乱が生じている事例も見受けられることから、整理を行った上で記載する。」と発表し、混乱の認識はあるものの、放置しています。
 また、区分所有法第57条に該当するとなると、標準管理規約48条10号では、総会の決議事項としてある点も参考にしてください。
 「(議決事項)
  第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
     一 収支決算及び事業報告 二 収支予算及び事業計画
     三 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
     四 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止
     五 長期修繕計画の作成又は変更
     六 第28条第1項に定める特別の管理の実施並びにそれに充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し
     七 第28条第2項に定める建物の建替えに係る計画又は設計等の経費のための修繕積立金の取崩し
     八 修繕積立金の保管及び運用方法
     九 第21条第2項に定める管理の実施
     十 区分所有法第57条第2項及び前条第3項第三号の訴えの提起並びにこれらの訴えを提起すべき者の選任
     十一 建物の一部が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧
     十二 区分所有法第62条第1項の場合の建替え
     十三 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
     十四 組合管理部分に関する管理委託契約の締結
     十五 その他管理組合の業務に関する重要事項」
 なお、賃借人であるBも、占有者として、規約で決められたことや、集会の決議は、区分所有法第46条
 「(規約及び集会の決議の効力)
  第四十六条  規約及び集会の決議は、区分所有者の特定承継人に対しても、その効力を生ずる。
     2  占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」
 とあり、
 2項により、区分所有者と同様に、占有者も規約で決められたことや、集会の決議を守る義務はありますから、理事長の犬を飼うなとの勧告の部分については妥当ですが、現在の状況では、犬の飼育の差止めを裁判所に請求することは、理事会の決議だけではできず、集会(総会)の決議が必要とすべきですから、適切ではありません。


2 理事長は、Bの犬の飼育行為が再三の注意勧告にもかかわらず止まないため、区分所有者の共同の利益に反する行為に当たるとして、総会の決議に基づき、その差止めを裁判所に請求することができる。


○ 適切である。 総会の決議があれば、いい。
  設問が「犬の飼育行為が再三の注意勧告にもかかわらず止まないため、区分所有者の共同の利益に反する行為に当たる」としていることにも注意。出題者の意図として、「犬の飼育行為の禁止」の規約事項が、「区分所有者の共同の利益に反する行為にも当たる(区分所有法第6条)」との重複した認識があるとなると、選択肢1の「規約違反」との関係が、微妙に変化する。
  占有者である賃借人Bも、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはいけません。それが、区分所有法第6条
 「(区分所有者の権利義務等)
  第六条  区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
     2  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
     3  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。 」
 とあり、
 3項に規定されています。
 その違反となると、選択肢1でも引用しました区分所有法第57条
 「(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
  第五十七条  区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
   2  前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
   3  管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
   4  前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。」、
 とあり、
 4項により、占有者Bに対して、管理者(理事長)も、2項及び3項により、集会(総会)の決議があれば、その差止めを裁判所に請求することができますから、適切です。


3 理事長は、Aに対し、規約を遵守して犬の飼育を止めるようBに働きかけをするよう要請したが、これにAが従わない場合にはA自身の規約違反行為の責任を追及することができる。

○ 適切である。 
  専有部分を賃貸に出している場合でも、区分所有者には、賃貸人の立場として、賃借人に対して、規約や集会の決議を守らせる義務はあります。これは、区分所有法では、明確にしていませんが、標準管理規約67条1項、2項では、
 「(理事長の勧告及び指示等)
  第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若 しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことが できる。
    2 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。」
 と規定していますから、区分所有者A自身の規約違反行為の責任を追及できますから適切です。


4 管理組合は、Bの犬の飼育状況を確認するため、Bに対し専有部分内への立入りを請求することができ、Bは、正当な理由がない限りこれを拒否することができない。

○ 適切である? 平成21年 マンション管理士試験 「問30」 。
  他人の住居(専有部分)に立ち入るためには、相当な理由を必要とします。区分所有法では、第6条2項に、保存や改良なら他人の専有部分への立ち入り請求を認める規定もありますが、設問のような事態に対応した条文はありませんが、標準管理規約23条(平成28年3月で追加あり)
 「 (必要箇所への立入り)
  第23条 前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる。
     2 前項により立入りを請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。
     3 前項の場合において、正当な理由なく立入りを拒否した者は、その結果生じた損害を賠償しなければならない。
     4 立入りをした者は、速やかに立入りをした箇所を原状に復さなければならない。」
 とあり、
 引用されています、前2条の内、設問に該当するのは、21条1項です。
 「 (敷地及び共用部分等の管理)
  第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の管理のうち、 通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負 担においてこれを行わなければならない。
   2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を 共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行 うことができる。」
 とあり、
 「管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内」であれば、他人の専有部分に立ち入りを請求でき、その場合、請求を受けた者は、正当な理由がなければ、立ち入りを拒めないということですから、「規約違反の犬の飼育状況の確認」が、「管理を行うために必要な範囲内」が、どうかです。

 過去の問題( 平成21年 マンション管理士試験 「問30」 )でも、出題元のマンション管理センターの判断基準が曖昧だったように、何をもって「管理を行うために必要な範囲内」と見るかは、実に個人的な解釈が大きく影響します。また、住居への立ち入りは、戸建と違った、マンションという共同生活をおくる特殊な建物であることの認識の程度により、大きく判断が分かれる点です。区分所有法だけでの問題ではなく、建物全体での管理やコミュニティとも絡んでいます。
 ここも、もう既に規約違反が明白というなら、今更「犬の飼育状況の確認」も不必要ですから、他人の専有部分に立ち入りを請求することもいらないのですが、私が管理を行う者(管理組合の役員)ならの立場で判断してみましょう。
 設問では、室内で体長約65cmの雑種犬2匹を飼育してるとか、抜け毛や悪臭を発生させたりするとかありますが、まず、基本としてどの程度の犬かの確認が必要です。これは、室外でもできそうですが、立ち入って検査した方がいいでしょう。
そして、次の、他の居住者へ吠えるは、他の人からの聞き取りでも可能ですが、抜け毛や悪臭を発生している部分は、近隣の居住者だけの話だけでなく、室内でどのような飼育がなされているかを確認すべきです。そうすれば、ペット禁止の規約違反はともかく、悪臭の発生の原因が追究でき、マンション内でのコミュニティの一環としての改善策も検討できます。
 管理を行う者としては、最低、現状を詳細に認識し把握することが必要です。まして、裁判を考慮に入れているなら、立ち入って検査をしないと管理を行う者の責任が果たせなくなりますから、この設問は、適切です。


答え:1 (ここの出題も、表面的な判断だけを求めているのか、また、その先にある状況まで想定しているのか、曖昧で、解説に時間をとられます。あなたは、どう思いますか? 考えを放棄してはいけませんよ! マンション管理士や管理業務主任者になった時に、何を判断基準として管理組合にアドバイスできるかです。
 なお、標準管理規約は、たびたび言ってますように、国土交通省という1つの機関が、こうあって欲しいと思って作成しただけの内容です。 法律ではないことは、いつも留意しておいてください。)

マンション管理士センターの答え:4

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第六条
3項  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
過去出題 マンション管理士 H25年、H24年、H20年、H16年、H13年
管理業務主任者 H17年、H13年

★準用が1項(共同の利益違反行為の禁止)だけで、2項(保存行為・改良行為での他の区分所有者の専有部分や共用部分の使用)が入っていないことに注意。試験の出題者は、例外規定から問題を作るのが好きです。

占有者とは...区分所有者以外で自分の利益のために専有部分を支配している者。ただし、他の区分所有者の専有部分や共用部分の使用請求はできない。

 専有部分の占有者とは、当該専有部分を事実上支配している者をいい、例えば賃貸借契約に基づく賃借人が代表的ですが、転貸借契約に基づく転借人、使用貸借契約に基づく借主、また受寄者、管理人、破産管財人等の正当な占有権限者の他、さらに法律的な権限のない
不法占拠者等もここでは占有者です

 また、
家族、同居人等正当な権利者の権利の履行補助者の地位にいるものも占有者に含まれ共同の利益に反する行為をしてはなりません。

★占有者へ準用の範囲
 区分所有法第6条3項は、賃借人等専有部分の占有者の義務を定め、区分所有者と同様に建物の保存に有害な行為、その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないとしています。

 占有者に対する準用規定ですから、1項で規定される
 「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」の全てが占有者に適用されるのではなく、占有者と区分所有者との地位の差から区分所有者に適用されるべき規定のうち

  @所有物たる建物(専有部分を含む。)を毀損しその価値を減少させる行為 と
  A他人の所有権の行使を妨害する行為  
   は所有の有無に係らず誰でも遵守すべきですが
  B区分所有者として負担する諸義務の履行を怠る行為のうち所有者としての経済的負担(管理費の延滞、修繕積立金の支払など)部分は適用がありません。

★占有者(賃借人など)に義務を負わせる理由

 第3条の「区分所有者の団体」でも説明しましたように、占有者の通常の形である、賃借人等は、区分所有者の団体の構成員ではありませんから、建物などの管理に関与するものではありません。
 しかし区分所有関係を共同生活という面から見た場合、マンションに住んでいる賃借人等はマンション生活で他の居住者と極めて密接な関係を持っており、秩序ある区分所有関係を維持するために、賃借人等にも区分所有法上の義務を負わせるのが適当であることから、区分所有法には、賃借人等、区分所有者以外の専有部分の占有者の義務に関して定めました。

 占有者が共同の利益に反する行為をした場合、占有者に対してその行為の停止等の請求(第57条3項)や、それによる解決が困難な場合には、集会の特別多数決議に基づき、賃貸借契約の解除とその専有部分の引き渡しを求める訴えを提起することができるとしています(第60条)。

 また区分所有法第46条2項には、占有者に対する規約および集会の決議の効力に関する定めがあり、賃借人などの占有者は、建物やその敷地もしくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約または集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負うとされています。
ただしここでの占有者の義務は、建物などの使用方法に限定されていますから、占有者に対してバルコニーや自転車置場などの使用を規制することはできますが、管理費や修繕積立金の支払いなど管理上の義務を強制することはできません。
管理上の義務は、占有者にはなく、当然貸主である区分所有者の義務になります。

 一方、占有者に義務を負わせる見返りとして一定の限度で占有者に集会に関与する権利の規定も設けられています。

占有者も区分所有者のように使用上の義務を負うため、区分所有法第44条では占有者の意見陳述権の定めを設け、占有者に利害関係があるような決議(例えばペットの飼育の禁止)をする場合は集会に出席して意見を述べることができるとして、占有者の利益保護を図っています。
この場合の利害関係とは法律上の利害を指し、管理費が値上げされれば、家賃が上がる可能性があるような、単なる事実上の利害関係は含まれないと解されています。
また、集会では占有者は意見を述べるだけで、当然ながら占有者には議決権はありません。議決権は、区分所有者が持っています。

 なお占有者の義務を徹底するため、国土交通省設定の「標準管理規約」(単棟型)には、区分所有者(貸主)は賃貸借契約に規約および使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定めるとともに、占有者(賃借人)がこれを遵守する旨の誓約書を管理組合に提出しなければならないとする条文があります。

<参考>標準管理規約(単棟型)19条; 

(専有部分の貸与)
第19条 区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、この規約及び使用細則に定める事項をその第三者に遵守させなければならない。

2項 前項の場合において、区分所有者は、その貸与に係る契約にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定めるとともに、契約の相手方にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない。

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第六条 (*令和5年4月1日 追加
* 民法等の一部を改正する法律(令和3年4月法律第24号)。施行:令和5年4月1日
  附則21条

 (建物の区分所有等に関する法律の一部改正)
第二十一条 建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号)の一部を次のように改正する。

 第六条に次の一項を加える。
4 民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十四条の八及び第二百六十四条の十四の規定は、専有部分及び共用部分には適用しない。

 第七条第三項中「(明治二十九法律第八十九号)」を削る。


*この規定により、第6条4項に以下の規定を追加。
4項 民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十四条の八及び第二百六十四条の十四の規定は、専有部分及び共用部分には適用しない。
過去出題 マンション管理士 R05年
管理業務主任者

◎民法改正の背景: 〜ただし、マンションの専有部分や共用部分には、適用がない〜

 高齢化社会を反映して、身寄りのない老人の孤独死も増加しています。それでも、正当な相続が行われ、土地・建物が相続人によって登記がなされれば、その土地や建物の管理責任者は、相続人となり建物を解体したり、家財道具を処分したりと、また自分で住むとかハッキリします。
 しかし、登記は任意ですから、もう住まなくなった建物、特に老朽化して価値の無くなった建物だと例え相続人がいても、面倒でお金がかかる所有者変更等の登記はせずに放置される事態が日本各地で発生しています。
 また、相続を巡っては、複数の相続人がいると相続人の間で遺産分割協議が成り立たたずに、お爺さん、父親、本人、息子、孫などと数代前から空き家として放置され、そのうちに分散した相続人たちの所在地が分からなくなり、朽ちていく塀や荒れ果てた家屋、草木が茂る庭などで近隣に迷惑を及ぼすだけでなく災害時に対応ができない危険な事態が社会問題となっています。
この土地・建物の管理不全状態は、今後益々増えていく状況です。

  

 管理不全となった土地や建物の管理者を明確にするために、政府も過去から「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」や「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」などで対処してきましたが、基本的な問題は解決できませんでした。
 そこで、新しく、相続時における登記の手続きの見直しと、民法でも「土地・建物に特化した財産管理制度」の創設がなされました。

  ★不動産登記法では、
   @ 相続登記申請の義務化令和6年4月1日施行
     ・相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない(正当な理由なく怠ると、10万以下の過料)(不動産登記法第76条の2)
   A土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設令和5年4月27日施行
     ・相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣(窓口は法務局です。)の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする(相続土地国庫帰属法第2条) 
   とし、

  ★民法(令和5年4月1日施行)では、所有者が不明だったり、所有者による管理が適切にされていない土地・建物を対象に(つまり土地・建物に特化した)財産管理制度の創設(民法第264条の2〜第264条の14)として、

   @所有者不明土地・建物の管理制度(民法第264条の2〜第264条の8)
    調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになった。
  
   A管理不全状態にある土地・建物の管理制度(民法第264の9〜第264条の14)
    所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害され又はそのおそれがある土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになった。
    管理人が選任されると、管理人に土地・建物の管理をする権限が与えられ(第264条の3 1項、第264条の8 5項)、たとえば、隣接する擁壁の劣化・倒壊によって土砂崩れが生ずるおそれが生じていたり、隣家がいわゆるごみ屋敷であって、悪臭等により健康被害が生じていたりするような場合に、所有者不明で置かれる管理人が危険や弊害を取り除く措置を講じることができるようになります。

<参照>民法 第264条の2 (令和5年4月1日施行)

第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
     第264条の2〜第264条の8)

(所有者不明土地管理命令)
第二百六十四条の二 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。

2 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。

3 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。

4 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。

---------------------------------------------------------------------
 <参照> 民法 第264条の8 (令和5年4月1日施行)

