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 ◎マンションの駐車場の専用使用権の分譲をめぐる平成10年の最高裁判所の4件の判決について

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マンションの区分所有者の共有持分である敷地内において、マンションの分譲業者が駐車場として専用の使用権を設定し、これを一部の買主に別途分譲し対価を得ている事例が過去に多くあり、裁判になっていました。
そこで、平成10年(1998年)には、最高裁判所からこれらの争いのうち、4件の判決がありました。

この平成10年の最高裁判所の一連の判決により、マンションの分譲業者が駐車場を別途分譲することは無くなり、一件落着かと思っていたら、最近(平成28年)、東京のマンションの管理組合からも、専用使用権の付いた駐車場があり、この措置をどうすればいいのかと相談を受けましたので、今回ここに「マンションの駐車場の専用使用権の分譲をめぐる平成10年の最高裁判所の判決について」として纏めました。

この4つの最高裁判所の判例は、マンションの管理組合においても重要であるだけでなく、マンション管理士・管理業務主任者においても大変に重要ですので、参考にしてください。

 なお、私が判決から20年近く過ぎた平成29年という今日、今更ながらの、平成10年の裁判を細かく取り上げるのは、裁判所の判断といっても、それは、基本的に裁判官と呼ばれる一部の人たちの判断であり、それは、一審と二審で、また二審と最高裁判所において異なった内容の判決が出されますように、その論理構成と判決は絶対的なものではないということです。

 さらに、判決がなされた時は、妥当と思われた裁判官の判断も時の変化によって修正が必要であるということでもあります。

 いつの時代でも、必要なのは、状況を把握した上で、自己の意見を持つことです。

 

  

★はじめに ~概説~

 詳細な解説に入る前に、これらの裁判での1つの争点をあげておきます。

◎不当利得とか委任を理由にして管理組合は、業者が得た代金を取り戻せるか → 最高裁判所の判決では、取り戻せない
 最高裁判所の結論が先に来ますが、ここで取り上げた、最高裁判所の判決において共通する認識は、マンションの分譲時において、区分所有者間で、特定の分譲業者が、専用使用権を有していることを購入者が容認・承諾している以上、分譲業者の行為は、「公序良俗違反」(民法第90条参照)に当たるものではなく、分譲業者が得た代金も区分所有者の団体(管理組合)に返還する必要はないというものです。

<参照>民法 第90条
(公序良俗)

第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

 しかし、この最高裁判所の判決には、一般の市民感覚としてもまた区分所有者としても、「どうして、区分所有者の物である敷地において、マンション販売とは別の販売行為として、分譲業者が二重に儲けることができるのか」と、大いに納得が行きません。
この気持ちは区分所有法等の関連法律の担当者も同様に抱いたようで、一連の最高裁判所の判決後「建物の区分所有等に関する法律」(以下、この解説においては、「区分所有法」といいます)においても、平成14年の改正時に、区分所有法第30条3項(規約事項)に以下の「利害の衡平」の規定が追加されました。

<参照> 建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第30条3項
 (規約事項)

第三十条  建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

2  一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。

3  前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。

4  第一項及び第二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。

5  規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、これを作成しなければならない。

 区分所有法第30条3項の規定の追加により、マンション分譲業者が、区分所有者の財産である敷地を二重に分譲するような行為は、無くなると期待していましたが、最高裁判所から分譲業者の行為は「不当利得に該当しない」との判決が出たことにより、分譲業者は、逆に、駐車場の専用使用権の二重分譲が法的に認められた取引行為であると認識し、平成10年以降も、区分所有者の共有財産である敷地に、別途駐車場の専用使用権を付けて分譲する方法がとられています。

 なお、マンションにおいて、特定の人が「専用使用」ができる部分としては、専有部分(室)と密接に繋がっている、バルコニーや1階に繋がった庭、屋上階のテラスなどがありますが、これらについては、特に紛争にはならず、分譲業者が特別に対価を得て特定の人に分譲した専用使用権がついた駐車場の存在が紛争の基となっています。

 では、平成10年に立て続けに判決がでた専用使用権の付いた駐車場をめぐる最高裁判所の4件の例を時系列で紹介し論評をします。

◎ここで取り上げる、最高裁判所の判決の4件の概要は以下の通りです。

 ケース マンション名  事件名   判決日 争点  最高裁判所の判決主旨 
   ミリオンコーポラス高峰館  駐車場専用使用権分譲代金返還請求 平成10年10月22日  *分譲業者が一部の買主に駐車場の専用使用権を分譲して得た対価は業者のものか管理組合のものか
*分譲業者は委任契約で二重の利益を得ているので、管理組合に返還しろ 
 不当利得でもなく、委任契約でもない。
→専用使用権付きで分譲された対価は、分譲業者のもの(ケース3のシャルム田町と同様)
  シャルマンコーポ博多   駐車場専用使用権確認請求 平成10年10月30日 *規約の変更が「特別の影響をおよぼすべき」とは、他  規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し当該区分所有の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう。
  シャルム田町   駐車場専用使用権分譲代金返還等請求 平成10年10月30日 *分譲業者が一部の買主に駐車場の専用使用権を分譲して得た対価は業者のものか管理組合のものか  不当利得でもなく、委任契約でもない。
→専用使用権付きで分譲された対価は、分譲業者のもの(ケース1のミリオンコーポラス高峰館と同様)
  高島平マンション   管理費等請求 平成10年11月20日 *①駐車場の一部の専用使用権を消滅させる集会決議は有効か(消滅決議)
 ②無償であった駐車場の専用使用権を有償化する集会決議は有効か(有償化決議)
  区分所有法第31条1項後段の「特別の影響を及ぼす」か否か
①専用使用権を消滅させることは、不利益であり、その「受忍すべき限度を超えているので本人の承諾がないと無効である。(消滅決議は無効)
②有償化することは不利益ではあるが、有償化について必要性及び合理性が認められ、かつ設定された使用料が区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められるので有効である。(有償化決議は有効)
・ケース2での「特別の影響」の応用事例


◎それでは、ケースごとに詳細を見ていきましょう。


ケース1.   ミリオンコーポラス高峰館の場合
 *物件の概要  
 マンションの名称  住所  戸数   構造、階数  建築年 
ミリオンコーポラス高峰館 福岡県北九州市小倉北区高峰町 全32戸、内1戸は未登記 RC,6階建て 1989年1月(昭和64年=平成1年)

*事案の概要
 マンション完成前の昭和63年7月頃から、マンションの分譲業者(百万両住宅 建設?(一審、二審では「建設」がない) 株式会社)は、マンション(総戸数32戸、内1戸は未登記)の分譲に際して、区分所有者の共有財産である敷地の一部に駐車場を設けて、マンションの購入者を対象に、専有部分の分譲とは別に、25区画分の駐車場の専用使用権を1区画80万円から110万円で分譲し、合計で2,440万円を対価として受け取った。
 入居が始まったのは平成元年3月からで、入居後の平成2年に、管理組合が、分譲業者が専用使用権付きの駐車場の分譲で得た金額は、管理組合のものではないかということに気付き、その対価の返還を巡って分譲会社と争い、最終的に、最高裁判所に持ち込まれたものです。

 ◎管理組合側の主張は、
  分譲業者が駐車場の専用使用権の分譲で受け取った金額は、マンションの管理組合に帰属するので、
   1.主位的に「公序良俗違反」による不当利得返還請求権に基づき、
   2.予備的に「委任契約」における受任者(管理組合)に対する委任事務処理上の金員引渡し請求権に基づき
  分譲業者が対価として受け取った金額を、管理組合に返還又は引渡しを求める でした。


  

 ◎これに対して、マンションの分譲業者の主張は、
  1.私的自治と契約自由の範囲内であり分譲代金を得たことは正当な営業利益であり不当利得ではない
  2.販売時にはまだ、管理組合が存在していない状況で代理も存在せず、委任も該当しない
    また、駐車場専用使用権を別途分譲することにより、マンションの全体の購入価格が安くなるメリットがある ともいっています。 

 <解説> ここで、裁判での主位的請求予備的請求とは、

 民事訴訟上、主な主張についての審判の申立てがその目的を達することができない場合を考慮して、主な主張と両立しない主張につき第二次的にする審判の申立ての事で、
主な主張の方を 主位的請求 
といい、
二次的な請求を 予備的請求
 といいます。

 申立人の便宜と訴訟経済の点から、主位的請求と予備的請求をすることが許されています。
 なお、訴状で、この主位的請求と予備的請求をした場合には、主位的請求が容認されれば、予備的請求は、不要となるため審理されないという関係にあります。

 <参照> 民法 委任 第643条から第654条まで。その抜粋
 
(委任)
 第六百四十三条  委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

 (受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条  受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。

2  受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

 *専用使用権とは
  本件で問題となっている「専用使用権」については、実は民法でも区分所有法でも規定がないので、その性質や内容は明確ではないのですが、一応
 「区分所有者の共有に属する建物の共用部分及び敷地について、特定の区分所有者又は第三者が、これを排他的に使用できる権限のこと
 と解されています。
 本来、最高裁判所において、この専用使用権を法的に明確にし、また問題となっています、駐車場専用使用権について言及し、その法的な性質
  ・分譲業者が勝手に分譲できるのか、
  ・所有権の用益権を別途分譲できるのか、
  ・民法の共有や区分所有法での特異性があるのか
  なども説明が必要な箇所でした。