所有者不明建物管理命令
第二百六十四条の八 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第四項に規定する所有者不明建物管理人をいう。以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。

2 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

3 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発せられた後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。

4 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。
5 第二百六十四条の三から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令及び所有者不明建物管理人について準用する。

---------------------------------------------------------------------
<参照>民法 (令和5年4月1日施行)

第五節 管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令
    (第264条の9〜第264条の14)

<参照>民法 第264条の14

管理不全建物管理命令
第二百六十四条の十四 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(第三項に規定する管理不全建物管理人をいう。第四項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。

2 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

3 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。

4 第二百六十四条の十から前条までの規定は、管理不全建物管理命令及び管理不全建物管理人について準用する。


  なお、この「所有者不明土地・建物の管理制度制度」や「管理不全状態にある土地・建物の管理制度」は、マンションの専有部分および共用部分には適用されませんので、注意してください。(区分所有法第条4項:新設)

 ◎区分所有建物の専有部分及び共用部分に改正民法の「所有者不明建物管理命令」と「管理不全建物管理命令」が適用されない訳

  区分所有建物については、区分所有者が建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)第 6 条第 1 項)をした場合又はそのおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、その行為の停止措置等を請求することができ、所定の要件を満たせば、相当期間の専有部分の使用禁止や区分所有権及びその敷地利用権の競売の請求をすることができる(同法第 57 条〜第 59 条)。

 また、区分所有者が所在等不明である場合には、管理費等の不払いとなることが通常であるが、長期かつ多額の管理費等の滞納も、共用部分に係る区分所有者の共同の利益に反する行為に該当し、同法第 57 条〜第 59 条の適用対象となり得る。
 したがって、区分所有建物については、これらの規定により管理が適正に行われない場合についての対処は可能であり、区分所有法に加えて所有者不明建物管理命令を認める意義に乏しい。

 他方、区分所有建物においては、区分所有者は全員で建物等の管理を行う団体を構成して集会等により建物等の管理を行うこととされ(同法第 3 条)、集会の決議は区分所有者及び議決権を基にした多数決で決することとされており(同法 17 条等)、区分所有関係特有の意思決定方法が採用されている。そして、区分所有者が所在等不明となった場合には、集会決議で議決権行使をすることがないことになるが、区分所有法上は常に反対の議決権を行使したのと同様に取り扱われることになる。
 したがって、所在等不明の区分所有者に係る対応は、専有部分のみならず建物等の管理に関する意思決定全般に関連するものであり、区分所有法制の根幹にかかわる課題として、区分所有関係の実態を踏まえて検討されるべきものと考えられる。

 したがって、区分所有建物の専有部分・共用部分については、改正法第 264 条の 8 は適用しないこととされた(改正後の区分所有法第 6 条第 4 項)。


とのことです。

★民法他の改正(施行:令和5年4月1日)
  今回の改正と絡んで、現行民法制定後120年以上の間の社会経済情勢の変化に伴い、共有者が土地の所在地から遠く離れていたり、共有者間の人的関係が希薄化したりして、共有者間で決定を得ることが困難になることがあり、 これらの問題は、相続された土地に限らず、民法で定めている共有物一般に発生し得るため、共有関係を解消しないままであっても、共有物の円滑な利用を可能にすることが重要となるため、 現行民法の共有物の変更・管理の規定を、社会経済情勢の変化に合わせて合理的なものに改正する必要もあり
   @共有地の利用の円滑化などの共有制度の見直し
    ・共有物につき「軽微な変更」をするために必要な要件が緩和されました。
     具体的には、「形状又は効用の著しい変更を伴わない=軽微変更」なら、今まで要求されていた「全員の同意は不要」で、持分の過半数で決定可となりました。(民法第251条1項、第252条1項、第252条5項)

  この思考は、区分所有法第17条(共用部分の変更)で採用された発想と重なります。
 マンションという多数の共有者が存在する「共有関係」が先行して、根本となった民法の改正にまで及んだということでしょうか。

<参照> 民法 第251条 (令和5年4月1日施行)

(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(
その形状又
は効用の著しい変更を伴わないものを除く
。次項において同じ。)を加えることができない。

2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

<参照> 区分所有法 第17条

(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(
その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。



    ・所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申し立て、その決定を得て、 残りの共有者の持分の過半数で、管理行為(例:共有者の中から使用者を1人に決めること)ができます。(民法第251条2項、第252条2項)
    ・残りの共有者全員の同意で、変更行為(例:農地を宅地に造成すること)ができます。(民法第262条の2)
   A遺産分割に関する新たなルールの導入
    ・被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分を考慮せず、民法で決められている法定相続分又は遺言書の指定相続分によって画一的に行うこととした。(民法第904条の3)
   B相隣関係の見直し
     ア.隣地使用権のルールの見直し
        境界調査や越境してきている竹木の枝の切取り等のために隣地を一時的に使用することができることが明らかにされるとともに、隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合にも隣地を使用することができる仕組みが設けられた。(民法第209条)
     イ.ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備
       電気や水道管等のライフラインを自己の土地に引き込むために、導管等の設備を他人の土地に設置する権利や、他人の所有する設備を使用する権利があることが明らかにされるとともに、設置・使用のためのルール(事前の通知や費用負担などに関するルール)も整備されました。(民法第213条の2) 
     ウ.越境した竹木の枝の切取りのルールの見直し
       催促しても越境した枝が切除されない場合や、竹木の所有者やその所在を調査しても分からない場合等には、越境された土地の所有者が自らその枝を切り取ることができる仕組みが整備された。(民法第233条3項)


参考質問:隣の分譲マンションの一室のバルコニーに投棄されたゴミの悪臭で迷惑しているのですが、管理不全建物管理命令の発令は可能ですか。

回答:区分所有建物については、管理不全建物管理制度が適用されないため、マンションなどの区分所有建物の専有部分及び共用部分について、管理不全建物管理命令の発令をすることはできません。(区分所有法第6条4項)
   もっとも、区分所有建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした区分所有者に対しては、その行為による被害の程度等に応じ、その行為の停止等の請求、専有部分の使用禁止の請求、区分所有権等の競売の請求をすることが可能です(区分所有法第 57 条以下)。

※国土交通省「所有者不明土地ガイドブック 〜迷子の土地を出さないために!〜」(令和4(2022)年3月)p・39参照


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(先取特権)
第七条
1項 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
過去出題 マンション管理士 R01年、H30年、H28年、H27年、H25年、H21年、H19年、H17年、H16年、H13年
管理業務主任者 R05年、H29年、H27年、H25年、H23年、H19年、H16年、

先取(さきどり)特権とは...民法で定められた、物権の一つ。
 抵当権と同様に担保物の価値で債権(財産権の1つ)を担保する方法の一つで、担保される債務の履行がないときに担保権を実行(民事執行法に基づく競売)して債権を他の債権者より優先的に回収することができます。他の債権者よりも先に債務を支払ってもらえることが「特権」たる所以です。

 例えば、ある区分所有者が電気料金やガス料金などを個人的に滞納している場合に、マンションの管理費や修繕積立金も滞納していれば、電気会社やガス会社が請求する際に、それらに優先して(先立って)、管理費や修繕積立金の回収が出来ます。

債権..債権者が債務者()に対して、その行為(給付)を請求することのできる権利。 他人に対してある行為を請求できる権利です。

 <参考>物権:上の債権に対応する言葉として、物権があります。
  物権とは、一定のを直接支配し、処分できる権利です。債権との大きな違いは、他人の行為を必要としないで、処分などの行使ができることです。
    @占有権、A所有権、B地上権、C永小作権、D地役権、E入会権、F留置権、G先取特権、H質権、I抵当権 の10種が定められています。

    @占有権とE入会権そしてF留置権を除いて、他の7つの物権は登記できます。(不動産登記法第3条)

 どうして、この区分所有法で、急に「先取特権」なんて規定が出てくるのか、初めて区分所有法の勉強をしてきた人は戸惑うでしょう。

 入居当初から多くの人が絡み合う区分所有建物の関係では、生活に必要なエントランスやエレベーター施設など共用部分や敷地の維持・管理には当然ながら費用がかかります。
 この多くの人が関係する共用部分等の維持・管理で支出した費用については、通常の債権の回収よりも、強い方法で回収されるべきだと法の創設者は考えました。

 そこで、区分所有法第7条は、区分所有関係によって生じた区分所有者間の債権なら、
民法で規定される先取特権の制度を適用して、一般の債権の回収よりも優先して回収できる(先取)という強い保護を与えた規定です。

<参照> 民法 第303条〜第305条

第八章 先取特権

第一節 総則

(先取特権の内容)
第三百三条 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する


(物上代位)
第三百四条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。

2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。


(先取特権の不可分性)
第三百五条 第二百九十六条の規定は、先取特権について準用する。

---------------------------------------------------------------------
(留置権の不可分性)
第二百九十六条 留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。

 注:ここ民法第304条(物上代位)での「ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」と第296条(留置権の不可分性)は、重要なので、ちゃんと読んでおくこと。

*先取特権の種類

 民法上の先取特権には、債権の発生原因によって、
  1.一般の先取特権...債務者の総財産について優先弁済権を付与される、
    民法第306条以下(@共益の費用、A雇用関係、B葬式の費用、C日用品の供給 の4種。優先順序もこの順)、
  2.動産の先取特権....債務者の特定の財産について優先弁済権を付与される、
    民法第311条以下(@不動産の賃貸借、A旅館の宿泊、B旅客又は荷物の運輸、C動産の保存、D動産の売買、E種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給、 F農業の労務、 G工業の労務 の全部で8種)
  3.不動産の先取特権...債務者の特定の不動産(土地・建物)について優先弁済権を付与される、
    民法第325条以下(@不動産の保存、A不動産の工事、B不動産の売買の3種)  
  があります。

 また、民法以外のその他の法律の規定としては、
  ・国税徴収法上の先取特権
  ・地方税法上の先取特権
  ・厚生年金保険法の先取特権
  ・商法の先取特権
  など、特別法による先取特権も多くあります。
 

★先取特権の効力 〜登記が無ければ、登記された抵当権には劣後する〜
 この先取特権は、債務者の特定財産に関する担保権であるにもかかわらず、共益の費用即ち民法第306条1号の一般の先取特権(債務者の全財産を本来対象とするもの)とされています(2項)ので、登記しなくても一般債権者(対抗力ある担保権等の優先的権利を持たない者)に優先して債権を回収することができます。

 なお、通常この区分所有法で規定する先取特権はよくある抵当権のように登記はなされませんから、現行の不動産融資(住宅ローン)などにみられますように過剰担保の状況下では抵当権実行の手続きに参加して配当要求を行っても配当を受けられる可能性は低いでしょう。
 この点に対しては民法第329条2項但し書きの「共益の費用」の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。」、という趣旨からこの先取特権の被担保債権は建物保存の費用で抵当権者の担保価値保存に利益を与えているはずとの考えから抵当権に優先して配当を受けられるべきだ、とも思われますが、この先取特権の被担保債権にはいろいろのものがありますので、真に建物保存の費用で抵当権者の担保価値保存の有益なものである場合は、抵当権に対する優先権が認められている民法第325条1号の「不動産保存の先取特権」として登記しその順位を保存しておくべきでしょう。

<参照> 民法 第329条

第三節 先取特権の順位

(一般の先取特権の順位)
第三百二十九条 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。

2 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

---------------------------------------------------------------------
 民法 第306条

 (一般の先取特権)
第三百六条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
   一 共益の費用
   二 雇用関係
   三 葬式の費用
   四 日用品の供給

---------------------------------------------------------------------
 民法 第325条

第三款 不動産の先取特権

(不動産の先取特権)
第三百二十五条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
   一 不動産の保存
   二 不動産の工事
   三 不動産の売買

★先取特権の被担保債権 〜総財産ではない〜
 この区分所有法での先取特権をうけられる被担保債権は、

  @区分所有者(債務者)が持つ、
    ア.区分所有権(専有部分(室)の権利)、
    イ.共用部分の共有持分など
    ウ.建物の敷地利用権(ただし、別段で、分離処分が認められていれば除かれる)
    エ.共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権、

  A規約又は集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権 です。

 @の債権は保存行為等で債務者に対して他の個人の区分所有者が立替えた現在の債権をいい、
 Aの債権は管理費・修繕積立金・義務違反者の違約金等団体としての区分所有者の全員が共同して(または管理組合が)有する債権をいうとするのが一般のようです。
  (コンメンタールマンション区分所有法(日本評論社 稲本洋之助・鎌野邦樹共著)P58・59、区分所有法(丸山英気)、新しいマンション法(法務省民事局参事官室編))。


*該当する債権の例:
{例−1} 規約により各区分所有者が共用部分に係る管理費を各自の共有持分に対して有する管理費の請求に係 る債権

{例ー2}管理者が、その職務を行うにつき必要な費用について、各区分所有者に対して共有持分に応じて分割的に有する費用償還債権。

*該当しない債権の例:
 管理者が、管理組合との間に報酬を受ける特約がある場合において、管理組合に対して有する
報酬債権

 報酬債権は組合に対する業務実施の対価であり、業務を行うにつき組合員に対して有する(費用 )債権に該当しない(なお、組合がこれを管理費の一部として組合員に転嫁するものは該当する)。

★区分所有者だけでなく、管理者、管理組合法人も先取特権をもつ。
  管理者の権利義務は、区分所有法第28条の規定により、
民法の委任の規定(民法第643条から)が準用されています。
  この
民法第649条、同第650条1項の規定により、管理者はその職務を行うために必要な費用は前払いを請求でき、また費用を出したときにはあとから償還も請求できます。
 また、遅延損害金(延滞利息)も請求できます。

  これらの債権も、管理上の債権として先取特権として保護されています。
  この保護は、区分所有者の団体(管理組合)が法人化されても同様に必要なため、管理組合法人にも先取特権が認められています。(第7条後段)

<参照>区分所有法 第28条;(委任の規定の準用)

第二十八条  この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。

<参照>民法 第649条:(受任者による費用の前払請求)

第六百四十九条  委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

<参照>民法 第650条:(受任者による費用等の償還請求等)

第六百五十条  受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。

 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。

*ただし、{判例}管理組合が後で設立された場合、組合設立以前の区分所有者全員が持っていた、債権は管理組合には引き継がない。
この請求は、各区分所有者がする。後で設立された管理組合は代理できない。

★先取特権を行使できる範囲 〜競売で回収する〜

  債権者である特定の区分所有者や管理者そして管理組合法人は、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を行使できます。
 先取特権の実行としては、競売になります。
  

 ◎競売について 〜 権利と動産 〜
  競売できる債務者の財産は、
   @権利関係...区分所有権(建物の専有部分についての権利)、言い換えると不動産
             (共用部分に関する権利と敷地利用権があれば、含まれる)
   A動産関係...建物(専有部分=室)と個人的に共用部分に備え付けた動産(衣服・家具など)です。

  このうち、Aの動産の範囲は、建物使用に伴いある程度継続して建物に置かれている家具、電気器具その他の設備で単に建物内に存在する物では足りないものと思われますが、この規定に類する民法第313条に関しある程度継続して置いてあれば金銭、有価証券、宝石類もこれに該当するとするのが判例です(大判大3.7.4民録20―587)。ただし、個人の生存に不可欠なものとして差押禁止財産とされている衣服や食料、生計費などが除外されることは勿論です(民事執行法第131条)。
  なお、別の解釈として、動産を畳、建具、家具調度等に限定し、衣服、宝石等は含まない説もあります。

<参照> 民事執行法 第301条 および 第133条

(差押禁止動産)
第百三十一条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない
   一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
   二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
   三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
   四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
   五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
   六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
   七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
   八 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物
   九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
   十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
   十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
   十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
   十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
   十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

---------------------------------------------------------------------
(先取特権者等の配当要求)
第百三十三条 先取特権又は質権を有する者は、その権利を証する文書を提出して、配当要求をすることができる。

 競売の順序としては、
  まず、建物(専有部分)に備え付けた動産を対象にし、それでも債権額が満足されない(弁済が足りない)場合は、不動産(権利関係)となります。

<参照> 民事執行法 第122条

第三款 動産に対する強制執行

(動産執行の開始等)
第百二十二条 動産(登記することができない土地の定着物、土地から分離する前の天然果実で一月以内に収穫することが確実であるもの及び裏書の禁止されている有価証券以外の有価証券を含む。以下この節、次章及び第四章において同じ。)に対する強制執行(以下「動産執行」という。)は、執行官の目的物に対する差押えにより開始する。

2 動産執行においては、執行官は、差押債権者のためにその債権及び執行費用の弁済を受領することができる。
---------------------------------------------------------------------
<参照> 民事執行法 第43条

第一款 不動産に対する強制執行

第一目 通則

(不動産執行の方法)
第四十三条 不動産(登記することができない土地の定着物を除く。以下この節において同じ。)に対する強制執行(以下「不動産執行」という。)は、強制競売又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。

2 金銭の支払を目的とする債権についての強制執行については、不動産の共有持分、登記された地上権及び永小作権並びにこれらの権利の共有持分は、不動産とみなす。

 


民法では、一般に先取特権は、債務者の総財産を目当てに行使できるが(民法第306条以下参照)、区分所有法では、総財産ではなく、@区分所有権A動産の上に先取特権が行使できる。


★先取特権と登記してある抵当権との順位 〜この区分所有法の第7条の規定で、現実に管理費等の滞納金が回収できるのか? 〜

  管理費や修繕積立金などの滞納金が本当に、先取特権で回収できるのかの疑問からの勉強です。
  先取特権といっても、登記していないと登記した抵当権より劣るようだ。
  
  参考

【質問−1】
 私のマンションでは、7階の705号室に住んでいるAさんがすでに5年も管理費を滞納しています。月額25,000円ですから、すでに150万円以上になっています。 理事長から何回も督促状を出しましたし、簡易裁判所に支払い命令を申し立て、その命令も確定しています。 その支払い命令で705号室を差し押さえようと思っても、3,500万円のB銀行の抵当権がついています。売買の時価もすでに2,500万円ぐらいに下落しています。マンションの管理費には先取特権があるということですが、一体、滞納管理費はとれるのでしょうか。


【答え】
 マンションの管理費は共益費として一般の債権に対し、先取特権という優先債権になっているのですが、登記した抵当権の方が、この管理費のような未登記の先取特権より優先すると民法では定められています。従って、B銀行が3500万円の抵当権をつけ、登記していますと、返済済みの金額を差し引いたとしても剰余(余り金)がなければ抵当権が滞納管理費より優先します。マンションを競売したときにマンションの競落額がB銀行への返済額より高額でなければ、あなたのマンションには滞納管理費が支払われないのです。

 抵当権が登記されていて、区分所有法第7条の先取特権が未登記だと、抵当権が優先します。
抵当権と区分所有法第7条の先取特権が共に登記されていると、優先順序は、その登記の前後によって決まります。(先に登記した方に優先権があります。)
抵当権と区分所有法第7条の先取特権が共に未登記の場合には、区分所有法第7条の先取特権が未登記の抵当権よりも優先すると解されます。


【質問−2】
 管理費の滞納者に対し、訴訟による回収を検討しているのですが、「先取特権による回収」という手段があると聞きました。先取特権とはどのようなものですか。訴訟よりも有効なのでしょうか。

【答え】
 滞納管理費を回収する方法の1つに、「先取特権」による方法があります。
債権(ある人〔債権者〕が他の人〔債務者〕に対し金銭の支払いや義務の履行(例えば、物の引渡しなど)を請求し、これを実行させることを内容とする権利)について、管理費のような特定債権については、他の一般債権より優越(優先)して、債権の請求ができることを先取特権といいます。

区分所有法の第7条の規定によれば、区分所有者が負担する管理費・修繕積立金等(他に規約や集会の決議による負担金)は、不動産及び動産の上に先取特権を認めています。この趣旨は、区分所有者が区分所有者全員の共有に属する共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設を共同して維持管理すべき立場にあるので、管理費等の請求権は一般の債権よりも優先的な立場を与えているのです。

そこで、管理費等を滞納した場合、管理組合は滞納者のマンションの建物(室)と敷地又は自分のマンションの室内に設置している家財などの動産について先取特権をもって、裁判所に申し立てて実行することができますし、裁判の判決を必要としないことから有効かつ簡便な手段となる場合があります。

しかし、マンションの建物(室)について言えば、この先取特権の優先順位は登記された抵当権に劣ります。
住宅ローンなどの抵当権が設定(登記)されており、かつ、競売落札価格より多額のローン残高がある(オーバーローン)場合には、この先取特権によって競売しても、管理組合は滞納金等を回収できないことになります。

また、家財などへの先取特権の行使には、滞納者が差押えを承諾することなどが条件であり、滞納者の協力を得られにくいといった問題もあります。
このような場合には、滞納金の回収をより確実に行うために、訴訟手続を活用し、滞納者に支払い方法などの言い分を聞き、裁判所から滞納者が支払いやすい方法などを考えた上での判決をえて、滞納者に自主的に支払いをさせることが有効な方法といえますし、これを怠った場合に、訴訟の確定判決により、先取特権では行使できなかった滞納者の預金、給与、賃貸している場合の家賃などを差押えて、滞納管理費を回収していくことがよいといえるでしょう。


 {設問-1} 区分所有法第7条に規定する先取特権によって担保される債権に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

1 特定の区分所有者が、他の区分所有者の負担すべき共用部分に関する費用の立替払をした場合において、当該他の区分所有者に対して有する立替金償還債権

答え:△? まあ、正しい。
立替金償還債権自体は被担保債権とはいえないが、立替金償還債権の行使は民法第499条により弁済による代位で被担保債権である共用部分に関する費用請求権を行使することになる。

2 規約により各区分所有者が共用部分に係る管理費を各自の共有持分に対して有する管理費の請求に係る債権

答え:正しい。 
規約により他の区分所有者に対する債権である。

3 管理者が、その職務を行うにつき必要な費用について、各区分所有者に対して共有持分に応じて分割的に有する費用償還債権。

答え:正しい。 
管理者が業務を行うにつき有する債権である。

4 管理者が、管理組合との間に報酬を受ける特約がある場合において、管理組合に対して有する報酬債権。

答え:誤っている。 管理者の報酬債権は、区分所有法での先取特権には該当しない。
報酬債権は組合に対する業務実施の対価であり、業務を行うにつき組合員に対して有する(費用 )債権に該当しないと解されている(なお、組合がこれを管理費の一部として組合員に転嫁するものは該当する)。

正解:4


{設問-2} 平成23年 マンション管理士試験 「問16」 抜粋

以下の問は正しいか。

3 Aは201号室を購入するにあたり、E銀行から融資を受け、同室にはE銀行のために抵当権が設定されその旨登記された。Aが融資金の返済を遅滞したため、E銀行はその抵当権に基づいて同室の競売手続をとった。この手続において、管理組合は滞納管理費分の金額について抵当権者に優先して配当を受けることができる。

X 誤っている。 未登記の先取特権は、登記された抵当権に劣後する。 
この出題は、区分所有法第7条に規定される「先取特権」が、登記された抵当権よりも優先するか、どうかということです。
 まず先取特権とは、民法第303条
 「(先取特権の内容)
  第三百三条  先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」とあり、
「その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利」です。
 では、区分所有法第7条
 「(先取特権)
  第七条  区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
   2  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
   3  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。」です。
これから先は、解釈上での解説ですが、
  1.抵当権が未登記であれば、区分所有法第7条の先取特権が未登記でも抵当権に優先します。 
  2.抵当権が登記されていて、区分所有法第7条の先取特権が未登記だと、抵当権が優先します。
  3.抵当権と区分所有法第7条の先取特権が共に登記されていると、優先順序は、その登記の前後によって決まります。(先に登記した方に優先権があります。)

 設問では、抵当権は登記されていて、区分所有法第7条の先取特権が未登記のようですから、管理組合は滞納管理費分の金額について抵当権者に優先して配当を受けることができません。

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第七条
2項  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
過去出題 マンション管理士 H30年、H28年、
管理業務主任者 R05年、R01年、H29年、

 第7条2項は、区分所有法で定める先取特権の順位と効力は、民法の「共益費用」と同じ扱いにするとしています。
 注:民法で定める共益費用の先取特権とみなされるのは、@優先権の順位とA効力についてだけで、対象となるのは、1項に定めるように、債務者の区分所有権及び建物に備え付けた動産です。

★先取特権は特定の行為にしか認められないので、民法で定める共益費用の先取特権の扱いで処理することにしたものです。 
  また、先取特権間の優先順位も、
      1位...共益の費用(債権者が、自分を含めた他の債権者のために使ったお金)
      2位...雇用関係債権(会社が倒産した場合などに、従業員が給料を貰う)
      3位...葬式の費用(葬儀会社が使ったお金)
      4位...日用品の供給の費用(電気会社やガス会社に支払う料金)
  の順位で支払を受けることになります。(民法第329条 → 
民法 第306条  参照)

   ただし、他の法律(税法)もあり、1位は国税、2位 地方税、3位 社会保険の保険料 が、共益費用などに、優先して支払をうけます。
 そこで、多くの場合、管理費や修繕積立金等を滞納している区分所有者は他に国税や地方税も滞納しているので、競売手続きをとっても滞納管理費等にみあった充分な配当を受けることは、困難と考えてください。

<参照> 民法 第306条:

 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
   一  共益の費用
   二  雇用関係
   三  葬式の費用
   四  日用品の供給

  そして、共益の費用とは、
民法 第307条:
  共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。

 2  前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。」

<参照>民法 第329条 (一般の先取特権の順位

第三百二十九条  一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。

2  一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

 そこで、先取特権の実行(競売)に当たっては、まず、建物に備え付けられた債務者の動産(金銭、宝石、有価証券、家財道具、電化製品など)ついて弁済を受け、それでも債権が満足しないときには、債務者の不動産、具体的には、区分所有権(共用部分に関する権利と敷地利用権を含んで)弁済を受けることになります。(民法 第335条1項)

<参照>民法 第335条 (一般の先取特権の効力

第三百三十五条  一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。

2  一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。

3  一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。

4  前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。

★ 区分所有法での先取特権の対象物は、債務者の
   @区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。) 及び
   A建物に備え付けた動産とされます(1項)。
  このうち、建物に関する区分所有権と共用部分に関する権利、そして、土地に関する敷地利用権は不動産担保権の抵当権の対象となるため、登記すれば、抵当権に優先されますが、建物に備え付けた動産(テレビ・タンスなどの家財道具)は抵当権の目的とならないため、理論的にはこの先取特権で優先して債権を回収することが可能ですが、
現実的には、テレビや冷蔵庫、家具など、この種の動産は新品価格の数%になるか、ほとんどは買い手がつかず競落されません(粗大ごみ扱いです)のが通常ですから、回収金額はあまり期待はできません。
  また、生活関係の衣服・寝具や生計費などの動産は差し押えができませんので(民事執行法第131条参照)、区分所有法で先取特権として規定されていても、債権(滞納した管理費等)の回収は難しいと考えてください。

<参照> 民事執行法 第131条(差押禁止動産)

第百三十一条  次に掲げる動産は、差し押さえてはならない

一  債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二  債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三  標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
四  主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五  主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六  技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七  実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八  仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
九  債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十  債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一  債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二  発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三  債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四  建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

★東京地方裁判所では、民事執行法の上記の差し押さえ禁止規定について、さらに次のようなものを詳細に例示しています。
  
*差し押さえできない物
   ●整理ダンス
   ●洗濯機(乾燥機つきを含みます)※
   ●ベッド
   ●鏡台※
   ●洋ダンス
   ●調理用具
   ●食器棚
   ●食卓セット
   ●冷蔵庫(容量は問いません)※
   ●電子レンジ(オーブンつきを含みます)※
   ●瞬間湯沸器※
   ●ラジオ※
   ●テレビ(29インチ以下)※
   ●掃除機※
   ●冷暖房器具(エアコンは除きます)
   ●エアコン※
   ●ビデオ(DVD)デッキ※
   ●パソコン※

    ※複数ある場合は1つだけです。


{設問-1} 平成29年 管理業務主任者試験 「問35」〜抜粋〜

【問 35】 区分所有法第7条に規定される先取特権に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

4 区分所有法第7条に規定される先取特権は、優先権の順位、効力及び目的物については、民法に規定される共益費用の先取特権とみなされる。

X 誤っている。 優先権の順位及び効力については、民法の共益費用の先取特権とみなされるが、区分所有法では、目的物は、区分所有権と動産である。 共益費用のように総財産ではない。
平成28年 マンション管理士試験 「問3」 、 平成19年 マンション管理士試験 「問4」

設問は、選択肢1で引用しました、区分所有法第7条2項
 「
2 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
 とあり、
 区分所有法第7条2項によれば、区分所有法の先取特権は、優先権の順位及び効力については、民法に規定される共益費用の先取特権とみなされるのは正しいのですが、次の区分所有法の先取特権の、「目的物」は、
 @債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。) 及び
 A建物に備え付けた動産であり、
 民法の共益の費用での目的物=債務者の総財産 ではないため、誤りです。 


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第七条 (改正あり。)
* 民法等の一部を改正する法律(令和3年4月法律第24号)。施行:令和5年4月1日
  附則21条

(建物の区分所有等に関する法律の一部改正)
第二十一条 建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号)の一部を次のように改正する。

 第六条に次の一項を加える。
4 民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十四条の八及び第二百六十四条の十四の規定は、専有部分及び共用部分には適用しない。

 第七条第三項中「(明治二十九法律第八十九号)」を削る。

*この規定により、第7条3項の「(明治二十九法律第八十九号)」を削除。。
3項  民法  (明治二十九年法律第八十九号) 第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。
過去出題 マンション管理士 H28年、
管理業務主任者 H27年、平成23年、