◎一審(福岡地方裁判所小倉支部:平成6年2月1日)の判決 ~概要~ 委任が成立するので、管理組合にかえせ
  判決理由:
  ・建設省の通達(昭和55年12月1日)などによっても専用使用権付きの駐車場分譲では紛争が多発している。 これは取引の形態としては好ましくないので避けることとしている
  ・分譲業者がどのような権限によって駐車場専用使用権の対価を取得するのか契約書にない
  ・販売当初の管理規約案においても、分譲された駐車場対価の説明がない
  ・分譲された駐車場対価は長期間使用できる割には、廉価である
   などをあげ、
 最終的に、当初に締結された「管理委託契約」により、分譲業者は委任を受けていたので、管理組合が結成・設立されれば、専用使用権分譲で得た代金は、管理組合に引き継がれるので、管理組合に返還すべきとしました。
 これは、主位的請求:不当利得による請求、は理由がないが、予備的請求:委任による請求、を認めたものです。

 この判決を不服として、分譲業者が、控訴しました。  

◎二審(福岡高等裁判所:平成8年4月25日)の判決 ~概要~ 不当利得又は委任により管理組合にかえせ
 判決理由:
 ・土地の用益に関してなんの義務も負担していない分譲業者が駐車場専用使用権を譲渡できると考えると、土地の所有権と用益権との分離譲渡ができることになり、これは不公平な取引で安易に是認できない
 ・契約自由の原則といっても、一般の購入者は専門の分譲業者が定めた契約に従って契約するだけの自由しかなく、対等の交渉はできず、この場合には適用できない
 ・分譲業者が主張するマンションと別に駐車場専用使用権を分譲することによってマンションの分譲価格が低くなっているというが、これは客観的に検証・判定できない
 ・昭和55年に出された建設省の通知・通達や改正された宅地建物取引業法にみるように、駐車場専用使用権の扱いでは、帰属先等を明確にするようにしている
  この意図は、共有敷地の一部を駐車場として専用使用させる対価は、区分所有者全員(管理組合)が受け取るべきということである
  などをあげ、
 最終的に、土地付区分建物売買契約書及び重要事項説明書では、駐車場専用使用権の設定が明確でなく、分譲業者が駐車場専用使用権を分譲し対価を得ることについて、有効な合意が成立していないため、分譲業者による駐車場専用使用権の分譲は効力がないので、「不当利得」として管理組合に返還すべき。
 また、分譲業者は敷地の管理について管理組合から委任を受けていたので、敷地の一部に特定の共有者のために駐車場として専用使用を許した行為は、「外形的に委任業務の範囲に含まれる」から、駐車場専用使用権の分譲の対価を管理組合にかえせとしました。

 第二審では、駐車場専用使用権の分譲を不当利得または委任契約での金員返還と共に認定したことが、特徴です。

 この判決を不服として、分譲業者が、最高裁判所に上告しました。

◎最高裁判所の判決(平成10年10月22日)小法廷
 一審、二審とも分譲業者は、管理組合に分譲で得た対価を返すよう認めましたが、その根拠が「委任」なのか、「不当利得」によるものか分かれました。
 しかし、驚いたことに、最高裁判所では、一審、二審と異なり、今度は分譲業者の主張を認める次のような判決を出しました。

裁判の当事者  主張 判決 
上告人  分譲業者 1.分譲代金を得たことは不当利得ではない
2.対価を得たことは、委任ではない 
1.不当利得ではない
2.委任ではない 
被上告人 管理組合

*最高裁判所の判決の主旨  
 どうして、最高裁判所という良識の府が、一般感情をくみ取ったと思える一審、二審の判決を覆し、マンションの分譲業者の主張をそのまま認めたのか、その理由は次のようにあります。

 1.主位的請求:不当利得返還請求権に関して、専用使用権の分譲契約は、公序良俗違反(民法第90条参照)と認めることはできない。

  判決理由:
   売買契約書、重要事項説明書、管理規約案の記載から、専用使用権を取得した特定の区分所有者は、駐車場を専用使用できることを認識し、専用使用権を取得しなかった区分所有者は、専用使用を承諾し互いに理解したことは明らかであり、分譲業者が購入者の無思慮に乗じて、専用使用権分譲代金として暴利を得たとはいえず、専用使用権の分譲契約は公序良俗に反すると認める事情がない。

 2.予備的請求:分譲業者と管理組合との関係は、委任契約ではない。
  判決理由:
   売買契約書の記載によれば、分譲業者は、営利の目的で、自己の利益のために専用使用権を分譲して対価を受け取った。専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同じ認識をもっていたと解されるから、専用使用権の対価は、売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意があり、分譲業者のものである。
 管理組合側が主張する、区分所有者全員の委任により、分譲業者が受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、専用使用権分譲契約における当事者の意思に反していて、できない

◎香川の意見 ~最高裁判所の判断は誤っている~
 1.基本的に、区分所有者の共有財産である敷地を、分譲業者は勝手に分譲できない。
   通常、マンションの敷地の所有者は、そのマンションの区分所有者の共有となっています。
  その敷地を共有者でない分譲業者がどうして分譲できることになるのでしょうか?
  どのような権限を分譲業者は有しているのでしょうか。
  当初のマンション分譲契約において、専用使用権を購入者が認めているから分譲が可能だと、最高裁判所は考えているようですが、そもそも分譲契約時の実態が検討されるべきです。

 2.契約自由の原則はあるが、マンションの購入者が、契約の内容を十分に理解していたとは思えない。
  裁判に持ち込まれた理由は、マンションの購入者は、購入時には、契約の内容を理解・認諾しておらず、入居後、マンションの分譲業者が駐車場の専用使用権を別途分譲したことに気付き、つまり、購入後に契約内容を理解し、不合理な契約の実態が分かったということです。

  最高裁判所は、この契約の内容が購入者にとって不都合である点を重要視し、もっと民意に沿った判決をして欲しいものです。

 この判決は平成10年という時点で出されたものであり、法的な判断は、民法の不当利得とか委任契約の有無を判断材料にしていますが、現在では、区分所有法がもつ「団体的規範」(多くの事項が多数決によって決められる)の理論構成をし、分譲の開始と共に区分所有法が適用され、これによって、敷地は区分所有者の団体(管理組合)の物であり、区分所有関係にない分譲業者が勝手に分譲できる「専用使用権」は認めないという、管理組合の立場に立った解決策を導き出し、分譲業者の二重利益を得る行為を規制すべきです。

 だいたい、法律に疎いマンションの購入者が、契約時において専用使用権などという専門的な言葉の持つ意味や別途専用使用権を分譲できる権利を分譲業者が持っているなんてことは、購入にあたって、生まれて初めて眼にする何千万円かの分譲価格の支払いや面倒な登記移転手続きで興奮している購入者にしてみれば、十分には理解できません。
 マンションの分譲業者とその購入者の間で、有効な合意が成立したと解することは到底できません。

 3.分譲業者は、どうして、専用使用権の分譲ができるのか。
   最高裁判所は、分譲業者が駐車場の専用使用権を分譲したのは、不当利得でも委任でもないと管理組合の主張を否定だけし、その対価は分譲業者の物だとしていますが、では、逆に分譲業者は、どんな法的な地位から、駐車場の専用使用権を分譲できるのか、ここには言及していません。
 判決文でいうように、「分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得する取引形態は、好ましいものとはいえない」とするなら、どうしてこの部分の主張を管理組合の立場に沿って展開しなかったのか、最高裁判所としてさらなる説明が欲しいものです。

 そこで、私は、この最高裁判所の判決に対しては、反対で、管理組合が主張するように、分譲業者は、区分所有者の共有財産を勝手に処分して利得を得たので、専用使用権の分譲対価を、管理組合に返還することを主張します。

*過去の判例
 ところで、どうして、最高裁判所は、管理組合の立場からの見解ができなかったのでしょうか?
 それは、遡ると、昭和56年1月30日の最高裁判所の判決があり、裁判所の組織としてその判決に捉われたためです。
 そこでは、この平成10年の最高裁判所のミリオンコーポラス高峰館判決の「公序良俗違反ではない」のもとになった判決を出しています。

 昭和56年1月30日の最高裁判所の判決の概要(メガロコープ平野第1事件)は以下のとおりです。

◎判示事項:
 土地付分譲マンション付属の駐車場専用使用権分譲特約が公序良俗違反として無効とはいえないとされた事例

◎裁判要旨: 
 マンション分譲業者がマンションの敷地の持分と右敷地内の付属の駐車場専用使用権とを別個に譲渡することが同一土地から二重に利益を得ることになるものと速断することはできず、マンション購入者の全員において、駐車場専用使用権を土地付マンション本体の分譲とは別個に購入者に対して分譲する権利が分譲業者に留保されていること並びに右専用使用権の分譲を受けた者及びその譲受人が右駐車場を専用使用することを容認・承諾して、分譲業者とマンション分譲契約を締結したことなど原審認定の事情のもとにおいては、右駐車場専用利用権の設定に関する約定が公序良俗に反するものとはいえない

 参照法条:
民法90条,民法251条,民法252条,建物の区分所有等に関する法律8条,建物の区分所有等に関する法律9条,建物の区分所有等に関する法律23条,建物の区分所有等に関する法律24条