<参照> 民法 第319条:(即時取得の規定の準用)

  第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。



 区分所有法第7条3項では、区分所有法で定める先取特権に民法第319条により、
  ・民法第192条(即時取得)、
  ・民法第193条及び第194条(盗品又は遺失物の回復)、
  ・民法第195条(動物の占有による権利の取得)
 が準用されていますから、この先取特権成立時即ち被担保債権取得時点において、債務者が第三者から借りている動産(家具など)を債権者が債務者の所有物として誤信し、かつ誤信したことに過失がなかった時には、その動産は、たとえそれが他人の物であってもこの先取特権の目的物となります。 (民法第192条)

<参照>民法 第192条から第195条

(即時取得)
第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

(盗品又は遺失物の回復)
第百九十三条  前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

第百九十四条  占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。

(動物の占有による権利の取得)
第百九十五条  家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。

  民法第192条での「即時取得」とは、他人の動産を占有している者からその動産を譲り受けようとする人を取引の安全から保護している規定です。「即時取得」と言うよりか「善意取得」と理解した方がいい条文です。
 逆にみれば、動産を任意に他人に渡した(貸した)人は、渡した(貸した)人だけにしか、返還請求ができないということにもなります。

  

 なお、債務者が建物に備え付けた動産を第三者に引き渡すと、その動産について、先取特権は行使できません。(民法第333条)

<参照>  民法 第333条

第四節 先取特権の効力

(先取特権と第三取得者)
第三百三十三条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

 その動産が盗品や遺失物であれば、盗難にあった人(被害者)や無くした人(遺失主)は、債権者に対して、盗難や遺失の時から2年間は、先取特権の成立を否認できます。(民法第193条)

 債務者がその盗品や遺失物を競売・一般の店舗などから、知らずに買った時なら、盗難にあった人(被害者)や無くした人(遺失主)は、債務者が債権者に対して負っている債務を弁済しないと、先取特権は成立します。民法第193条)
 

 ただし、上の民法第195条(動物の占有による権利の取得)の準用は、区分所有法での先取特権に準用することは、無意味ですが。


{設問-1} 平成28年 マンション管理士試験 

〔問 3〕区分所有法第 7条に規定する先取特権に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法(明治 29 年法律第 89 号)の規定によれば、正しいものはどれか。

1 管理者に対して支払うべき報酬が定められ、管理者が、管理組合に対して報酬請求権を有する場合には、管理者の報酬請求権は、先取特権によって担保される。


X 誤っている。  管理者の報酬請求権は、先取特権の対象にならない。
 平成27年 マンション管理士試験 「問26」 、 平成27年 管理業務主任者試験 「問2」 、平成25年 管理業務主任者試験 「問2」 、 平成21年 マンション管理士試験 「問3」 、 平成17年 マンション管理士試験 「問6」 
 
 まず、先取特権とは、民法第303条に、次のように規定され、
 「(先取特権の内容)
 第三百三条  先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 」
 とあり、
 民法で定められた、10種の物権の一つです。
 抵当権と同様に担保物の価値で債権(財産権の1つ)を担保する方法の一つで、担保される債務の履行がないときに担保権を実行(民事執行法に基づく競売)して債権を他の債権者より優先的に回収することができます。他の債権者よりも先に債務を支払ってもらえることが特権たる所以です。

 
その民法の先取特権を認めた規定が区分所有法第7条にあります。
 「(先取特権)
 第七条  区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
 2  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
 3  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。 」
 とあり、
  区分所有関係によって生じた区分所有者間の債権なら、民法で規定される先取特権の制度を適用して、一般の債権の回収よりも優先してできると強い保護を与えた規定です。
 この区分所有法での先取特権をうけられる被担保債権は、
  @区分所有者が、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権、
  A規約又は集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権です。
  @の債権は保存行為等で個人の区分所有者が立替えた現在の債権をいい、
  Aの債権は管理費・修繕積立金・義務違反者の違約金等団体としての区分所有者の全員が共同して(または管理組合が)有する債権をいうとするのが一般のようです。
 そこで、
  該当する債権の例:
   ・ 規約により各区分所有者が共用部分に係る管理費を各自の共有持分に対して有する管理費の請求に係る債権
   ・管理者が、その職務を行うにつき必要な費用について、各区分所有者に対して共有持分に応じて分割的に有する費用償還債権。
 で、一方
 該当しない債権の例:
  ・管理者が、管理組合との間に報酬を受ける特約がある場合において、管理組合に対して有する報酬債権
  があげられます。
  この報酬債権は組合に対する業務実施の対価であり、業務を行うにつき組合員に対して有する(費用 )債権に該当しないためです。
 そこで、設問の「管理者の報酬請求権は、先取特権によって担保される」は、誤りです。


2 区分所有法第 7条の先取特権は、共益費用の先取特権とみなされ、他の一般の先取特権と競合する場合にはそれらに劣後する。

X 誤っている。  共益費用の先取特権は他の一般の先取特権と競合する場合には、それらに”優先”する。 劣後しない。
 
 先取特権には、
 @一般の先取特権
 A動産の先取特権
 B不動産の先取特権
 の3種があります。
 そして、一般の先取特権とは、民法第306条にあります。
 「(一般の先取特権)
 第三百六条  次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
   一  共益の費用
   二  雇用関係
   三  葬式の費用
   四  日用品の供給」
 です。
 設問は、選択肢1で引用しました、区分所有法第7条2項
 「2  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。」
 とあり、設問の前半は正しい。
 そこで、共益費用の先取特権とみなされた区分所有法での先取特権は、設問後半での、他の一般の先取特権間の優先順位の関係は、民法第329条
 「(一般の先取特権の順位)
 「第三百二十九条  一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。
 2  一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。 」
 
とあり、
 引用されています民法第306条での順序は
      1位...共益費用(各債権者の共同の利益のために使われた費用)
      2位...雇用関係債権(給料その他債務者と使用人との間の雇用関係で生じた債権)
      3位...葬式費用(葬式での費用)
      4位...日用品供給費用(生活に必要な飲食品、燃料、電気の供給で生じた費用) 
  ですから、区分所有法での共益費用の先取特権においても、他の一般の先取特権と競合する場合には、”それらに優先”しますから、設問の”それらに劣後する”は、誤りです。
 そこで、選択肢2は、全体として誤りとなります。


3 店舗を経営する区分所有者が、管理組合の承諾を得て、共用部分である廊下に自らの所有する動産であるショーケースを備え付けていた場合、このショーケースに対しては、先取特権の効力は及ばない。

X 誤っている。 動産であるショーケースにも先取特権は及ぶ。

 ここは解釈が難しいのですが、選択肢1で引用しました区分所有法第7条1項
 「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。」 
 とあり、 
 「建物に備え付けた動産」には、債務者の専有部分に備え付けられたものに限らず、共用部分である廊下や屋上に備え付けられた債務者のものも含まれると解釈されていますので、説問の場合の「共用部分である廊下に自らの所有する動産であるショーケース」にも、先取特権の効力は及びますから、誤りです。


4 区分所有者が、規約又は集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について先取特権を行使するに際しては、当該他の区分所有者が第三者から借り受けていた家具についても即時取得の規定の準用がある。

〇 正しい。 借用物にも、即時取得として先取特権は及ぶ。
 平成27年 管理業務主任者試験 「問2」 

 この設問も条件が欠けている点で、かなり適切ではありませんが、選択肢1で引用しました区分所有法第7条3項
 「3  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。」
 とあり、民法第319条は、
 「(即時取得の規定の準用)
 第三百十九条  第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。」
 で、 民法第192条から第195条とは
 「(即時取得)
 第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

 (盗品又は遺失物の回復)
 第百九十三条  前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

 第百九十四条  占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。

 (動物の占有による権利の取得)
第百九十五条  家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。」
 です。
 そこで、民法第192条の規定により、厳密にいうと、債務者である区分所有者(他の区分所有者)が借りている動産(家具)を、債権者である区分所有者が債務者である区分所有者の所有物と誤信し、かつ誤信したことに過失がなかった時には、債権者である区分所有者は、その動産に対して区分所有法第7条1項の先取特権を取得するので、正しいとなります。


答え:4 

《タグ》区分所有法 + 民法。先取特権。優先順位。借用物
    この解説も、出題文がはっきりせず、時間がかかる。 平成28年のマンション管理士試験の問題文作成者は、選択肢2をまねればレベルがかなり”劣化”したようだ。


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(特定承継人の責任)

第八条
 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
過去出題 マンション管理士 R01年、H30年、H27年、H25年、H22年、H21年、H 20年、H18年、H17年、H15年、
管理業務主任者 R05年、R02年、R01年、H30年、H28年、H27年、H26年、H25年、H24年、H21年、H19年、H16年、H15年、H13年

 区分所有法第8条では、前条第一項すなわち第7条1項での「共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」が、弁済されないで、区分所有権が譲渡された場合には、それを引き継いだ譲受人(特定承継人)に対しても、債権として請求できるとしています。

 区分所有者相互の債権や、区分所有者に対する管理者(管理組合法人)の債権を、直接の債務者ではない特定承継人にまで弁済の義務を負わせてまでも保護しようとする区分所有法独自の規定です。

*「承継」と「継承」の違い...元々の意味としては、「承継」は、地位や身分、事業など抽象的で精神的なものを引き継ぐことをいい、「継承」とは、義務や財産、権利など経済的なものを引き継ぐという違いがありますが、どちらを使っても間違いではありません。
 法律的には多くの場合、権利や義務を引く継ぐ言葉として事業承継のように「承継」を使っています。

 

★承継人の区別
 まず、承継人(引き継いだ人)には、@包括承継人 と A特定承継人 の2つの場合があります。

 1. 包括承継人(一般承継人)とは

 他人の権利義務を一括して承継することを包括承継(一般承継ともいいます。)といい、承継する者を包括承継人といいます。
例えば、相続により被相続人の権利義務を承継する相続人がその例です。
 包括承継の場合はその人の年金等一身専属的な権利を除きその人の権利義務の全て(包括的地位)を包括的に承継します。

<参考> 民法 第896条

第三章 相続の効力

第一節 総則

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

 2. 特定承継人とは

  他人が持っているある特定の権利義務を個別的に取得することを特定承継といい、承継する者を特定承継人といいます。
 売買、交換、贈与などによる普通の権利の承継は、みな特定承継で、売買契約の譲受人(買主)などが特定承継人の典型例です。
 また、抵当権の実行により競売物件を競落して所有権を取得した競落人(買受人)も、特定承継人に該当します。

  ただし、区分所有建物の賃借人などの占有者は、区分所有法での特定承継人には該当しませんから、占有者に対して、滞納管理費等の支払い請求はできませんので注意してください。

★なぜ、区分所有法で特定承継人についてまで弁済の義務を定めるのか?

 民法などの解釈では、一般に、当事者の合意による取決めは、その合意の当事者及び相続人等の包括承継人のみを拘束するのが原則であり、売買による譲受人(買主)のような特定承継人を拘束しません

 区分所有者間の合意による取決めである規約と集会の決議を単なる債権契約にすぎないものとすると、相続人のような包括承継人を拘束する効力はありますが、例えばマンションの売買等で区分所有権が譲渡された場合に、その契約に明示されていない事項は譲受人(買主)を拘束する効力がないため、前の区分所有者の未払の管理費等がある場合には、譲受人には請求できません。

  ここで、区分所有者間の債権である、管理費や修繕積立金などの性質を考えてみますと、管理費は建物の保守・維持・修繕や清掃などに使われこの費用は、区分所有権の価値に組み込まれ、修繕積立金はまだ使ってはいなくても区分所有者の団体の共同財産を構成しているために、立法者は特定承継人にも弁済の義務を課しても妥当性があると判断したとのことです。

 そこで、区分所有法第8条では、債権に係る責任主体を特別に拡げて、債務者である区分所有者の特定承継人に対しても、規約設定時及び集会決議時での当事者と同視して、「共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」の弁済義務があるとしています。

◎相続のような包括承継の場合は前第7条の「共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」に対する債務を当然に承継しますから、この第8条のような規定は必要ありませんが、売買など特定承継の場合は承継された特定の財産に内在又は付着した物的・法律的な瑕疵や負担しか承継しないことが原則ですから、本第8条がなければ前第7条の債務を特定承継人が承継することはありません。

 特定承継人にまでも債務を負わせる区分所有法第8条は区分所有法が団体法として創設された特別な法律であることを示す規定の1つです。

★特定承継人...買った人・競売で落とした人、贈与を受けた人など。 

 ★請求は、もともとの債務者である前の区分所有者にも請求できるし、新しく買った特定承継人に対しても請求できる。

      参照:包括承継人...相続人など他の権利・義務も全部を受け継いでいる人。この人は当然請求される。

 ★前条第1項=第7条1項...区分所有者に対する債権(管理費など)の先取特権。

       特定承継人の買った人・貰った人は前任者の債権の存在を知らなくても、その債務を引き継ぐ。

       また、滞納している管理費などは売主が払うという当事者間の約束があっても、買主にも売主にも請求できる。

(ただし、管理組合と売主の間で売主が支払うという「和解」が成立していれば、新しい買主は責任がない。) 試験にでた!(平成14年 マンション管理士 「問31」

★なお、この特定承継人の責任を定めた区分所有法第8条は、元々の民法第254条を基本にして、構成されたようです。

<参照>民法 第254条

(共有物についての債権)
第二百五十四条  共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。


{設問-1} 平成14年 マンション管理士試験 「問31」

Aは、B所有の中古マンションの一室を取得したところ、管理組合からBの管理費滞納分を請求された。この場合におけるAの主張に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1  「滞納分はBが全責任をもって管理組合に支払い、Aには一切迷惑をかけない。」という念書をもらって売買したのだから、私に支払義務はない。

答え: 誤。特定承継人は、念書があっても、前の区分所有者の滞納費を払う義務がある。 
建物の区分所有等に関する法律第7条第1項は、「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。」と定め、同法第8条は、「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」と定める。
よって、管理組合が区分所有者に対して有する管理費等の債権については、債務者である区分所有者の特定承継人(A)に対しても行うことができる。前の所有者Bが全部支払うという念書は、AB間の問題であり、管理組合に対しては、何らの効力もない。Aに支払義務はないとの本肢は誤り。

2  私は競売代金全額を裁判所に支払って買受人となったが、この物件の現況調査報告書に管理費の滞納分について記載がなかったので、私に支払義務はない。

答え: 誤。 債務の存在を知らなくても特定承継人は支払義務がある
肢1で述べた区分所有者の特定承継人(A)の支払義務は、その義務につき特定承継人が債務の存在を知らなかったとしても負わされるものである。現況調査報告書に管理費の滞納分についての記載がなかったとしても、特定承継人はその義務を免れない。よって、本肢は誤り。

3  仲介業者からBに滞納分があると聞いていたので、私に支払義務があるのはやむを得ないとしても、支払いを遅延したのはBであって私ではないから、私に遅延損害金の支払義務はない。

答え:誤。 遅延損害金があれば、その支払も特定承継人はのがれられない。。
遅延損害金も他の区分所有者が有する債権である。よって、区分所有法第8条により、区分所有者の特定承継人も支払い義務を負う。支払いを遅延したのが滞納者Bであったとしても、特定承継人Aは、遅延損害金の支払義務を免れるものではなく、本肢は誤り。

4 管理組合とBとの間に、Bが滞納分の全額を支払う旨の和解が成立しているから、私に支払義務はない。

答え: 正。 和解したなら、支払義務は特定承継人には及ばない。
本肢においては、管理組合と滞納者Bとの間でBが全額支払うとの和解が成立している。これにより、特定承継人Aには、滞納分の支払義務はなくなる(民法第696条)。よって、本肢は正しく、本問の正解肢となる。

正解:4

<参考>民法 第696条

(和解の効力):
  当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。


<参考>「標準管理規約(単棟型)」26条:(承継人に対する債権の行使) 

第26条 管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。


{判例-1}特定承継人に、中間の取得者がはいるか? 〜 旧の不動産登記では、争いがあった事項です 〜
    管理費の滞納者AがBに売り、BがまたCに売ったときB(中間特定承継人)に対して管理費の支払請求ができるか?

    まだ、判例は確定していないようだ。出来る説が有力です。 
    ア.できない説...ここの特定承継人は、区分所有権を現に有する人で、B(中間取得者)は入らない。
    イ.出来る説...特定承継人を縮小解釈する根拠がない。

 この、中間の取得者については、改正(平成16年)不動産登記法の説明も参照   


 参考までに、以下の消滅時効の解説は、民法の改正(2020年4月1日施行)前の解説です。

{判例-2}滞納した管理費・特別修繕費などの債権の消滅時効は5年か、10年か? 〜5年で決着


    ア.10年説...定期金債権の消滅時効? 民法第168条

    イ.最新の判例:定期給付債権で 5年の消滅時効(平成16年4月23日、最高裁) 民法第169条に該当する。

   理由: 管理費等の債権は、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は集会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法第168条所定の債権にあたるものというべきである。
その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い、総会の決議により増減することがあるとしても、そのことは、上記の結論を左右するものではない。

 で、5年の時効となった。


*注:2020年の改正民法:管理費は、一般の債権として、債権の消滅時効は、権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年と定められました。
 
<参照>民法 第166条
 第三節 消滅時効

(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。


★ 特定承継人の責任
 本第8条により、前第7条の債務について特定承継人と本来の債務者が連帯して弁済する責任が生じます。

 この関係は、別個の原因により数人が同一内容の給付をする債務を負担するため、民法上の「不真正連帯債務」とされますが、実体は本来の債務者の肩代わりをするのですから通常の場合(当事者の合意により承継人が支払うこととした場合以外の場合)は、保証債務の規定を準用して催告・検索の抗弁権を認めても良いでしょう。(民法第452条および第453条)

<参照> 民法 第452条 および 第453条

 (催告の抗弁)
第四百五十二条 債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。

(検索の抗弁)
第四百五十三条 債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。


 通常の場合に承継人が支払った場合は本来の債務者に求償する訳ですから、管理組合(区分所有者の団体)としてもまず本来の債務者から回収することを要求されても不当とはいえないでしょう。

 なお、この特定承継人の承継義務は本条に基づく法定責任ですから、特定承継人がその債務(未払い管理費など)の存在を予め知っていることを要しません。無過失責任です。
 従って、通常のマンションの売買(重要事項説明書にどういう記載があろうと)であろうと競売(物件調書にどういう記載があろうと)であろうと買主が知らなかったというのは言い訳にはなりません。
 ただし、この特定承継人の負担部分は当該売買契約や手続きの瑕疵として売買当事者間等で精算されることとなります。
 特定承継人(新しくマンションを買った人など)が、前の区分所有者の滞納管理費等を弁済すれば、譲渡人(前の区分所有者など)に対して償還請求ができます。

 また、宅地建物取引業者は、マンション売買を代理、仲介するにあたっては、未払の管理費などについて、重要事項として説明が必要です。(参照:宅地建物取引業法第35条1項6号、国土交通省総合政策局不動産課長からの解釈・運用の考え方について。)


★前の区分所有者は、今まで積み立てた「修繕積立金」の返還(払戻)を請求できるか?
  売買などの特定承継人が、前の区分所有者の滞納した管理費や修繕積立金を弁済することは、分かったと思います。
では、次に、もう区分所有者で無くなった前の区分所有者が今まで積み立ててきた未使用の修繕積立金の返還を請求できるかの問題があります。

 通常、管理費は毎月使用されますから、管理費の返還は請求されないと思いますが、使用されていない修繕積立金については、返還請求が考えられます。

 これに対しては、民法の「共有」に関して論じられてきた「総有」や「合有」、また「組合」も関係した複雑な見解がありますが、多数の意見としては、マンションの規約または集会で負担することが決められた管理費や修繕積立金は、一度拠出されると、
 @法人格がない場合には区分所有者の団体(管理組合)に
 A法人化されていれば、管理組合法人に 
 帰属すると考えられ、前の区分所有者は、既に支払った管理費や修繕積立金の返還は請求できないと解しています。

 また、そのような面倒なことは言わずに、修繕積立金等は、当然に区分所有権が譲渡されれば、承継人に移転すると考えることもできます。

 どちらにせよ、もし、修繕積立金の返還請求が可能となると、区分所有者の団体(管理組合なり管理組合法人)の目的である、建物の維持・管理が将来できなくなる恐れがあるためと捉えれば、前の区分所有者に修繕積立金を返還することは、できないとすべきです。

 このような、トラブル(疑問点)の発生を抑えるために、標準管理規約60条6項は、既に支払った管理費や修繕積立金の返還は請求できないと明記しています。

<参照> 標準管理規約60条(管理費等の徴収) 

第60条 管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料について、組合員が各自開設する預金口座から口座振替の方法により 第62条に定める口座に受け入れることとし、当月分は別に定める徴収日までに一括して徴収する。ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。

2 組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。

3 管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする。

4 理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。

5 第2項に基づき請求した遅延損害金、弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。

6 組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。

 なお、この区分所有者の団体が、建替えなどで消滅する際には、残余財産は区分所有者に帰属します。


{設問-1} 管理費、特別修繕費(修繕積立金)を支払わないままマンションの専有部分が売買(譲渡)された時は、誰に対してその滞納金を請求することができますか。

答え:結論的には、売主(譲渡人)と買主(譲受人)の双方に対して請求することができます。  管理費等の管理経費が未払いのまま専有部分が譲渡された場合には、売主(譲渡人)に対してその未払金を請求することができます。  譲受人たる現区分所有者に対しても前区分所有者(譲渡人)の管理費等管理経費の滞納金を請求することができるのです。(区分所有法第8条参照)


{設問-2} マンションの管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1.管理組合は、管理費の滞納者が死亡した場合、その相続人に対し、滞納管理費を請求することができる。

答え:正。 相続人(包括承継人)に請求できる。 
民法第896条によれば、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(包括承継)。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない,
とされる。滞納管理費の支払義務も承継しているので、管理組合は、相続人に請求できる。


2.滞納管理費の額が60万円の場合に、管理費の滞納者が一部の弁済であることを明示した上、5万円を支払ったとき、その残額については、時効は中断しない。

答え:誤。 一部弁済は「承認」となり、時効は中断する。(民法改正前のもの)
民法第147条3号によれば、時効は、次に掲げる事由によって中断する。
  一  請求
  二  差押え、仮差押え又は仮処分
  三  承認 、
とされ一部の弁済であることを明示した場合は残額の承認となるので残額について中断する。(これまでの時効期間はなかったものとなる。)

 参考:2020年改正後の規定
 (裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
   一 裁判上の請求
   二 支払督促
   三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
   四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。


3.マンションの売却が行われた場合、管理組合はその買主に対して、売主である区分所有者の滞納管理費について、その遅延損害金と共に請求することができる。

答え:正。 
区分所有法第8条によれば、前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる、とされ、この場合、滞納管理費と共に、債務不履行による損害賠償として遅延損害金の請求もできる。民法第415条参照。


4.管理組合は、規約に管理費についての遅延損害金に関する定めがない場合でも、その遅延損害金を請求することができる。

答え:正。 
民法第419条1項によれば、金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
、とされ
民法第404条;利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。に より年5%を請求できる。規約で定めがなくても、遅延損害金の請求はできる。
(改正あり

 参考:2020年改正民法
 (法定利率)
第四百四条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年三パーセントとする
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
4 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
5 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の六年前の年の一月から前々年の十二月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が一年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を六十で除して計算した割合(その割合に〇・一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。
 

正解:2


{設問-3} 甲マンション管理組合の区分所有者Aが管理費を滞納している場合に関する次の記述のうち、区分所有法、民法及び民事訴訟法の規定によれば、正しいものはどれか。

1 Aの死亡後、専有部分の登記名義がAのままになっている場合、甲は、Aの相続人に対して滞納管理費の支払請求訴訟を提起することはできない。

答え:誤。 登記とは関係なく、相続人は包括承継人として滞納費の請求を受ける。
Aの死亡後、相続では民法第177条の登記は適用されず、第882条、第896条によりAの債務は当然に相続されるから専有部分の登記名義がAのままになっている場合でも、甲は、Aの相続人に対して滞納管理費の支払請求訴訟を提起することができる。


2 Aが滞納管理費の支払をしないままBに専有部分を売却した場合、甲は、Aに対して滞納管理費の支払を請求することはできない。

答え:誤。 元の区分所有者(債務者)と買った特定承継人に請求できる。
区分所有法第8条により滞納者Aと購入した特定承継人Bは不真性連帯債務を負うからAが滞納管理費の支払をしないままBに専有部分を売却した場合、甲は、A及びBに対して滞納管理費の支払を請求することができる。


3 甲が裁判所にAに対する支払督促の申立てを行った場合において、Aがそれに対し適法な異議の申立てを行ったときは、甲の支払請求は、通常の訴訟に移行することになる。

答え:正。 
民事訴訟法第395条により甲が裁判所にAに対する支払督促の申立てを行った場合において、Aがそれに対し適法な異議の申立てを行ったときは、甲の支払請求は、通常の訴訟に移行することになる。


4 甲がAに対し6ヵ月ごとに配達証明付き内容証明郵便で支払を督促し、その郵便が配達されていれば、滞納管理費の支払請求権の消滅時効は、中断する。

答え:誤。 
民法第153条の催告は、6ヶ月以内により強い中断事由を取る必要があり、甲が滞納者Aに対し6ヶ月ごとに配達証明付き内容証明郵便で支払を督促し、その郵便が配達されていても、時効中断事由にならず、滞納管理費の支払請求権の消滅時効は、中断しない。(注:改正あり)

*参考:2020年改正民法第150条
(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。


正解: 3


{設問-4} マンション(マンション管理適正化法第2条第1号に規定するものをいう。)の管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定によれば、正しいものはどれか。

1 管理費を滞納している区分所有者が、マンションの専有部分を売却した場合、当該売買契約において、「買主は、売主が滞納している管理費に係る支払債務を承継しない」旨の明確な合意がなされているときでも、買主はその滞納している管理費の支払義務を負う。

答え:正。 当事者間の合意には左右されない。
区分所有法第8条により滞納区分所有者の買主である特定承継人は滞納区分所有者と不真性連帯債務を負い、この間の取り決めは管理組合に主張できない。


2 管理費を滞納している区分所有者が、勤務先である会社の倒産によって収入がないためその管理費を支払うことができない事情にあることが真実であれば、当該区分所有者は債務不履行にならない。


答え:誤。 金銭債務は債務不履行には抗弁として使えない。
事例の事実では滞納はやむを得ないが、管理費支払債務等の金銭債務については不可抗力でも責任を免れない(民法第419条 3項)。


3 区分所有者が管理費を納付すべき期日に納付しなかった場合、規約に特別の定めをしていない限り、当該区分所有者は、遅延損害金の支払義務を負わない。


答え:誤。 履行遅滞だと遅延損害金も払わなければならない。
確定期限のある債務は期限到来により履行遅滞となる(民法第412条 1 項)。履行遅滞となると遅延賠償の損害賠償義務が生じる。(民法第415条) 遅延損害金も払わなければならない。


4 管理費を滞納している区分所有者が死亡した場合、遺産分割により当該区分所有者の区分所有権を取得する相続人が決定するまでは、管理組合はその滞納している管理費を請求することができない。


答え:誤。 滞納者が死亡すれば、その相続人に請求できる。
相続は死亡と同時に開始し(民法第896条)、相続債務はその区分建物の帰属如何にかかわらず相続分に応じて当然に承継される(民法第899条)。具体的にそのマンションの相続人が未定でも、滞納管理費は請求できる。


正解: 1


★ 滞納管理費等が可分債権か不可分債権か、また相続での問題

  滞納の管理費・修繕積立金等がある場合で、該当の区分所有者が死亡した場合には、その滞納管理費等は、相続人に承継されることになります。ここまではいいのですが、その先の扱いについて民法での争いがありますので、ここで、紹介します。

 関連条文:民法第264条,民法第427条,民法第428条,民法第898条,民法第907条
 
準共有
第二百六十四条  この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

 (分割債権及び分割債務)
第四百二十七条  数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
 
 (不可分債権) (改正有)
第四百二十八条  債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
  ↓
 (不可分債権)
第四百二十八条 次款(連帯債権)の規定(第四百三十三条及び第四百三十五条の規定を除く。)は、債権の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときについて準用する

第三款 連帯債権
(連帯債権者による履行の請求等)
第四百三十二条 債権の目的がその性質上可分(注:不可分でも準用)である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。


 (共同相続の効力)
第八百九十八条  相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

 (遺産の分割の協議又は審判等) (改正有)
第九百七条  共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2  遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
  ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

3  前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

 

1.相続での可分債権の紛争
  不可分債権:共同相続人は、不可分債権を取得するについては、学説も判例も争いがない。
  可分債権:だが、金銭のような可分債権については、遺産分割までの共同所有関係を「共有」とみるのか「合有」とみるのかで学説上争いがいまだにある。

 ★分割債権説
  判例:昭和29年4月8日:最高裁
   「相続人が数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」とある。
    共有ととらえている。

 ★不分割債権説
  ア.不可分債権説:遺産の共同所有関係を共有と解するが、分割主義をとると可分債権はのちに遺産分割されるべき相続財産に属しないことになるので、これは共同相続人にとって不都合であること、また相続分の割合が債務者にとって不明確であるから、遺産分割までは不可分的に共同相続人に帰属する。
  イ.合有説:可分債権もまた共同相続人に合有的に帰属する。この説では、債権の行使は、相続人の全員でなすことになる。
  ウ.準共有説:遺産共有を共有と解し、可分債権は共同相続人に共有的に帰属する。この説では、債権の履行請求は相続人全員が共同で行い、債務者も相続人全員に対してのみ履行をすることになる。これは、合有説と同じだけど、各共同相続人と債務者の間に生じた事由はその当事者間においてのみ効力をもつにすぎないためこの点では、分割債権説と同じになる。