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 原文: 主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

 理    由
 上告代理人松本剛の上告理由について所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、是認することができ、右事実関係のもとにおいて、本件マンション購入者と訴外D興発株式会社との間の駐車場専用使用権の設定に関する約定が公序良俗に違反するものとは認められないとした原審の判断は、正当として是認することができる。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官   木下 忠良
             裁判官   栗本 一夫
             裁判官   塚本 重頼
             裁判官   鹽野 宜慶
             裁判官    宮崎 梧一

  <参考>

  民法 第90条
  (公序良俗)  
   第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

  民法 第251条
  (共有物の変更)
  第二百五十一条  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
     
  民法 第252条
  (共有物の管理)
  第二百五十二条  共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。


  建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第8条
  (特定承継人の責任)
  第八条  前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

  建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第9条
  (建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
  第九条  建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。

  建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第23条
 (分離処分の無効の主張の制限)
  第二十三条  前条第一項本文(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定に違反する専有部分又は敷地利用権の処分については、その無効を善意の相手方に主張することができない。ただし、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)の定めるところにより分離して処分することができない専有部分及び敷地利用権であることを登記した後に、その処分がされたときは、この限りでない。

  建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第24条
  (民法第二百五十五条 の適用除外)
  第二十四条  第二十二条第一項本文の場合には、民法第二百五十五条 (同法第二百六十四条 において準用する場合を含む。)の規定は、敷地利用権には適用しない。

上の、昭和56年1月30日の最高裁判所の判決にありますように、分譲業者が駐車場専用使用権を、別途分譲してもそれは、二重の利益を得るものではなく「公序良俗違反」ではないというものです。
この判決は、分譲業者にとっては、駐車場の専用使用権を別途分譲する方式が最高裁判所によって認められたものとしてとらえられました。

 ミリオンコーポラス高峰館の場合も、裁判所のやり方として、昭和56年1月30日の最高裁判所の判決を踏襲した(というより、縛られた)ものですが、ここは、新しい区分所有法による理論で展開して欲しかったところです。

*裁判用語として、
   ・棄却する・・・受理した訴訟について、審理の結果その理由がないとして請求を退ける(認めない)事。
   ・却下する・・・訴訟上の申し出や申請などを取り上げないで、門前払いする事。
   ・破棄する・・・事後審査を行う上級裁判所(高等裁判所など)が、上訴に理由があるとして原判決を取り消す事。
   ・差し戻す・・・原判決を取り消し,事件をもとの裁判所へ送り返して,再度の審判を命じること。原判決に誤りがあるが,上訴裁判所みずから事件自体に対し結論をくだすことが法律上または事実上できない場合に行なわれる。 
  があります。

 ★ミリオンコーポラス高峰館事件での最高裁判所の判決文は以下の通りです。

主    文
原判決を破棄し、第一審判決中、被上告人の予備的請求に関する部分を取り消す
被上告人の予備的請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 理    由
 上告代理人永松達男の上告理由について
 一 本件は、マンション分譲業者である上告人が、マンションを分譲するに際し、区分所有者の共有となるべきマンション敷地の一部に駐車区画(以下「駐車場」という。)を設け、建物専有部分の区分所有権及び敷地の共有持分とは別に、マンションの購入者(以下「購入者」という。)のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権(以下、原則として「専用使用権」という。)を分譲して対価を受領したため、この対価が分譲業者とマンション管理組合のいずれに帰属すべきものかをめぐって争われている事案である。
 マンション管理組合の管理者である被上告人は、
 主位的に不当利得返還請求権に基づき、
 予備的に委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき、
上告人に対して右対価の返還又は引渡しを請求したところ、
 第一審は、右予備的請求を認容し、
 原審も、第一審の判断を正当として上告人の控訴を棄却した。

 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、マンション分譲業者であるが、昭和六三年七月ないし同年一一月に、本件マンションについて建物専有部分の区分所有権及び本件敷地の共有持分を分譲販売した。本件マンションの専有部分の建物戸数は、三二戸(うち一戸は未登記)である。
 2 本件敷地は、本件マンションの区分所有者がその所有する建物専有部分の床面積の割合に応じて共有している。
 3 上告人は、本件マンションを分譲販売するに際して、本件敷地の一部(空き地部分)に二五区画の駐車場を設け、駐車場の使用を希望する購入者に対し、本件マンションの分譲とは別に、専用使用権を一区画八○万円ないし一一○万円で分譲し、合計二四四〇万円を受領した。
 4 本件マンションの管理委託契約書には、購入者は、上告人に本件マンションの管理等を委託するが、上告人は、本件マンション竣工後六箇月以内、又は入居者が八○パーセント以上となったとき、建物の区分所有等に関する法律に基づいて区分所有者全員で構成する管理組合に管理業務を引き継ぎ、管理委託契約を解除する旨が規定されている。
 5 本件マンションの土地付区分建物売買契約書には、「売買代金は、駐車場対価としての代金○○円也を含む。」(一条)、「本件マンションの買主は、本件敷地の一部を駐車場として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する。専用使用権を取得する買主は、専用使用に当たり、別に定める費用を支払わなければならない。」(九条)との趣旨の規定がある。
 右一条の駐車場対価としての代金欄には、専用使用権を取得する者については具体的な金額が記入され、それ以外の者については空欄とされた。
 6 購入者に対して交付された重要事項説明書には、「専用使用権に関する規約等の定め」として、「駐車場」の欄に、「専用使用をし得る者 特定区分所有者」、「専用使用共益費の有無 有り・一区画当たり一箇月五〇〇円」、「専用使用共益費の帰属先等管理組合」との記載がある。
 7 上告人が作成した本件マンションの管理規約案にも、区分所有者は、特定の区分所有者がバルコニー、駐車場、屋上テラス等につき専用使用権を有することを承認する旨の条項がある。右管理規約案は、後に区分所有者全員に承認され、管理規約として成立した。

 二 原審は、右事実関係の下において、要旨、次のとおり判断して、被上告人の予備的請求を認容すべきものとした。
 1 本件マンションの分譲に際し、購入者は、専用使用権の性質、効力等、契約の基本的な部分について十分に理解した上で契約を締結したとはいえないから、上告人と購入者全員との間において、上告人が専用使用権を分譲し、その対価を得ることについて、有効な合意が成立したと解することはできない。上告人による専用使用権の分譲は、その効力を否定すべきである。
 2 一方、委任契約に基づく委任事務を処理するにつき、受任者が、外形的に委任の範囲に属する行為を自己のためにする意思の下に行い、これにより金員を収受したときは、委任者は、受任者に対し、右金員を委任事務処理を行うにつき収受したものとして、受取物引渡請求権を行使することができると解される。
 3 本件の場合、上告人は、購入者から本件敷地の管理に関する業務を行うことの委任を受けていたものであり、本件敷地の一部につき特定の区分所有者のために駐車場として専用使用することを許諾した行為は、外形的に右委任業務の範囲に含まれるということができるから、購入者は、上告人が専用使用権分譲の対価として収受した金員の引渡しを求めることができる。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである
 1 前記一の売買契約書、重要事項説明書、管理規約案の記載に照らすと、本件駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人が特定の区分所有者に分譲したものであるところ、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得ることを、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を承認すべきことをそれぞれ認識し理解していたことが明らかであり、分譲業者である上告人が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情も存しない。
 
なお、本件のように、マンションの分譲に際し分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得する取引形態は、好ましいものとはいえないが、このことのゆえに右契約の私法上の効力を否定することはできない。

 2 そして、右売買契約書の記載によれば、分譲業者である上告人は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意の内容に従って上告人に帰属するものというべきである。
 この点に関し、上告人が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右専用使用権分譲契約における当事者の意思に反するものであり、前記管理委託契約書の記載も右判断を左右しない。
 また、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものといわなければならない。

 3 したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき右対価の引渡しを求める被上告人の予備的請求は、理由がない。

 四 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の予備的請求は理由がないから、第一審判決中、右予備的請求に関する部分を取り消した上、これを棄却することとする。
 よって、裁判官遠藤光男の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 
 裁判官遠藤光男の補足意見は、次のとおりである。
 私は、本件におけるマンション販売方式ないしマンション管理業務に関連して、若干補足して意見を述べておくこととしたい。
 一 分譲業者がマンションを分譲するに当たり、建物専有部分(敷地の共有持分を含む。)とは別に、駐車場の専用使用権を分譲してその対価を取得する販売方式については、
 (1)分譲業者が、購入者に対して分譲したはずの敷地について二重の利益を得ている疑いが持たれるのみならず、
 (2)マンション分譲後においても、専用使用権の譲渡、存続期間、有償化ないし使用料の増額などをめぐって専用使用権者と管理組合との間に紛争が生ずる等の問題の存することは、被上告人の指摘するとおりである。
 したがって、既に建設省が行政指導において明らかにしているように、このような販売方式は好ましいものではなく、速やかに根絶されなければならないと考える。
 しかし、立法論や行政指導としてであれば格別、基本的に契約自由の原則が妥当する現行法の下における解釈論としては、おのずから限界があるものといわざるを得ない。

 二 まず、(1)の二重の利益の点については、右の販売方式が分譲業者に常に二重の利益をもたらすものということはできない。
 分譲業者がマンションを分譲するに際しては、まずもって、その原価、諸経費、利益金等を念頭に置き、分譲代金の総額を定めた上、各建物専有部分につきできる限り分譲しやすい販売価格を設定するべく、その一つの方法として、購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して駐車場専用使用権付きでマンションを分譲し、別途その対価を支払わせることによって、その分だけ建物専有部分を廉価に販売することも十分に考えられるところである。
 このように価格の設定が経済的合理性に基づいて行われている限り、専用使用権の分譲代金は、自己の利益のために専用使用権を分譲した分譲業者に帰属するものと解するほかはない。
 原審の判示するように、価格の設定が合理的なものかどうかを判定するのは実際上容易なことではないが、このことのゆえに、右の販売方式の効力を否定したり、分譲代金の帰属について当事者の意思と異なった解釈を採ることはできない。
 また、(2)の点については、このような問題が生ずる可能性があるからといって、直ちに右の販売方式の私法上の効力を制限する解釈を採ることは困難というべきであるこれらの問題は、別途、建物の区分所有等に関する法律の規定の解釈などを通じて、妥当な解決を図るほかはない。

 三 そうすると、購入者の無思慮に乗じ、専用使用権分譲代金の名の下に分譲業者が暴利を得ているような場合には、公序良俗違反(暴利行為)として専用使用権分譲契約自体の効力を否定することができ、また、分譲業者が二重の利益を得たことが客観的に立証された場合には、不当利得返還請求を認めることができるとしても、前記のような問題が存することのみに依拠して、契約当事者が合意の上で締結した専用使用権分譲契約の効力を否定すべきいわれはなく、いわんや、分譲業者において、管理組合が活動を開始するまでの間、管理業務の一部を代行している事実があるからといって、契約に明示された当事者の意思に反し、専用使用権の分譲までもが委任事務の一環であるとして、その収受金を委任事務処理上受領した金員と評価することなどはできない筋合いである。
 原判決の意図するところは理解し得ないではないが、結果的な妥当性を追求する余り、解釈論としての範囲を超えた無理な法律構成、法律解釈を採るものといわざるを得ない。

 四 私は、法廷意見も、以上の言わば現行法の下における解釈論上の当然の帰結を明らかにしたにとどまるものであり、本件の販売方式を積極的に容認したものではないとの理解の下に、法廷意見に賛成するものである。

     最高裁判所第一小法廷
        裁判長裁判官  藤井 正雄
             裁判官 小野 幹雄
             裁判官 遠藤 光男
             裁判官 井嶋 一友
             裁判官 大出 峻郎

 判決文は、かなりな長文ですが、遠藤裁判官の補足意見も読むと、裁判官もその立場上、苦労する職業であることがよくわかります。
しかし、それなら、管理組合の立場から、解決策を指摘すべきで、私(マンション管理士 香川)は、この判決には、同意しません。


ケース2.   シャルマンコーポ博多の場合
 *物件の概要  
 マンションの名称  住所  戸数   構造、階数  建築年 
シャルマンコーポ博多 福岡県福岡市博多区千代 全364戸 SRC,11階建て 1974年9月(昭和49年)

 

 2番目に取り上げる、シャルマンコーポ博多の事例は、ケース1での「ミリオンコーポラス高峰館」と同様に、分譲業者がマンションの駐車場の専用使用権を分譲したのですが、裁判での当事者となったのは、管理組合と駐車場の専用使用権を分譲された一部の区分所有者です。 そのため本件では、分譲業者が取得した分譲代金の返還問題は取り上げられてはいません。

 この、シャルマンコーポ博多事件で争点となったのは、区分所有法第31条1項後段に規定されている「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に”特別の影響”を及ぼすべきときは、その承諾を得なければいけない」での「特別の影響」とは何かです。

<参考> 建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第31条(規約の設定、変更及び廃止)

第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、
規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に
”特別の影響を及ぼすべきとき”は、その承諾を得なければならない。

 そこで、香川の意見としては、「特別の影響」の解釈部分の判決については、特に反対とか納得できないとかはありませんが、このシャルマンコーポ博多事件の最高裁判所の判決においても、争いの根本である駐車場の専用使用権を分譲業者が勝手に処分できるのかどうかも最高裁判所として明確に判断をして欲しいところでした。

*事案の概要
 裁判では当事者でない(訴外)分譲業者が、昭和49年10月に、11階建で、居室357戸、他に1階店舗8戸のマンションを新築し分譲した。
 敷地の一部に47区画の駐車場を設置して、先着順に、当時としては高額な、普通自動車は、40万円、軽自動車は、30万円として駐車場専用使用権をマンションの分譲代金(平均850万円)に含めて分譲した。
そして、月額使用料は、細則で普通自動車は、700円、軽自動車は、500円と定められていた。
 その後駐車場が不足したので、管理組合は、昭和52年(分譲後3年目)に新しく敷地内に駐車場14区画を増設し、また近隣の民間駐車場10区画を借り上げて、共に 月額10,000円の使用料を取っていたが、旧来の専用使用権者の使用料と新規利用者では使用料に大きく差があるので管理組合内で不満がでた。
 そこで、平成2年5月の総会で規約が改正され、規約の改正に基づき使用料を定める細則も改正され、専用使用権のある駐車場使用料は、普通自動車も軽自動車も、平成2年度は、月額4,000円、平成3年度は、月額5,000円、平成4年度以降は、月額6,000円と増額された。
なお、この専用使用権付き駐車場の47区画の内12区画は、その後管理組合が買い取った。
 しかし、駐車場専用使用権者たちは、従来の金額しか支払わなかったので、管理組合は、平成3年3月22日付で、平成3年4月22日までに滞納分(増額分)を支払えと催告したが、支払が無かったので、駐車場使用契約を解除した。
 そこで、駐車場専用使用権者たちからの裁判になった。

 ★駐車場専用使用権者(原告)の主張
   駐車場専用使用権者の請求内容は、以下の4点です。
   1.駐車場専用使用権を有することの確認
   2.駐車場専用使用権を建物区分所有権等と共に自由に譲渡・賃貸する権利を有することの確認
   3.(使用料値上げを決めた総会決議は無効なので)平成2年7月1日以降、月額700円(普通車両の場合)を超えて使用料を支払う義務のないことの確認
   4.駐車場専用使用権者らの駐車場の占有使用の妨害禁止
 で、主張の中心は、
  ・使用料の増額を定めた総会決議は、駐車場専用使用権者に区分所有法第31条1項後段での「特別の影響」を及ぼすので、駐車場専用使用権者の承諾がため総会の決議は無効であり、よって増額分の支払い義務はない
 です。

  

 ●一審(福岡地方裁判所:平成6年7月26日)の判決 ~概要~ 「特別の影響に該当する」 承諾が必要
  判決理由:
  区分所有法第31条1項後段での「特別の影響」を及ぼすとは、
  「当該少数の区分所有者に対して合理的な理由もないのにその受忍すべき限度を超え、保護の趣旨を失わせる結果となること」
  をいうとして、管理規約の改正は、
  ・駐車場専用使用権者は、取得に対して高額な専用使用料を払い、永久に駐車場を専用使用できると考えていた
  ・専用使用の駐車場は、後から増設された駐車場と区別されている
  ・旧の規約では、駐車場専用使用権者の過半数の同意が必要とされている
  ・増額幅が時世の変化の域を超えている
  などから、駐車場専用使用権者の権利は、区分所有法第31条1項後段での「一部の区分所有者の権利に特別の影響」を及ぼすに該当し、駐車場専用使用権者の承諾なしに、規約は改正できないので、増額の支払い義務はないとした。

  なお、原告主張の 「2.駐車場専用使用権を建物区分所有権等と共に自由に譲渡・賃貸する権利を有することの確認」は、管理組合の承認がなくては自由に譲渡ができない、と一審では棄却されています。

 そこで、一審の判決を不服として管理組合側が、「特別の影響」を中心に、福岡高等裁判所に控訴した。

◎二審(福岡高等裁判所)での争点の概要
  ★管理組合の主張(控訴人);
   ・規約で駐車場専用使用権は、新規加入の区分所有者には認めていないので、駐車場専用使用権の譲渡はできない。
   ・敷地は区分所有者の共有物であり、債権的な使用権で、管理組合の管理の対象となり、自由に譲渡・賃貸できない
   ・増額は妥当であり、これを決めた規約の改正及び細則は、適法である。
   ・定められた駐車場使用料の増額分を支払わないので、駐車場使用契約を解除した。これにより駐車場専用使用権も消滅した。

 ★駐車場専用使用権者(被控訴人)の論点は、
  一審で棄却された 「2.駐車場専用使用権を建物区分所有権等と共に自由に譲渡・賃貸する権利を有することの確認」を除いて以下の3点にしました。
  1.駐車場専用使用権を有することの確認
  2.(使用料値上げを決めた総会決議は無効なので)平成2年7月1日以降、平成3年4月22日(駐車場使用契約が解除された日)までの間、月額700円(普通自動車の場合。軽自動車は500円)を超えて使用料を支払う義務のないことの確認
  3.駐車場専用使用権者らの駐車場の占有使用の妨害禁止