2.相続での債務
  *一身専属のものを除き、債務は承継される。

  不可分債務:共同相続人も不可分債務を負うことは、学説も判例も争いがない。
  可分債務:金銭のような可分債務については、論争がある。
  ★分割債務説
   ア.当然に分割される。
     判例:昭和34年6月19日など:最高裁
     「被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する。
      これは、遺産の共同所有関係を民法物権編の共有と解している。
      この説によると、相続債権者は各共同相続人に対して、個別に履行請求が必要となる。もし、その共同相続人の中に無資力者がある場合には、債権の回収ができないこともあるのがこの説の欠陥。
   イ.債務自体は、当然分割となるが、相続財産においては、分割があるまで全一体として存在しているので、共同相続人の不可分的責任を肯定する。

  ★不可分債務説
   ア.A.共有だけど、当然に分割されると相続の債権者が弁済を受けられなくなることがあるため、全共同相続人が不可分的に債務を負担すると解する。
     B.また、利益較量上、不可分債務説をとる立場もある。
     C.また、債務も被相続人に属した一切の権利義務という統一的なものの中に包含されていて、相続債務については、共同相続人は不可分的に債務を負う立場もある。
   イ.合有債務説
     A.相続財産を包括的な1個の財産ととらえて、各共同相続人は合手的共同関係に立ち、債権者は共同相続人全員に対してのみ請求でき、相続人は相続財産を引き当てる限度においてのみ責任を負う説。
     B.相続の債務は、共同相続人に合有的に帰属し、各相続人は、限定承認をしない限り、相続分に応じて分割された数額について相続債務を負担する立場で、この場合、債権者は、全共同相続人を相手として履行請求する。そして、共同相続人の一人に対して、全額を請求できるとする。
   ウ.連帯債務説:当然に分割されると、債権者に不利益となるので、連帯債務と考える立場。
   エ.共有説:相続の場合のように、一個の債務を数人が承継する場合には、債務は共有と考えて、債権者は常に全共同相続人に対して履行の請求ができ、各共同相続人は共同して履行の責任を負う。なお、遺産が分割されたのちは、各共同相続人は、分割された債務分での責任となる。

  ★折衷説
   消費者債務の相続では、合有的承継とみて不可分承継説をとり、非消費者債務では、分割債務と考える説がある。

★香川説
  判例によると、滞納管理費等は、各相続人の相続分に応じて、管理組合など債権者が分割で請求することになりますが、私としては、管理費等は分割されるとその性質から目的を達しないこと、また、各相続人がいくら相続をするかが明確でないこと、遺産分割まで期間がかかる場合の問題などから、被相続人の死亡時から、遺産分割が確定するまでの期間は、全共同相続人全員に全額が請求ができると考えるのが最善ととらえています。 

 *2017年 8月18日 追記:この、香川の主張を取り入れて、平成28年12月19日の最高裁判所の判決 で、過去の判例が変更になりましたので、受験生は注意してください。

 今までは、共同相続の場合、被相続人が死亡すれば、その遺産である預貯金は可分債権として”当然”に、他の相続人の同意がなくても、各相続人は単独で、その相続分に応じて預貯金の引き出し(払い戻し)ができていたのを変更し、預貯金を遺産分割の対象にして、各相続人が単独では、預貯金の引き出しができなくしたものです。

 ・争点:共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は遺産分割の対象となるか
 ・判決要旨:共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。
 

 上の解説でも分かりますように、平成28年12月19日の最高裁判所の判決文では、遺産分割において、普通預貯金や定期貯金等と限定はしていますが、これらは「可分債権」に当たらずとして、昭和29年の最高裁判所の金銭等の「可分債権」は相続開始から”当然に”各共同相続人に分割され、各共同相続人は自己の相続分に応じた分割相続ができるとの判例を変更し、普通預貯金や定期貯金等では、共同相続人全員の合意がなくても、遺産分割の対象となり、遺産分割が終わるまで、共同相続人各自での分割請求はできないとしています。
 この、判例の変更は重大です。

  参考:平成27年マンション管理士試験 「問16」


 ◎滞納管理費と破産、破産財団から区分所有建物が放棄、さらに競売手続き、という複雑な事例がありましたので紹介します。

 平成23年11月16日;東京高等裁判所
 ★事案の概要
   マンションの1室を区分所有していたAは、管理費等を滞納して、破産手続開始決定がなされ、破産管財人Bが選任された。そこで、Aのマンションも一度破産財団に組み入れられたが破産管財人Bは、そのマンションを破産財団から放棄し、破産手続廃止決定がなされ、免責許可決定も確定した。これにより、AのマンションはAの自由財産となった。
 そこで、Cがそのマンションを担保不動産競売手続きにより買受けて、新しく区分所有権を取得し、Aが滞納していた管理費等を管理組合に支払ったので、元の区分所有者であるAに求償請求した。
 
 *第1審の判決
  求償された管理費等をその発生時期により次のように分けた
   @破産手続開始決定日までに発生したもの
   A破産手続開始決定日からマンションが破産財団から放棄されるまでに発生したもの
   B破産財団から放棄された後、競売で落としたCが取得するまでに発生したもの
  そこで、@の管理費等は、破産債権であり(破産法第2条5項)、Aについて免責許可決定が確定しているので、Aはその支払責任を免れる(破産法第253条1項本文)
   Aの管理費等については、「破産財団の管理に関する費用(破産法第148条1項2号)」に該当する財団債権であり、破産人であるAは責任を負わない
   として、いずれも、競落人CのAに対する求償権は認められないとした。

   しかし、Bの管理費等に対しては、Aはマンションの区分所有者として支払義務を負い、特定承継人となったC(区分所有法第8条)が当該管理費等の弁済をした以上、Cは元の区分所有者Aに求償できこれは、「信義則に反しない」と容認した。

 参照:破産法第2条5項
  (定義)
  第二条  5  この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。

 参照:破産法第253条1項
  (免責許可の決定の効力等)
  第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

 参照:破産法第148条1項2号
 (財団債権となる請求権)
 第百四十八条  次に掲げる請求権は、財団債権とする。
  二  破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権


----------------------------------------------------------------------- 

   ★そこで、破産者Aは、競落人CのAに対する求償権を認めると、破産者の経済的再生を妨げ、また、Aは破産管財人による任意売却に協力して、マンションから転居しており、破産財団からマンションが放棄され、管理処分権がAにあっても競売手続き中の再利用は困難であるので、管理費等の増加には責任を負わない。また、競落人は、競落前に、滞納管理費の状況を知っており、売却基準価格も減額されていて、競落人に不利益はない。競落人CのAに対する求償は、信義則違反ないし権利の濫用にあたるとして、上告した。

 *東京高等裁判所の判決
   第1審で分けた
   @破産手続開始決定日までに発生したもの
   A破産手続開始決定日からマンションが破産財団から放棄されるまでに発生したもの 
  での滞納管理費等については、第1審と同様に破産者であるAは弁済義務を負わないとした。

  そして、第1審で分けた
   B破産財団から放棄された後、競売で落としたCが取得するまでに発生したもの
 についても、「区分建物に抵当権等が設定されていて余剰価値がなく、破産管財人が破産手続き中にこれを放棄した場合、放棄後に生じる管理費については、破産法や民事執行法に特別の手当てがないために、破産者が義務を負わないとする法律上の根拠に欠け、このため、担保不動産競売手続において買受けた者が、代位弁済した管理費を求償請求した場合、破産者は、これを支払う義務を負うことになる」として、破産者Aの訴えを退けた。

  ★この判決では、破産や破産財団からの放棄、競売など、滞納管理費の帰属を巡って、これからも議論が起こる判例となっていますので、参考にしてください。


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(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
第九条
 建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。
過去出題 マンション管理士 R02年、H24年、H23年、H22年、H21年、H14年、
管理業務主任者 H30年、H27年、H25年、H22年、H15年、

瑕疵(かし)...キズや欠陥のこと。当事者の予期する状態や性質が十分に満たされていないこと。
            言い換えると、工作物がその種類に応じて、通常予想される危険に対して、通常備えているべき安全性を欠いていること。

*設置の瑕疵...建設当時から存在している瑕疵
*保存の瑕疵...建設後の維持管理により生じた瑕疵

推定する... 一応それがあるものとして効果が生じますが、事実と異なる反証が成立すれば、効果はなくなります。

★参考:みなす...「みなす」とされれば、みなされた事実と異なる立証は出来ません。「推定する」では、推定された事実と異なった事実の立証ができます。
            参考:区分所有法第5条「規約敷地」2項

 マンションの建物(区分所有建物)は民法で規定する不動産での土地工作物に当たりますから、一般不法行為責任(民法第709条)のほか、いわゆる民法第717条の土地工作物責任が生じます。
 しかし、区分所有建物では、戸建てと呼ばれる一般の建物とは異なった区分けの面倒な専有部分だとか共用部分があり、民法第717条で規定する通常の土地工作物責任とは別に責任者および因果関係の存在の推定規定を定める必要性が発生し、そこで、本区分所有法第9条の規定があります。

  

 まず、基本の民法第717条を見てみましょう。

<参照>民法 第717条:(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。

3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

 民法第717条1項では、建物の設置や保存に瑕疵(欠陥)があり、他人に損害を与えたときは、第一次(最初に)としてその建物を事実上支配している占有者が被害者に対して損害賠償責任を負いますが、占有者が必要な注意をしていれば第二次(2番目に)として所有者が、無過失でも損害賠償責任を負うことになっています。

 

 この民法第717条1項は、戸建では、建物のすべてが、区分所有法でいうなら1つの専有部分だけであり、事実上支配している占有者や所有者も限定され責任追及もしやすく問題がないのですが、区分所有建物には、複数の区分所有者が存在し、またその建物は区分所有者が単独で所有する専有部分と、それとは別の他の区分所有者の全員と共有関係にある共用部分があります。

建物 @専有部分 @構造上、
A利用上の独立性があること
住居、店舗、事務所、倉庫など 住居に限らないことに注意
A共用部分 @法定共用部分 廊下、階段室、エレベーター室など 法律上当然
A規約共用部分 本来は専有部分、物置、管理人室、集会室など 登記をすれば、第三者に対抗できる。

 そこで、民法第717条1項の理論を単純に適用すると、被害者は、瑕疵の発生が建物の専有部分が原因であると特定できればその占有者または区分所有者の責任として追求でき、共用部分であればその占有者または区分所有者に損害賠償を請求できます。
 しかし、説明しましたように、区分所有建物では、規約で共用部分とされた専有部分に近い建物の部分があったり、配管に至っては、どこまでが共用部分でどこからが専有部分に属するのか争いもあり、多くの場合、損害発生の原因が専有部分にあるのか、共用部分か判断が容易ではありません。

 そこで、区分所有法では、区分所有建物が面倒な建物であるとの認識から、
民法の特則として、他人に損害を与えた場合には、一応共用部分が損害発生の原因とし、共用部分の占有者と所有者は同じであり、共有者である「区分所有者全員の責任」としました。これが、「推定する」の意味です。


*マンションの管理組合は、民法第717条1項の占有者なのか? 疑問がある。

 
度々私がマンション管理士試験や管理業務主任者試験において、不適切な出題だといってきたのに「マンションの管理組合」を民法第717条の「占有者」としたものがあります。

 例えば、平成24年のマンション管理士試験「問16」 の選択肢1の以下の設問です。

 「1 マンションの外壁のタイルが落下し、通行人に怪我を負わせた場合、落下の原因が外壁のタイルエ事を実施した工事業者の施工不良にあっても、管理組合は通行人に対して責任を負う。」


 この出題を、出題元の「公益財団法人 マンション管理センター」は、「正しい」としましたが、この「管理組合は通行人に対して責任を負う」の箇所を「正しい」とすることには、多いに疑義があります。

 それは、設問は、区分所有法にも民法にも定義されていない「管理組合」という概念を持ってきています。
 「管理組合」に近似した表現は、区分所有法第3条でいう「区分所有者の団体」です。

<参照>区分所有法第3条

 (区分所有者の団体
  第三条  区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

 とあるだけです。

 法的に厳密にいうと、管理組合という存在が、ただちに民法第717条に規定される所有者全員にそのまま置き換えることは、解釈の世界になりますから、これが、区分所有法やマンションの管理の適正化の推進に関する法律(ここでは、管理組合が定義されています)などによればとなれば、設問のように、「管理組合=区分所有全員」となり、選択肢1は、正しいとなりますが、別の解釈「管理責任があっても必ずしもそこに占有があるとはいえない」という説もあり、これでは「管理組合」は直ちに「区分所有者全員ではない」と捉えられ、出題の選択肢1の「管理組合」は「区分所有者全員」としないと、誤りとなります。
 実に、出題として不適切です。

*しかし、管理組合に責任が追及できないと、被害者は面倒になる。
  マンションの外壁のタイルが落下し、通行人に怪我を負わせた場合に、被害者である通行人が、賠償請求を求めて訴訟にするには、管理組合が占有者でないとすると被害者は管理組合を訴訟の相手に出来なくなり、区分所有者全員を相手にすることになります。この場合、訴状に区分所有者全員の氏名を調べ、それらを記載して賠償請求を行い、賠償金を受取ることになります。
マンション内では、各区分所有者は共用部分の負担割合(区分所有法第19条)に応じて賠償額を支払うことになります。
  これでは、実に不便です。

 早急に、管理組合の存在を明確にした法の整備が必要とされる条文です。

 なお、私の主張「当然には、管理組合=区分所有者の全員にならない」を反映して、令和2年のマンション管理士試験「問2」では、出題において以前の「管理組合」を「区分所有者全員」に改めています。


 この第9条の規定により、区分所有建物による損害を受けた被害者は、その損害が専有部分の瑕疵によるものか、共用部分の瑕疵によるものかはっきりしない場合には、共用部分の瑕疵から損害が生じたとして、損害賠償の請求ができるようにしました。
 被害者は、損害の発生原因が区分所有建物にあることを立証すればよく、立証責任の範囲が軽減されます。
 例えば、マンション内で漏水による被害があれば、被害者は、配管から水が漏れていることだけを主張・立証すればよく、その配管のどの部位から水漏れが発生しているのか特定する必要はないということです。

 なお、損害を受けた他人には、そのマンション内での被害者も区分所有者全体との関係では含められます。区分所有者の団体の一員として損害賠償責任も負っていますが。

  また、損害を与えた共用部分が明確に一部共用部分であれば、一部共用部分の共有者が、損害賠償の責任を負うことになります。

★「推定する」なので、請求を受けた加害者側は、どこか特定の専有部分(室)が原因だと反証できれば、全員の責任から、その専有部分の所有者の責任とすることができ、損害賠償は該当の専有部分の区分所有者だけとなります。