 ●二審(福岡高等裁判所:平成7年10月27日)の判決 ~概要~ 「特別の影響に該当しない」 承諾は不要
  判決理由:
  「駐車場専用使用権」は、
 「マンション区分所有者の共有に属する敷地の一部に設けられた駐車区画の一区画を、自動車の駐車、保管の目的で、独占的かつ排他的に使用することができる地位もしくは権能」
 と定義付けてもその解釈は確定していないとし、
  ・分譲業者が行った営利目的の駐車場専用使用権の分譲は、法的根拠がなく無効である。
  ・一般に、土地の所有者は、自己の意思のみによっては、自己所有の土地の上には自己のために、地上権、地役権、賃借権、使用権その他の用益権を設定することができないから、分譲業者が、分譲開始前に、あらかじめ自己のために敷地の一部に専用使用権を設定して、これを、マンションの購入者に分譲することも法的に不可能である。
  ・契約自由の原則であっても、土地の所有権と用益権(使用権)が分離処分できるという複雑な内容を、通常のマンションの購入者が認識・理解していたとは解することができず、有効な合意は成立していない。
  ・駐車場専用使用権を別途分譲する販売方法は、将来にわたって、購入者の共用部分等の円滑な共同利用を妨げるおそれがあるので、許されない。
  
  そして、争点となった管理規約の改正は、
  ・駐車場専用使用権の法的な性格を明らかにし、区分所有者間の駐車場利用の公平化・適正化を図るのが目的。
  ・駐車場専用使用権自体をはく奪するものではない。
  ・駐車場の使用料を定めた「細則」も、以前からの駐車場専用使用者にとっては、一定の不利益を及ぼすが、増設駐車場の使用料との均衡を図るためである。
 などの理由で、駐車場専用使用権者が主張する駐車場専用使用権は改定後の使用料の滞納により無くなり、規約の改定においては、駐車場専用使用権者の存在は、区分所有法第31条1項後段での「一部の区分所有者の権利に特別の影響」を及ぼすに該当しないので、その承諾は不要とし、駐車場専用使用権者(被控訴人)の主張を棄却した。
 
 なお、駐車場専用使用権者の主張する「平成2年7月1日以降、平成3年4月22日までの間、月額700円(普通自動車の場合。軽自動車は500円)を超えて使用料を支払う義務のないことの確認」については、二審の判決ではこれを認めていますが、そこでは、難しい理論展開をしていますので、時間のある人は、判決文を別途検討してください。 

  二審(福岡高等裁判所)では、一審で原告であった駐車場専用使用権者の死亡や譲渡があり、面倒な「附帯控訴」もありますが、
  駐車場専用使用権は、「強固な保護を受ける物権的用益に類似する土地利用権ではなく、権利者は、自由に譲渡・賃貸などの処分ができるという解釈は根拠がない」としていることは、専用使用権の付いた駐車場を分譲業者が勝手に分譲していいのかの判断においても、一歩進んだもので評価できます。

 <参考>

附帯控訴とは、民事訴訟法で定められている。
 控訴された者(被控訴人)が別途、独立に控訴しないで、相手の控訴に便乗して控訴審の手続き内で一審で審理されなかった事項について自己に有利に取消しや変更を求める申し立てのこと。
 
 民事訴訟法第293条
 
 (附帯控訴)
 第二百九十三条  被控訴人は、控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、附帯控訴をすることができる。

  2  附帯控訴は、控訴の取下げがあったとき、又は不適法として控訴の却下があったときは、その効力を失う。ただし、控訴の要件を備えるものは、独立した控訴とみなす。

  3  附帯控訴については、控訴に関する規定による。ただし、附帯控訴の提起は、附帯控訴状を控訴裁判所に提出してすることができる。

 ★判決文での
  ・債権的な使用権と物権的用益の違い
   債権的なら、特定の人に対する権利で、物権が持つ排他性や絶対性などの強い支配力がないということ。


 一審と二審では、駐車場専用使用権者の権利について、区分所有法第31条1項後段での「一部の区分所有者の権利について特別の影響を及ぼす」の解釈が、まったく逆の判断となったため、駐車場専用使用権者から、最高裁判所の判断を仰ぐことになりました。

◎最高裁判所の判決(平成10年10月30日)

裁判の当事者  主張 最高裁判所の判決 
上告人  分譲業者から駐車場の専用使用権を分譲された区分所有者 区分所有法第31条1項後段の「特別の影響」の解釈
特別の影響を及ぼすべきとは
規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、
 当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」
被上告人 管理組合

 上でも説明しましたように、ケース2.として取り上げました「シャルマンコーポ博多事件」の最高裁判所の判決では、区分所有法第31条1項後段に規定されている
 1.「特別の影響」とは何かが中心になっていますが、
  そのほかにも 
 2.特別の影響に該当しない例
 3.特別の影響の判断は、規約の変更だけでなく、細則を変更する「集会の決議」においても、類推適用される
 4.特別の影響の判断は最終的に裁判所が行うので、係争中には該当する駐車場の契約解除は、最終判断がされるまでできない
 についても述べられています。

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1.「特別の影響」とは何か ~区分所有法上~
  まず、区分所有法においては、その規定されている文言で内容が不明確な
  「特別の影響を及ぼすべきとき
  の表現が、区分所有法第17条2項(共用部分の変更)や同第31条1項後段(規約の設定、変更及び廃止)に規定されています。

  しかし、「特別の影響」とは具体的にどんなことが該当するのか分からず、過去の下級審において、
  ・専有部分の用途に制限を設ける場合、
  ・管理費の負担割合、議決権の割合、
  ・マンションの1階にある店舗が著しい煙や臭気を発する場合の営業の禁止、
  ・駐車場や営業店舗部分の専用使用権の消滅、
  ・犬などペットの飼育禁止
  など規約の変更時において、それが「特別の影響」に該当するのかしないのかの判断がそのたびに争われていました。
 そこで、「シャルマンコーポ博多事件」での判決では、最終的に最高裁判所は、争点の1つとして、 区分所有法第31条1項後段に規定される「特別の影響」の意義を最高裁判所の判断として定めました。

<参考> 建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第31条(規約の設定、変更及び廃止)

第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、
規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に”特別の影響を及ぼすべきとき”は、その承諾を得なければならない。

1-A.最高裁判所が考える「特別の影響」とは
  平成10年10月30日の「シャルマンコーポ博多事件」における最高裁判所の判決では、

  「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」の意義は、
   規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、
   当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合 をいう

  とのことで、
  規約の設定、変更等が
  ①どの程度必要なのか、またどの程度合理性があるのか を
  ②一部の区分所有者が受ける不利益はどの程度か とを
  ③様々な角度から比較し、考えて、 また
  ④そのマンションの区分所有関係の実態もよく検討して
  ⑤最終的には、不利益を受ける一部の区分所有者が、共同生活を営む上で、通常、がまんできる限度を超えている場合をいう、
  ことになります。

  簡単にいいますと、「特別の影響」の有無はいろいろな角度から検討して決めなさいということで、過去の下級審での判断を言い換えた程度にすぎず、最高裁判所の判断にしても、当然のことで、特に目新しいことはありません。
「受忍できる限度」を超えているかどうかの判断は、これまた、難しい表現で、現実としては、事案ごとに裁判所が判断することになりますが、それでも、当事者間では、なかなか納得がいかず、上級裁判所でまた争われることでしょう。

 しかし、最高裁判所が示したこれらの要件に従って、下級審は事案ごとに具体的に検討することになります。

1-B.区分所有法第17条2項にも適用される。
  最高裁判所が示した区分所有法第31条1項後段での規約の設定、変更又は廃止における場合での「特別の影響」の意義は、他の区分所有法第17条2項(第18条3項で準用)の共用部分の変更における場合での「特別の影響」の有無についても、適用され、
 ・共用部分の変更、管理行為の必要性・合理性と不利益を受ける区分所有者の不利益を比較衡量して、受忍すべき程度を超えているか否かを判断基準にする
 という考え方にもなります。

<参照>建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法)

(共用部分の変更)
第十七条  共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

2  前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。


(共用部分の管理)

第十八条  共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

2  前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。

3  前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。

4  共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。

 ◎最高裁判所が出した「特別の影響」意義については、香川としては、結局、事件ごとに検討する基準が、やや明らかになったというだけで、「そうですか」という程度ですから、別に異議はありません。
 
 なお、「特別の影響」の判断については、「規約の設定・変更又は廃止」での集会だけでなく、以下の 3.「細則で金額を変更する”集会の決議”においても類推適用される」において説明しますように、「規約の設定・変更又は廃止」時だけでなく、「使用料を設定・変更又は廃止する細則」を集会で決議する場合にも、類推適用されますので、注意してください。

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 平成10年10月30日の最高裁判所の「シャルマンコーポ博多事件」の判決では、他にも区分所有法第31条1項後段の「特別の影響」を巡って、次の点についても、判決文があります。   

2.区分所有者が専用使用権を有するマンションの使用料を増額する規約の設定、変更等が専用使用をしている区分所有者にとって「特別の影響を及ぼさない場合」の例示
  ~増額が社会通念上相当な額なら「特別の影響」に該当しない~

  判決文においては、上の1.のように、「特別の影響」とは何かを示し、続いて、  
  *区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料を「増額」する規約の設定、変更等は、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすが
     ①増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、
     ②増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、
     ③専用使用権者は、使用料の増額を受忍すべきで
     ④使用料の増額は、専用使用権者の権利において建物の区分所有等に関する法律31条1項後段にいう「特別の影響」を及ぼすものではない と例示しています。

    ということで、また分かり難い「社会通念上相当な額」とは、
   
①当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体との価格の関係
    ②分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移
    ③この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動
    ④専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間
    ⑤マンション駐車場の維持・管理に要する費用 
   等を総合的に考慮して、判断すべき ともしています。

    これらの最高裁判所の例示に従って、その後の裁判は「特別の影響」について審理をすることになります。  

 ---------------------------------------------------------------  

3.区分所有者が専用使用権を有するマンションの使用料を増額する「細則の変更の集会の決議」に対しても区分所有法第31条1項後段の「特別の影響」を類推適用する

  「シャルマンコーポ博多の事件」では、具体的には、駐車場使用料を、月額700円(普通自動車の場合)から月額4、000円に増額することを「規約の変更」ではなく「管理費等に関する細則に定めた使用料の変更」として「集会の決議」で行ったため、
 判決文では、
  「区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料が、直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議もって増額された場合にも、建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。」 
 とし、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成(特別多数決議)が必要な規約の設定、変更又は廃止の手続きによらず、多くは、集会の出席者の過半数(普通決議)などで決定できる管理費等の金額を定めている「細則」によって集会の決議で増額する場合においても、「特別の影響」を及ぼす区分所有者がいれば、その人の承諾が必要としています。

  「特別の影響」を及ぼすかどうかは、規約の設定、変更及び廃止を定めた区分所有法第31条1項後段での「特別の影響」の判断基準
  規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、
 当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう

 が、細則の金額変更を行う「集会の決議」においても類推適用されるということです。

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4.「特別の影響」の判断は最終的に裁判所が行うので、係争中には該当する駐車場の契約解除は、最終判断がされるまでできない

  「シャルマンコーポ博多事件」の判決文の最後では、「特別の影響の判断は最終的に裁判所が行う」ので、その係争中には該当している駐車場の契約解除は、裁判所の最終判断がされるまでできないと示したことです。
 
 判決文によりますと、マンション駐車場の専用使用権を有する区分所有者が、使用料を増額する集会決議の効力を争い、管理組合の主張する増額使用料の支払義務の不存在確認を求める訴訟を提起し、既に三回の口頭弁論期日が開かれていたにもかかわらず、管理組合が、専用使用権者に対して増額使用料を支払うように催告し、その支払に応じないことを理由として駐車場使用契約を解除する旨の意思表示をしたことは、管理組合の主張する使用料の増額の適否については、一審、二審で判断が異なったように、社会通念上相当なものであることが明白であるとはいい難いことなどから、専用使用権者が従来の支払をすることは無理ではないので、管理組合が増額に応じないからといって、駐車場契約を解除しても、その効力はないとしたものです。

 この事件での「特別の影響」の有無は、2.で説明しました「社会通念上相当な額」と思われる内容が確定しなければなりません。
 そこでは、
  ①当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体との価格の関係
  ②分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移
  ③この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動
  ④専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間
  ⑤マンション駐車場の維持・管理に要する費用 
   等を総合的に考慮して、判断すべきで、
  これらを行うのは、裁判所で、また結論がでるには、時間がかかります。

 しかし、裁判所の最終的な「社会通念上相当な額」の判断がまだ出ていないのにも関わらず、一方の当事者である管理組合が勝手に現行の駐車場使用料 月額700円 を 月額4,000円 に増額したことに駐車場使用者が応じないのからといって、早々と駐車場契約を解除して、専用使用権を奪うことは効力がない(無効)ということです。
 そこで、最高裁判所は、この駐車場使用契約の解除を有効とした原審(福岡高等裁判所)に対して、増額された使用料が「社会通念上相当な額」かどうかもう一度審議をしろと、差し戻しました。

*裁判用語として、
   ・棄却する・・・受理した訴訟について、審理の結果その理由がないとして請求を退ける(認めない)事。
   ・却下する・・・訴訟上の申し出や申請などを取り上げないで、門前払いする事。
   ・破棄する・・・事後審査を行う上級裁判所(高等裁判所など)が、上訴に理由があるとして原判決を取り消す事。
   ・差し戻す・・・原判決を取り消し,事件をもとの裁判所へ送り返して,再度の審判を命じること。原判決に誤りがあるが,上訴裁判所みずから事件自体に対し結論をくだすことが法律上または事実上できない場合に行なわれる。 
  があります。

 ★シャルマンコーポ博多事件での最高裁判所小法廷の判決の概要。平成10年10月30日付
   (ケース3のシャルム田町事件と同じ判決日だ。)

●判示事項事案:
 一 建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」の意義
 二 区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料を増額する規約の設定、変更等が専用使用権者の権利に建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「特別の影響」を及ぼさない場合
 三 区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料を増額する集会決議と建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段の類推適用
 四 マンション駐車場の専用使用権を有する区分所有者が増額された使用料の支払に応じないことを理由としてされた駐車場使用契約の解除の効力が否定された事例

●裁判要旨:
 一 建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう

 二 区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料を増額する規約の設定、変更等は、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者の権利に建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「特別の影響」を及ぼすものではない。

 三 区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料が、規定の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議もって増額された場合にも、建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段の規定が類推適用される。

 四 マンション駐車場の専用使用権を有する区分所有者が、使用料を増額する集会決議の効力を争い、管理組合の主張する増額使用料の支払義務の不存在確認を求める訴訟を提起し、既に三回の口頭弁論期日が開かれていたにもかかわらず、管理組合が、専用使用権者に対して増額使用料を支払うように催告し、その支払に応じないことを理由として駐車場使用契約を解除する旨の意思表示をしたこと、管理組合の主張する使用料の増額が社会通念上相当なものであることが明白であるとはいい難いことなど判示の事情の下においては、管理組合による右駐車場使用契約の解除は効力を生じない。

参照法条:
建物の区分所有等に関する法律第1章第2節共用部分等,建物の区分所有等に関する法律17条,建物の区分所有等に関する法律18条,建物の区分所有等に関する法律21条,建物の区分所有等に関する法律31条1項,民法541条

<参考>
建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法)  第1章第2節共用部分等

(共用部分の共有関係)
第十一条  共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する。
2  前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第二十七条第一項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。
3  民法第百七十七条 の規定は、共用部分には適用しない。
 から
(共用部分に関する規定の準用)
第二十一条  建物の敷地又は共用部分以外の附属施設(これらに関する権利を含む。)が区分所有者の共有に属する場合には、第十七条から第十九条までの規定は、その敷地又は附属施設に準用する。

建物の区分所有等に関する法律 第17条
(共用部分の変更)
第十七条  共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2  前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第18条
(共用部分の管理)
第十八条  共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
2  前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
3  前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
4  共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。

建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第21条
(共用部分に関する規定の準用)
第二十一条  建物の敷地又は共用部分以外の附属施設(これらに関する権利を含む。)が区分所有者の共有に属する場合には、第十七条から第十九条までの規定は、その敷地又は附属施設に準用する。

建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第31条1項
(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない
2  前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。

民法541条
(履行遅滞等による解除権)
第五百四十一条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。


 以下が、判決の全文です。こちらを先に読んだ方が、事件の背景が分かりやすい。
 なお、裁判用語として、
   ・棄却する・・・受理した訴訟について、審理の結果その理由がないとして請求を退ける(認めない)事。
   ・却下する・・・訴訟上の申し出や申請などを取り上げないで、門前払いする事。
   ・破棄する・・・事後審査を行う上級裁判所(高等裁判所など)が、上訴に理由があるとして原判決を取り消す事。
   ・差し戻す・・・原判決を取り消し,事件をもとの裁判所へ送り返して,再度の審判を命じること。原判決に誤りがあるが,上訴裁判所みずから事件自体に対し結論をくだすことが法律上または事実上できない場合に行なわれる。 
  があります。

★シャルマンコーポ博多の判決文 ~全文~  平成10年10月30日付

 上告人:駐車場の専用使用権を分譲された区分所有者
 被上告人:管理組合


主 文
一 原判中、上告人らの敗訴部分のうち、
 (一)上告人らが駐車場専用使用権を有することの確認を求める請求に関する部分、
 (二)平成二年七月一日以降、平成三年四月二二日までの間、上告人Aが月額五〇〇円(注:軽自動車の場合)、その余の上告人らが月額七〇〇円(注:普通自動車の場合)を超えて駐車場使用料の支払義務を負わないことの確認を求める請求に関する部分、
 (三)上告人らが駐車場の占有使用の妨害禁止を求める請求に関する部分をいずれも破棄する

二 前項(一)及び(三)の請求に関する部分につき、被上告人の控訴を棄却する

三 第一項(二)の請求に関する部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す

四 上告人らのその余の上告を棄却する

五 第二項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とし、前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。

理 由
一 本件事案及び原審の確定した事実関係の概要
上告人ら(又はその被承継人。以下同じ。)は、マンション分譲業者から、建物専有部分の区分所有権及び敷地の共有持分とともに、マンション敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権の分譲を受け、管理組合である被上告人に駐車場使用料を支払ってこれを専用使用してきた。
 被上告人は、総会の議により、規約を改正した上、駐車場使用料を増額し、上告人らに増額後の使用料の支払を求めたが、上告人らがこれを拒否したため、駐車場使用契約を解除した。
 そこで、上告人らが被上告人に対し、駐車場専用使用権を有することの確認等を求めたのが本件訴訟である。