★外壁などが原因の雨漏りなどは、共用部分の瑕疵とみなして、不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕として修繕積立金から補修費を充当する。

★責任発生の例。
 建物での事故として一般に想定されるのはいろいろありますが、建物本体に起因するものとして
  ・看板、外壁タイルやコンクリート片の落下による人損や物損事故、
  ・エレベーター内閉じ込め事故等があり、

被害者の過失も競合する例として
 ・エレベーターやエントランスドアの挟まりや衝突事故、
 ・建物内外の転倒事故や駐車場設備に係る事故等があります。

また、加害者が競合する例として
 ・ベランダからの落下物事故、

加害者が発生時には不明確なものとしての
 ・漏水事故などがあります。

★推定規定が必要な理由

 マンションでの事故の被害者が損害を賠償してもらおうとするときには、賠償責任のある相手を特定する必要があります。つまり、責任者として、誰が占有しているのか、誰が所有者であるかが問題となります。
即ち、建物を原因とする被害を受けても正当な責任者である占有者や所有者を特定して賠償の相手にしなければ賠償を受けることはできません。

 ところが、区分所有建物を含む一棟の建物の場合は、配管などの共用部分と専有部分が存在しそれぞれ所有者と占有者が異なりますから、誤った相手に請求しても賠償を得ることはできません。

 このように、一棟の建物を区分することにより被害者に一般の建物より不利益な結果となるのは不当ですし、更に一般には被害者が加害の部位を特定して当該部位が共用部分か専有部分か調査判定することも困難です。

 そこで、区分所有建物を含む一棟の建物から被害を受けたときには、共用部分に起因する損害と「推定する」ことにより、裁判時に被害者が共用部分の所有者と占有者を相手に損害賠償を請求すればよいとして被害者の便宜をはかる必要があります。

 一般的な事例として、マンションの外壁タイルやコンクリート片の落下事故、エレベーター内閉じ込め事故や駐車場設備での事故等を考えても外壁・躯体・諸設備等他人に損害を与える惧れのある建物の部位はほとんど共用部分ですから一般常識にもかなった規定といえます。

★推定規定の効果
 この規定の存在により、被害者は建物の設置・保存の瑕疵により損害を蒙ったことを主張・立証すればよく、具体的に共用部分からの損害かどうかを立証する必要はありません。

 そして、被害者は区分所有建物に起因する損害について区分所有者の団体が法人格を有していれば管理組合法人に対して請求し、区分所有者の団体が法人化されていないと、「権利能力なき社団(法人格なき社団)」として請求することになりますが、法律上の解釈で、管理組合法人や権利能力なき社団は、共用部分の管理責任はありますが、
民法上での占有者には該当しないので、区分所有法においてどのようにして区分所有者全員の負担とするのか解釈が難しい規定です。

勿論、被害者に過失があれば過失相殺として賠償額がそれだけ減額されますし、また加害者が競合する場合は他の加害者に相当額の分担を求償することができます。

更に、原因が明確に建物の特定できる専有部分にある場合には、この規定の効力は「推定」ですから、原告たる被害者はその専有部分からの被害であることを主張・立証して損害賠償を請求することもでき、被告たる管理組合も専有部分に起因するものであることを主張・立証して責任を免れることができます。


{設問-1}平成22年 マンション管理士試験 「問3」

〔問 3〕 マンションの設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときに関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 マンションの設置又は保存の瑕疵が、専有部分にあるときにその専有部分の所有者が負う責任も、共用部分にあるときに区分所有者全員が負う責任も、ともに当該部分の所有者に過失がなくても成立する。

○ 正しい。 
過失がなくても責任を追及できる(無過失責任)かどうかをきいている。
  マンションの設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときには、区分所有法第9条
 「(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
 第九条  建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」の規定があります。
 なぜ、このような条文があるかというと、通常の戸建での設置や保存で瑕疵(きず)があり、他人に損害を与えたときは、責任者が持ち主か、借家であれば借家人などとある程度特定でき、その人が責任を負います(民法第717条1項参照)が、マンションでは、その構造上、専有部分が原因なのか共用部分が原因なのか、特定することが困難な場合がかなりあります。
 例えば、マンションで水漏れがあり、特定の区分所有者が被害をうけたとします。しかし、マンションでは、その原因が、専有部分での漏水か、共用部分とされるメインの排水管の亀裂かなかなか分かりません。被害者としては、専有部分が原因なら、その専有部分の区分所有者に賠償責任を追及する必要がありますし、共用部分が原因なら、区分所有者全員に賠償責任を追及する必要があります。しかし、原因が特定できない場合には、どこへも損害賠償の請求ができないという不都合なことになります。
 そこで、区分所有法では、このような場合には、共用部分の設置又は保存にあるものと推定して、区分所有者全員が共同で責任を負うとしました。また、「推定」ですから、その瑕疵が特定の専有部分にあることが証明できれば、賠償責任は、その特定された区分所有者が負うことになります。なお、損害を受けた人(被害者)が、原因は「マンションの設置又は保存に瑕疵があること」を立証する必要はあります。
 そこで、設問の「過失の有無」ですが、これは、民法第717条においても、区分所有法第9条においても、過失がなくても責任を負うと解されています。
 (参考:民法第717条: 「(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
 第七百十七条  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。)


2 他人に生じた損害が専有部分の瑕疵によるものか、共用部分の瑕疵によるものか、不明であっても、マンションの設置又は保存の瑕疵によるものであることは、他人である被害者が立証しなくてはならない。 

○ 正しい。 
選択肢1で述べたように、他人に生じた損害が専有部分の瑕疵によるものか、共用部分の瑕疵によるものか、不明な場合は、区分所有法第9条の適用になりますが、被害者が、原因は「マンションの設置又は保存に瑕疵があること」を立証する必要はあります。


3 マンションの設置又は保存の瑕疵が特定の専有部分にあることが証明されない限り、区分所有者全員が共同して他人に対して責任を負う。

○ 正しい。 
選択肢1で述べたように、区分所有法第9条の規定は、
 「(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
 第九条  建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」とあり、「推定」の規定ですから、マンションの設置又は保存の瑕疵が特定の専有部分にあることが証明されれば、その特定の専有部分の区分所有者に責任を追及することができます。しかし、その証明ができなければ、区分所有者全員が共同して他人に対して責任を負うことになります。(「推定」と「みなす」の違いは、自分で勉強してください。)


4 マンションの共用部分の設置又は保存の瑕疵により当該マンションの区分所有者が損害を被った場合、その区分所有者は、他人には該当せず、損害賠償請求をすることができない。

X 誤っている。 
選択肢1で述べた区分所有法第9条
 「(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
 第九条  建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」の規定にある「他人」の解釈です。
 ここでいう「他人」とは、責任を負う区分所有者全員との関係において、特定の区分所有者が損害を受けた場合には、その特定の区分所有者も、「他人」に該当すると解されます。

答え:4   


{設問-2}平成23年 マンション管理士試験 「問2」

区分所有者の責任に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、次のものは正しいか誤っているか。ただし、規約に別段の定めはないものとする。

* 区分所有者は、共用部分の設置又は保存の瑕疵により生じた損害賠償責任につき、共用部分の持分の割合に応じて責任を負う


○ 正しい。 
共用部分の設置又は保存の瑕疵により生じた損害賠償責任は、区分所有法第9条
 「(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
  第九条  建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。 」とあり、
 「共用部分の設置又は保存にあるものと推定」されますから、共用部分の負担は、同法第19条
 「(共用部分の負担及び利益収取)
  第十九条  各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」とありますから、
 ここも、規約に別段の定めがないので、共用部分の持分(その有する専有部分の床面積の割合)となり、正しい。


{設問-3}平成24年 マンション管理士試験 「問16」

〔問 16〕 マンションで生じた事故の責任に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1 マンションの外壁のタイルが落下し、通行人に怪我を負わせた場合、落下の原因が外壁のタイルエ事を実施した工事業者の施工不良にあっても、管理組合は通行人に対して責任を負う。


▲ 設問が妥当でない。 
この設問で該当するのは、民法第717条があり、平成23年 マンション管理士試験 「問14」 、や 平成22年 マンション管理士試験 「問16」 、 及び 「「問17」 、そして、平成22年管理業務主任者試験 「問5」 などがあるが、マンションの区分所有者の団体(区分所有法第3条)と管理組合の認識の違いから、民法第717条から進んで、区分所有法第9条ともからみ、過去の問題においても論争がある個所です。
 そこで、この設問では、民法の規定及び判例によればとしていますが、マンションで生じた事故であれば、それは、もう区分所有法も絡んで検討しなければ、マンション管理士試験の意味がありません。
 まず、民法第717条の規定は、
 「(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
  第七百十七条  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
   2  前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
   3  前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。」
 とあります。
 この民法第717条の規定の主旨は、「建物や橋などの建設において、建て方や修理が不完全なため、誰かが損害を受けたときには、先ずその建物や橋などの占有者(第一次)が責任を負いますが、その占有者が、私はちゃんと責任を果たしましたと立証すればその占有者は責任を逃れ、次の責任者は、建物や橋などの所有者(第二次)となり、所有者は、もう無過失で責任を負うことにしています。
  そして、区分所有法第9条
 「(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
  第九条  建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。 」
 とあります。
  この区分所有法第9条の主旨は、マンションでは、専有部分と共用部分の区分けが明確にできないことが多いため、マンションではその建て方や修理が不完全なため被害を受けたら、もう被害の原因は、専有部分なのか共用部分かを特定しないで、とりあえずは、被害を与えた原因は、共用部分であるとみようとするものです。(原因が、特定できた場合は、別です。)
 そこで、被害を及ぼした原因が共用部分にあるとなると、マンションの共用部分の管理は、民法第717条に戻って、まずは、占有者です。 占有者が、私は責任を果たしましたというと、次は区分所有者全員が共有者としての責任を負うことになります。
 ここで、マンションの占有者は、通常、賃借人(借りている人)になるわけですが、賃借人なら専有部分にあるベランダだと、管理すべきだと判断しますが、設問は、「マンションの外壁のタイルが落下した」とあり、ここでは、占有者の責任問題は外してくれと意味しているようですから、次の所有者全員が責任を負うとなります。
 そこで、設問は、区分所有法にも民法にも定義されていない「管理組合」という概念を持ってきています。
 「管理組合」に近似した表現が、区分所有法第3条にあります。
 「(区分所有者の団体)
  第三条  区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。 」
 とあるだけです。
 法的に厳密にいうと、管理組合という存在が、ただちに民法第717条に規定される所有者全員にそのまま置き換えることは、解釈の世界になりますから、これが、区分所有法やマンションの管理の適正化の推進に関する法律(ここでは、管理組合が定義されています)などによればとなれば、設問のように、「管理組合」=区分所有者となり、選択肢1は、正しいとなりますが、解釈を違えて、「管理組合」は直ちに所有者全員ではないと捉えると、選択肢1は、誤りとなります。実に、出題として曖昧で適切ではありません。


2 マンションの外壁工事を依頼された工事業者が、工事のために管理組合から借りていた金づちをポケットに入れていたところ、そのポケットが破れていたため落下し、通行人に怪我を負わせた場合、管理組合は通行人に対して責任を負う。

X 誤っている。 負わない。
  通行人に怪我を負わせたとする不法行為の原因が「そのポケットが破れていたため」とあるので明確です。
  すると、民法第709条
 「(不法行為による損害賠償)
  第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 」
 とあります。
  例え、金づちが管理組合から借りたものでも、工事業者の過失責任となり、これだけでは、管理組合は責任を負いませんから、誤りです。


3 マンションの窓から誰かが外に向けて石を投げ、通行人に怪我を負わせた場合において、誰が投げたか分からないときには、マンションの区分所有者のうち、自らが投げたのでないことを証明できない者は、通行人に対して連帯責任を負う。

X 誤っている。 
マンションの区分所有者に限定できない。  ここ共同不法行為は、民法の講義でも議論が多い個所です。 平成22年 マンション管理士試験 「問10」 、 平成21年 マンション管理士試験 「問15」 、平成18年 マンション管理士試験 「問13」 、 平成18年 マンション管理士試験 「問15」 、 平成17年 マンション管理士試験 「問17」 。
  設問のような、被害はあっても、加害者が特定できない場合には、民法719条1項後段があります。
  「(共同不法行為者の責任)
   第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
    2  行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。」
 です。
  この共同不法行為を巡っては、行為と損害の因果関係の必要性や、川の汚染や国の責任論まで、実に判例や学説も異論がさまざまにあります。
  一応、、共同不法行為の成立要件は、参考として、昭和43年4月23日:最高裁。https://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121843993549.pdf
 この判決文では、「共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加えた場合において、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えるときは、各自が右違法を加害行為と相当因果関係にある損害についてその賠償の責に任ずべきであり、この理は、本件のごとき流水汚染により惹起された損害の賠償についても、同様であると解するのが相当である。」とあります。
  設問のような、石を投げたのが誰か不明であっても、被害があった以上誰かに責任をとらせる必要上から、この民法第719条1項後段は設定されたとするのが妥当です。
 そして、マンションから石が投げられ、誰かが被害を受けたのなら、それは私ではないと、石を投げた時間(被害が発生した時)に、マンションの中にいた人が挙証(立証)する責任があります。
 設問では、単に「マンションの区分所有者のうち、自らが投げたのでないことを証明できない者」となっているのは、誤りです。区分所有者であっても、賃貸に出していれば、居住していませんから、その区分所有者まで、自らが投げたのでないことを証明する必要はありません。専有部分を賃貸にしている場合などでは、占有者や家族などが、自らが投げたのでないことを証明しなければなりませんから、誤りです。


4 6階建てのマンションにおいて、屋上部分の施工不良があり、屋上から601号室に雨漏りが生じ、さらに、同室の床を伝わって501号室に水漏れが生じたときは、601号室に居住している区分所有者は、501号室に居住している区分所有者に対して賠償の責任を負う。

○ 正しい。負う?
  ここも設問が不適切です。民法だけでなく、区分所有法での区分所有者の団体(管理組合)の共用部分の管理も絡みますから、民法や判例によるとはかなり不適当です。
  まず、設問の「屋上部分の施工不良があり、屋上から601号室に雨漏りが生じ」については、屋上はマンションでは共用部分とされ、この管理は区分所有者の団体が行います。
 区分所有法第18条
 「(共用部分の管理)
  第十八条  共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
    2  前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
    3  前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
    4  共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。」
  とあり、
 601号室の雨漏りについては、区分所有者の団体が責任を負います。
  しかし、「601号室の床を伝わって501号室に水漏れが生じた」とは、状況説明が曖昧な設問です。601号室に居住している区分所有者が雨漏りが下の階に行かないような適切な措置を取ったかが明確でありません。また、多くの判例で共用部分か専有部分かで問題とされる床下の配管を伝わってなどが設問では表れておらず、出題者は、601号室に居住している人の責任で水漏れが下の階にいったと言いたいようです。それなら、501号室の水漏れ責任は、601号室にありますから、正しい。