 第一審は、上告人らの請求のうち、駐車場専用使用権を建物区分所有権等とともに自由に譲渡・賃貸する権利を有することの確認を求める部分を棄却し、その余の請求を認容した。
 これに対し、原審は、上告人らの駐車場専用使用権は右契約解除により消滅したとして、当初の専用使用料の額を超える駐車場使用料の支払義務を負わないことの確認を求める上告人らの請求のうち契約解除後の部分のみを認容し、その余の請求をすべて棄却したので、上告人らがこれを不服として争っている(以下、駐車場専用使用権を「専用使用権」と、駐車場使用の対価を「使用料」という。)。

 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1 本件マンションは、昭和四九年一〇月に建築された一一階建ての区分所有建物で、総戸数は三六五戸である。分譲業者であるD株式会社は、本件マンションの分譲に際し、敷地の一部に四七区画の駐車場を設け、マンション購入者のうちの希望者に対し、先着順に専用使用権を分譲した。その分譲代金は、普通自動車用が四〇万円、軽自動車用が三〇万円であり、それを含めた本件マンションの分譲代金は平均約八五〇万円であった。

2 本件マンションの土地附区分建物売買契約書には、「Dは、上告人らに対し、建物専有部分のほか、建物共用部分、共用施設及び敷地についての各共有持分、専用使用権を売り渡す。」(一条)、
 「売買代金は、駐車場関係費金〇〇円也を含む。」(二条)、
 「マンションの買主は、敷地のうち専用駐車場については、専用使用権者がその用途に従いこれを使用することを承認する。」(八条二項)と規定されている。
 右二条の駐車場関係費の欄には、専用使用権を取得した者については前記の金額が記入され、それ以外の者については空欄とされている。

3 上告人らを含む本件マンションの購入者全員は、購入に際し、Dの作成した管理組合規約案を承認する旨が記載された書面に署名をし、同社に差し入れた。これにより、右規約案は、区分所有者全員に承認され、管理規約(以下「旧規約」という。)として成立した。
 旧規約一八条には、駐車場の使用に関し、「駐車場は専用使用権者のみが使用できるものとし、他の組合員は異議を言わない。」(一項)、
 「専用使用権者は、組合員の中から抽選により管理者が定める。」(二項)、
 「専用使用権者は、あらかじめ管理者の承認を得た上、組合員に対してのみ専用使用権を譲渡することができる。」(三項)、
 「専用使用権者は、別に定める使用料を管理者に支払う。」(四項)、「使用料を三箇月分滞納した者又は組合員の資格を喪失した者は、専用使用権を失う。」(五項)と規定されている。
 また、使用料は、管理費等に関する細則により、普通自動車用が月額七〇〇円、軽自動車用が月額五〇〇円と定められた。

4 その後、被上告人の設置した駐車対策委員会は、昭和五二年に、本件マンションの敷地内に新たに一四区画の駐車場を増設するとともに、近隣の民間駐車場に一〇区画の借上げ駐車場を確保し、いずれも月額一万円の使用料を徴収して組合員に使用させた。右増設・借上げ駐車場の使用料と上告人らの駐車場の使用料との間に相当の差があることなどから、組合員より不満の声が上がるようになり、上告人らの専用使用権について被上告人内部で議論がされるようになった。
 理事会は、組合員の間に駐車場利用等をめぐって旧規約の改正を求める要望が強いとして、総会で旧規約を改正することとした。

5 平成二年五月二六日、本件マンションの通常総会(以下「本件総会」という。)が開催され、旧規約の定める総議権の五分の四以上の賛成議により、E管理規約(以下「新規約」という。)が設定された。
 新規約一五条には、専用使用権に関し、「区分所有者は、駐車場について、被上告人が特定の区分所有者に対し駐車場使用契約により専用使用権を設定することを承認する。」(一項)、
「駐車場について専用使用権を有している者は、別に定めるところにより、被上告人に使用料を納入しなければならない。」(二項)、
「区分所有者がその所有する住戸部分を、他の区分所有者又は第三者に譲渡、貸与したときは、その区分所有者の専用使用権は消滅する。」(三項)と規定され、
六六条には、義務違反者等に対する措置として、「組合員が使用料を含む管理費等を二箇月以上滞納した場合は、被上告人において一四日以上の期間を定めて支払を催促し、なお支払がないときは、駐車場使用契約は解除とする。」(二項、四項)と規定されている。

6 本件総会においては、新規約の設定に引き続き、同規約の規定する手続に従って駐車場使用細則を定める議がされた。
 同細則には、「被上告人は、駐車場の使用者を定したときは、当該使用者と別に定める『駐車場使用契約』を締結する。」(五条)、
「使用料の額は、公共料金等諸般の事情を考慮して理事会が定する。」(九条)と規定されている。

7 さらに、本件総会においては、管理費等に関する細則を定める決議がされた。同細則によれば、使用料は、普通自動車、軽自動車を問わず、平成二年度は月額四〇〇〇円、平成三年度は月額五〇〇〇円、平成四年度以降は月額六〇〇〇円、増設駐車場については当初より月額一万円とし、市価によって変動することがあるものとされている。

8 その後、被上告人は、上告人らを含む四七名に対し専用使用権の買取りを打診し、合計一二台分は被上告人が買い取ることとなったが、上告人らは、売却を拒否する一方、被上告人との交渉を本件訴訟代理人に委任した。
 被上告人は、上告人らに対し、平成二年七月から月額四〇〇〇円、平成三年一月及び二月は月額五〇〇〇円の使用料を請求したが、上告人らは、従前どおり月額七〇〇円(上告人Aは五〇〇円。以下、同じ。)の支払しかしなかった。

9 そこで、被上告人は、平成三年三月二二日、上告人らに対し、同年四月二二日までに滞納分を支払うよう催告するとともに、支払がないときは駐車場使用契約を解除する旨の意思表示をしたが、上告人らはいずれも右の期間内に催告に係る金員の支払をしなかった。

二 上告代理人鶴丸富男の上告理由第一点について
1 上告理由第一点は、管理費等に関する細則の制定をもってした本件総会における使用料増額の議が、上告人らの権利に、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)三一条一項後段所定の「特別の影響」を及ぼすか否かに関するものである。

原審は、この点につき、本件総会における使用料増額の議は、従前からの専用使用権者に一定の不利益を及ぼすことになるが、法三一条一項後段にいう「特別の影響」とは、合理的な理由がないのに、特定の区分所有者が受忍限度を超える不利益を受けることをいうと解されるところ、前記の新規約の設定等は、区分所有者相互間における駐車場利用の公平化・適正化を図る目的で行われたこと、また、専用使用権をはく奪するものではなく、その行使方法得喪につき、共有物たる敷地の利用方法として是認し得る内容により新たに規定を設け、増設駐車場の使用料額との均衡を図るなどの理由により使用料を増額したにすぎないことに照らし、法三一条一項後段が適用される場合には当たらない、と判断した。

3 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(一)本件の専用使用権は、区分所有者全員の共有に属するマンション敷地の使用に関する権利であるから、これが分譲された後は、管理組合と組合員たる専用使用権者との関係においては、法の規定の下で、規約及び集会決議による団体的規制に服すべきものであり、管理組合である被上告人は、法の定める手続要件に従い、規約又は集会決議をもって、専用使用権者の承諾を得ることなく使用料を増額することができるというべきである
 このことは、新規約の下におけるように、駐車場の使用が管理組合と専用使用権者との間の「駐車場使用契約」という形式を用いて行われている場合であっても、基本的に異なるところはないと解するのが相当である。

(二)そして、法三一条一項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、右の「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、
  規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合
  をいうものと解される。

 
 これを使用料の増額についていえば、
 使用料の増額は一般的に専用使用権に不利益を及ぼすものであるが、
 増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、
 増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、
 専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである
 また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。
 そして、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情、例えば、
  (1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、
  (2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、
  (3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、
  (4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、
  (5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきものである。

(三)さらに、本件のように、直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議により管理費等に関する細則の制定をもって使用料が増額された場合においては、法三一条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。

(四)しかるに、原審は、使用料増額に関する前記集会決議が上告人らの専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものではないとする理由として、区分所有者相互間における駐車場利用の公平化・適正化と増設駐車場の使用料額との均衡を図るために使用料が増額されたことを挙げるのみであって、前記のような観点から、月額七〇〇円から月額四〇〇〇円等への増額が社会通念上相当なものか否か、さらには、もし月額四〇〇〇円等が相当な額と認められない場合には幾らへの増額であれば相当といえるかについて、所要の審理判断を尽くしていないといわなければならない。
なお、この点に関し、原審は、分譲業者は区分所有者全員ないし管理組合の受任者としての地位において専用使用権を分譲すべきものであるとの前提に立ち、上告人らが分譲を受けた専用使用権の性質等が不確であり、譲渡の効力自体にも疑義があるなどというが、これは増額を正当化する理由となるものではない。

(五)そうすると、原審の判断には、「特別の影響」の有無について、法令の解釈適用の誤り、審理不尽の違法があるというべきであり、この違法は原判の結論に影響を及ぼすことがらかである。論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある。