答え:4   (本当に面倒な出題だ。解説者も、解説に時間をとられる。選択肢4については、判例もいろいろと調べたが、ヒットするのがなかった。ここの”正しいを 1”とするなら、もっと、区分所有者の団体と管理組合を法的に判断する根拠を、出題者は示さないといけない。また、選択肢4の状況ももっと明確にしないと、これだけで、601号室の居住者に過失がないとするには無理がある。出題委員のレベルが、本当に下がっていると感じる今年の出題です。)
マンション管理士センターの答え:1 

 なお、区分所有者の団体や管理組合については、私の「超解説 区分所有法」 の第3条 にその微妙な違いを解説していますから、この選択肢1 が妥当かどうか、判断してください。

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(区分所有権売渡請求権)
第十条
 敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。
過去出題 マンション管理士 H26年、
管理業務主任者 R04年、H29年、H18年、

*敷地利用権...専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利(区分所有法第2条6項)

収去...取り去ること。建物の収去とは、建物を取り壊して、土地を更地に戻すことになる。

★ここも、当初は理解が難しい。民法の形成権などもでてくる。

 本来なら、後で説明します、平成14年(2002年)に改正された区分所有法第22条により、建物の専有部分の区分所有権と土地の敷地利用権が一体化されているので、敷地利用権のない区分所有者はいないはずですが、専有部分と敷地利用権の分離処分を禁止していなかった昭和37年(1962年)までに分離処分された場合や、昭和58年(1983年)の大改正でもみなし規約によって専有部分と敷地利用権の分離処分が許された場合とか、現在でも規約によって専有部分と敷地利用権との分離処分が認められている場合(区分所有法第22条1項)等のほか、敷地利用権が賃借権であって、賃料の不払いなどにより賃貸借契約が解除され、敷地利用権が無くなることもあり得ます。

 また、古くからあるタウンハウス(棟割長屋ともいう)のように、建物は1棟として連なっていますが、敷地を各専有部分ごとに分筆し、各区分所有者がその敷地を単独に所有している場合には、土地と建物は分離して処分できます。この場合の土地は、分有と呼ばれています。
このタウンハウスの形式は、旧住宅公団などの分譲住宅で、現在も存在しています。

 それら、区分所有者が敷地利用権を有していない状況に対応した規定です。  

民法では、土地の上の建物には、土地に対する何らかの権利が必要である。
  区分所有法が基本としています
民法では、土地と建物は各々が独立した不動産として扱われ(民法第86条参照)、この結果、土地又は建物、いずれか片方の処分(売買など)があっても、特別の契約が無い限り、その処分は他方には及びません。
 そこで、他人の土地の上に建物を建ててもその者が建物の所有権を有しますが、その建物は、土地に対して何らかの利用権がなければ、土地の所有者から土地の明け渡しを求められる理論構成になっています。

<参照> 民法 第86条 (改正有)

(不動産及び動産)
第八十六条  土地及びその定着物は、不動産とする。

2  不動産以外の物は、すべて動産とする。

3  無記名債権は、動産とみなす。

 この原則は、区分所有法にも適用されます。

 建物に対する土地(敷地)を自分で所有(又は共有)していれば建物における権利として問題がないのですが、他人の土地の上に建物を正当に所有するためには、通常、土地の賃借権か地上権(借地権)が必要となります。
 そこで敷地を賃借して建物を建てた場合には、賃借人が賃料(地代)を払わないと、賃貸人(地主)から、賃貸借契約を解除され、その結果、建物の所有者は土地に対する権利を失ってしまいます。
 
民法に従い、土地(敷地)に対する権利を持たない建物となると、土地の不法占拠となり、土地の権利を有する者は、建物の所有者に建物の取り壊し(収去)を求めることができることになりますが、区分建物の場合は複数の別の区分建物(室)が壁や柱・天井・床などで、上下・左右に密接に繋がっており、該当の区分建物(室)だけを壊して収去することは、他の室の存在にも重大な影響を与え不可能です。

 そこで、区分所有法での特則として土地だけの権利者が建物の区分所有者に対して建物を時価で売り渡せという請求権を認め、土地の不法占拠者たる区分所有者を排除できるようにしました。

 それが、区分所有法第10条の規定です。

 ★その専有部分の収去を請求する権利を有する者とは、 〜敷地の権利者〜
   1.専有部分と敷地利用権との分離処分が規約などにより可能な状況で、敷地利用権のみの譲渡を受けた者
   2.敷地が賃貸借契約のとき、賃料の滞納などで、契約解除になった場合の賃貸人


★ここで、民法に強い人へ
  土地の利用権が賃貸借や地上権である場合に、地代や賃料が払われないと、地主(賃貸人)が、区分所有法第10条により区分所有権を売渡請求をするという話はそれでいいのですが、その前に、その不払いの地代は、区分所有者個人に請求するのか、それでも払いがないと、規定の曖昧な区分所有者の団体(管理組合)と地主との関係は連帯債務になるのか。
 該当の区分所有者が区分所有権を譲渡する際に、敷地の賃借権は又貸し(転貸)に該当し、
民法第612条との関係において地主の承諾はどこまで求められのか。

<参照> 民法 第612条

(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条  賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2  賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

 また、区分所有者が自分の持分を放棄すれば、他の共有者との権利関係はどうなるのか。
 区分所有権と敷地利用権の分離処分が認められている場合に、区分所有権が抵当権の行使により、競売人に移ったら、この競売人に対して法定地上権は成立するのか。(
民法第388条)

<参照> 民法 第388条

(法定地上権)
第三百八十八条  土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

 など、民法と区分所有法において、「共有」や「合有」、区分所有法での敷地利用権の特殊性を追求していくと、まだまだ区分所有法の改正が必要なことが分かりますよ。


★売渡請求権の行使方法・性質 〜形成権 〜

 本第10条は売り渡し請求権という権利を認めた規定ですから、通常の売買契約と異なり申込みと相手の承諾という当事者間の意思の合致は必要ではなく、土地権利者からの一方的な「売り渡せ」という意思表示により売買が成立します。相手がその申し出を拒んでも、「売り渡せ」という申し出は成立します。

 このような権利を民法では「形成権」とよびます
民法の法文に形成権という概念が示されているわけではありませんが、講学上、法律行為の分類として用いられています。
具体的には、他にも、解除権・予約完結権・取消権・相殺権などが形成権として認められています。

債権のように明文化されてはいないため、時効期間が問題となりますが、判例は債権に準じて10年としています。 もっとも、形成権の中には独自の時効・除斥期間が規定されているものもあり(例:取消権)、その場合には規定によります。

★区分所有法での形成権

  この、区分所有法第10条での売渡請求権のほかに、これから説明がある、第61条7項の「大規模滅失での買取請求権第63条4項での「建替での売渡請求権」も、形成権です。


★おまけの話。形成権は、所有権を侵す?
  上の、形成権の説明を、「そうか」と思った人は関係ないのですが、「オヤッ」と思った人のために。

  所有権は、物権として保護され、所有者の承諾(合意)がなければ、その移転は許されていないはずです。
 しかし、区分所有法第10条の「区分所有権売渡請求権」を行使すると、建物所有者の意思に関係なく、区分所有権を移転させられます。怖い話です。

<参考>民法 第206条 (所有権の内容)

第二百六条  所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。


★時価とは 〜決めるのは、難しい〜

 どの法律でも簡単に「時価」と記載しますが、時価の算定方法は難しいのです。
 区分所有法第10条で規定される売渡請求での売買代金は、区分所有権(建物)の時価とされていますから、その内訳は勿論土地(敷地利用権)のない建物(共用部分の持ち分も含めた)だけの価格となりますが、売買当事者の協議により決定されるものであり、協議がまとまらない場合は不動産鑑定を参考に裁判所の決定する価格となります。

★敷地利用権は所有(共有)権が基本だけど、地上権や賃借権でも可能。

 そこで、敷地利用権が土地の賃借権の時、マンションの1室を持っている人が土地の賃料を滞納し、地主が契約解除したら、区分所有者は土地の不法占拠となり室(専有部分)の撤去を求められる。

 1室だけが壊されては、他の住民は住めなくなるので、区分所有者は地主に時価で区分所有権(建物)を売り渡さなければならない。区分所有者(マンションの持主)は、これを拒めない。

    ★ただし、この売り渡し請求は地主からできるだけで、マンションの持主の方からは、「買い取って」といえない。

    ★この請求を受けた、区分所有者は、もう「売渡」を拒めない。

      地主からの売り渡しの請求があったときに、売買契約が成立する。これを「形成権」という。

<参照> 建替の決議での賛成しない人:第63条4項 でも同じ。マンションの持主からは「買い取って」といえない。

 


{設問-1}平成18年 管理業務主任者試験 「問38」

マンションの共用部分及び敷地に関する次の記述は、区分所有法の規定によれば、正しいか。

* 敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。

→○ 正しい。 こんな規定があったのかと驚かない事。区分所有法第10条「敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる」 の規定のとおり。なお、敷地利用権とは、区分所有法第2条6項「この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう」。具体的には、敷地を目的とする所有権・地上権・賃借権・使用賃借による権利等である。


{設問-2}平成25年 マンション管理士試験 「問7」

〔問 7〕 甲マンションには、4つの専有部分があり、101号室と 102号室はAが、201号室はBが、202号室はCがそれぞれ所有している。甲の敷地は、A及びBが 敷地利用権(AとBの共有)を有しているが、Cは 敷地利用権を有していない。この場合に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、正しいものはどれか。ただし、甲については、不動産登記 法の定めるところにより分離して処分することができない専有部分及び敷地利用権であることが登記され、また、規約に専有部分と敷地利用権とを分離して処分 することができない旨が定められているものとする。

1 A及びBが、Cに対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求したときは、その意思表示によって、一方的に時価による売買契約成立の効果が生じる。

○ 正しい。 その意思表示によって、一方的に時価による売買契約成立の効果が生じる形成権である。 平成18年管理業務主任者試験 「問38」 。

 

 
どうして、Cが敷地利用権がないという事態になったのかはおいといて、Cはマンションの建物の専有部分の権利は持っていますが、土地の権利(敷地利用権)は持っていないということです。
 すると、区分所有法第10条に、
 「(区分所有権売渡請求権)
 第十条  
敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。 とあり、
 民法の原則により、土地の権利を持っているAとBは、建物は持っていても土地の権利(敷地利用権)を有しないCに対して、土地を不法占拠しているので、その区分所有権(建物の専有部分を所有する権利)を時価で売り渡せと請求できます。
 そこで、この「区分所有権売渡請求権」の性質の解釈ですが、通常の売買契約と異なり申込みと相手の承諾という当事者間の意思の合致は必要ではなく、土地 権利者からの一方的な「売り渡せ」という意思表示により売買が成立します。相手がその申し出を拒んでも、「売り渡せ」という申し出は成立します。このよう な権利を民法では「
形成権」とよびます。
 そこで、A及びBが、Cに対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求したときは、その意思表示によって、一方的に時価による売買契約成立の効果が生じますから、正しい。
 
 なお、区分所有法における形成権としては、第61条7項の「大規模滅失での買取請求権」、第63条4項での「建替での売渡請求権」もあります。

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ページ終わり

謝辞:Kzさんの了解により一部転用・編集をしています。

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最終更新日
2024年 8月 1日:見直した。
2024年 2月 4日:令和5年(2023年)の出題年を入れた。
2024年 1月27日:
改正民法で「第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令(第二百六十四条の二―第二百六十四条の八)
第五節 管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令(第二百六十四条の九―第二百六十四条の十四)
を、第6条4項に入れた。
2024年 1月7日:第7条「先取特権」を大幅に加筆。
見直してリンク先の変更、各項目を加筆した。
2023年 2月23日:令和4年(2022年)の出題年を入れた。
2022年 1月2日:第9条に「管理組合は占有者ではない。区分所有者全員が占有者」を加筆した。
2021年12月31日:第5条敷地権の図を登記まで入れて作成した。
2021年12月30日:加筆、標準管理規約等は、最新にした。
2021年12月16日、20日:令和3年(2021年)の出題年を入れた。
2021年 3月 7日:令和2年(2020年)の管理業務主任者の出題年を入れた。
民法などを、改正に合わせた。
2021年 3月 5日:令和2年(2020年)の出題年を入れた。
第9条に民法第717条の図を作成した。
2020年 3月29日:令和元年(2019年)の出題年を入れた。
2019年 4月17日:平成30年の出題年を入れた。
2018年 8月14日:文章を見直した。
2018年 3月13日:平成29年の出題年を入れた。
2017年 12月26日:第7条に民法の先取特権の例を加えた。
2017年10月 4日:「◎駐車場の専用使用権の分譲をめぐる平成10年の最高裁判所の判決について」のリンクを、第4条に入れた。
2017年 8月18日:第8条の滞納で、平成28年12月19日の共同相続での分割は遺産分割の対象となる、を入れた。
2017年 5月 3日:第4条の「専用使用権」で標準管理規約の定義を入れた。
2017年 3月11日:平成28年の出題年を入れた。
2017年 3月10日:第7条3項に民法の解説と図を追記した。
2016年 4月 8日:3月14日付の標準管理規約の改正に対応した。
2016年 2月24日:平成27年の出題年を入れた。
2015年 3月14日: 平成26年の出題年を入れた。また、第8条に判例:破産、競売(東京地裁 平成23年11月16日の判決)を追加した。
2014年 7月 2日:10条を少し書き直した。
2014年 2月23日:平成25年の出題年を入れた。
2013年 8月15日:第7条の先取特権、第9条の瑕疵、第10条の解説の追加をした。
2013年 8月 11日:第6条に図や平成24年のマンション管理士試験問題「問28」を入れた。
第7条の構成を少し入れ替えた。
第8条「特定承継人の責任」をさらに加筆。
第9条「建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定」を大幅に加筆。平成24年マンション管理士試験「問16」を入れた。
2013年 6月 7日:第8条に少し加筆。
2013年 4月 6日;第6条に少し追記。
2013年 4月 1日:第6条に、組合役員に対する、誹謗の最高裁の判決を入れた。
2013年 3月24日:平成24年の出題年を入。
2012年 2月21日:平成23年の出題など記入。
2011年10月30日:第8条に滞納と相続で加筆
2011年 5月21日:ちょろちょろと
2011年 1月15日:平成22年の出題年を記入
2010年11月20日:第8条に前の区分所有者が修繕積立金の請求ができるかを追加
2010年5月31日:先取特権など、ちょろちょろと
2010年4月19日:第4条の携帯電話会社の札幌高裁判決を追加
2010年1月23日:H21年の出題年を記入
2009年12月1日:住居侵入での最高裁判決を加筆
2009年11月3日:専有部分と共用部分の基準 を加筆
2009年10月9日:ちょろちょろと加筆
2009年7月5日:専用使用権に判例入
2009年6月18日:UP

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