三 同第三点について
1 上告理由第三点は、被上告人のした駐車場使用契約の解除が有効か否かに関するものである。

2 原審は、この点につき、被上告人は、前記のとおり使用料が増額されたことを前提に、平成三年三月二二日、上告人らに対し、同年四月二二日までに滞納分を支払うよう催告するとともに、支払がないときは駐車場使用契約を解除する旨の意思表示をしたが、上告人らはいずれも右の期間内に催告に係る金員の支払をしなかったのであるから、これにより上告人らは専用使用権を失ったものであり、被上告人による契約の解除ないしその効果の主張が権利の濫用に当たるとも認められない、と判断した。

3 しかしながら、原審の右判断も是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (一)前記のとおり、管理組合は、規約の設定、変更等又は規約の定めに基づく集会決議をもって使用料を増額することができ、これが専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものでない限り、専用使用権者は増額された使用料の支払義務を負うことになる。
 しかし、この「特別の影響」の有無、殊に、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、裁判所の最終的な判断を待たなければらかにならない場合が少なくない。
 したがって、専用使用権者が訴訟において使用料増額の効力を争っているような場合には、裁判所の判断を待つことなく、専用使用権者が増額された使用料の支払に応じないことを理由に駐車場使用契約を解除し、その専用使用権を失わせることは、契約の解除を相当とするに足りる特段の事情がない限り、許されないものと解するのが相当である

 (二)これを本件について見るに、記録によれば、上告人らは、使用料増額の議の効力を争い、平成三年三月二二日の被上告人の催告に先立つ平成二年一〇月三〇日に、被上告人の主張する増額使用料の支払義務の不存在確認請求を含む本件訴訟を提起し、右催告の時点までに三回の口頭弁論期日が開かれていたと認められること、被上告人は、上告人らが裁判で係争中であるにもかかわらず、前記一のとおり、上告人らに増額使用料を支払うよう催告し、これを支払わなかったとして契約を解除したものであること、本件においては、使用料増額の適否について一、二審が判断を異にしたように、被上告人の主張する使用料の増額が社会通念上相当なものであることが白であるとはいい難いこと等の事情にかんがみると、本件訴訟の提起後、上告人らが従前どおり月額七〇〇円の使用料の支払を続けたのにも無理からぬところがあり、他に契約の解除を相当とすべき特段の事情も認められないから、被上告人による契約の解除はその效力を生じないものと解すべきである。

(三)そうすると、被上告人による契約の解除を有効とした原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがあるというべきであり、この違法は原判の結論に影響を及ぼすことがらかである。この点に関する論旨も、理由がある。

四 その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判を論難するものであって、採用することができない。

五 結論
以上によれば、原判中、上告人らの敗訴部分のうち、
(一)上告人らが専用使用権を有することの確認を求める請求に関する部分、
(二)平成二年七月一日以降、平成三年四月二二日までの間、上告人 が月額五〇〇円、その余の上告人らが月額七〇〇円を超えて使用料の支払義務を負わないことの確認を求める請求に関する部分、
(三)上告人らが駐車場の占有使用の妨害禁止を求める請求に関する部分は、いずれも破棄を免れない

そして、以上に説示したところによれば、上告人らの本訴請求のうち右(一)、(三)については理由があるから、これを認容した第一審判は正当として是認すべきものであって、右各請求に関する部分につき被上告人の控訴を棄却することとし、右(二)については、本件総会の議により増額された使用料が社会通念上相当なものか否か等に関して更に審理を尽くさせる必要があるから、同請求に関する部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 また、本件上告中、専用使用権を建物区分所有権等とともに自由に譲渡・賃貸する権利を有することの確認を求める上告人らの請求に関する部分は、前記一の事実によれば理由がないことがらかなので、これを棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判する。

最高裁判所第二小法廷
   裁判長裁判官  河合 伸一
        裁判官  根岸 重治
       裁判官  福 田 博
       裁判官  大西勝也は、退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 河合 伸一

 

 ★なお、この判決での「総会の議により増額された使用料が社会通念上相当なものか否か等に関して更に審理を尽くさせる必要があるから、同請求に関する部分につき本件を原審(福岡高等裁判所)に差し戻すこととする」の追跡をしていたら、以下の文書があった。

*シャルマンコーポ博多管理組合関連の平成2年から始まった駐車料金値上げに関する裁判は、平成12年10月3日、福岡高等裁判所で和解が成立しました

 和解内容は、おおよそ次のとおりです。
   1)当該区分所有者は、管理組合に駐車場専用使用権を15万円~40万円で譲渡する。
   2)当該区分所有者の駐車料は、700円であったが、平成2年7月から和解成立まで1,500円(一部1,100円)として、その差額を支払う。
   3)当該区分所有者は、和解の翌月から平成12年度は1万3千円、平成13年度は1万4千円の駐車料金を支払う。
 
 今回の和解は、管理組合にとって値上げを10年間先延ばしにされたようにも見えますが、当該区分所有者からいうと、月額700円であった使用料を今後は他の駐車場使用者と同じ金額で支払うものであり、駐車場専用使用権が無くなったことになります。
 この和解は、管理組合にとっても、当該区分所有者にとっても苦渋の選択といえますが、マンションは継続関係であり、今後に問題が残らない解決としては高く評価されるものといえましょう。

 だそうです。この和解内容では、裁判で争点となった「増額された使用料が社会通念上相当なものか否か」の審理がされていませんが、両当事者が納得するなら、いいのでしょう。

 <参考> 民事訴訟法第89条
 
 (和解の試み)
 第八十九条  裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。


ケース3.   シャルム田町の場合
 *物件の概要  
 マンションの名称  住所  戸数   構造、階数  建築年 
シャルム田町 福岡県北九州市小倉北区田町 全38戸(居宅37戸) SRC,11階建て 1985年6月(昭和60年)

 

 ケース3.として取り上げる「シャルム田町事件」における管理組合の主張は、分譲業者が駐車場の専用使用権を分譲して得た対価は、不当利得または委任に該当するものだから管理組合に返還しろというもので、この論点は、ケース1.で述べた「ミリオンコーポラス高峰館事件」と同じ内容です。

 上で述べた、ミリオンコーポラス高峰館事件の解説では、争点を不当利得とか委任に絞っていますが、この「シャルム田町事件」では、もう少し、当時の背景等を含めて幅広く解説します。

◎分譲業者が駐車場の専用使用権を別途分譲するのは、北九州地区に特異な販売方法か?
 今回取り上げた平成10年の最高裁判所の判決があった4つのケースの内3つのマンションの住所をみると、
   ケース1.の「ミリオンコーポラス高峰館」の住所は、   福岡県北九州市小倉北区高峰町
   ケース2.の「シャルマンコーポ博多」の住所は、      福岡県福岡市博多区千代  そして、
   当ケース3.で取り上げる、「シャルム田町」の住所は、 福岡県北九州市小倉北区田町 
 と駐車場の専用使用権を分譲業者が勝手に分譲するケースが北九州だけにあるように映りますが、この販売形態は、昭和50年代の日本の他の地域でも当然のことのように行われていて、北九州以外の各地でマンションの購入者と分譲業者との間で紛争が多発しています。

  この状況をみて、昭和54年(1979年)には当時の建設省も、「分譲業者が共有敷地等に専用使用権を設定してその使用料得る等の行為は、取引形態として好ましくないので、原則としてこの方法は避けること」と関係の業界団体に出しています。(昭和54年12月15日:建設省計動発第116号、117号など)

 しかし、ケース1.で説明しました平成10年10月22日の「ミリオンコーポラス高峰館事件」の判決の前に出された、昭和56年1月30日の最高裁判所の「分譲業者による専用使用権を分譲する行為は、公序良俗違反ではない」という判決が、分譲業者を力づけています。

 なお、昭和50年代から分譲業者による専用使用権を分譲する行為を巡っては以下のような内容の裁判例があります。

◎分譲業者が駐車場専用使用権を分譲して得た対価の帰属やその行為の法的な性質について下級裁判所の判決は、
 ・公序良俗違反と言える とか 言えない とか 
 ・委任契約に基づく使用賃貸であり、最終的に、各買受人に返還すべきである(昭和55年7月9日:大阪高等裁判所) 
 ・管理委託契約であり、不当利得である(昭和56年4月27日:大阪地方裁判所)
 ・駐車場専用使用権は、賃貸権に類似した債権的利用権であり、分譲は権利の濫用にあたる(平成3年8月9日:京都地方裁判所)
 など、さまざまな判決となっていて、駐車場専用使用権の分譲を巡ぐる論争も裁判所だけでなく法律家も巻き込んで活発になっていました。

 これら下級審での判決文では、分譲業者が専用使用権を分譲できる法的根拠の論点がありますが、最高裁判所の判決では、区分所有者でない分譲業者がどうして有効に区分所有者の物である敷地を分譲できるのかを明らかにしていないのは、残念です。

 また、多くの事件では、訴訟の当事者は判決に納得ができなくても、最高裁判所にまで論争を持っていくのは、時間や費用がかかり大変に面倒で裁判を続けませんが、福岡地区では、山上知裕氏を中心とした弁護士群の働きで、ミリオンコーポラス高峰館、シャルマンコーポ博多そしてシャルム田町の3事件が最高裁判所まで争われるようになったようです。
 また、山上知裕氏は、福岡地区だけでなく、東京の板橋でのケース.4 高島平マンション事件 でも管理組合側の弁護人群に参加しています。


 このケース3.シャルム田町事件での、管理組合の主張は、上で説明しました、ケース1.の「ミリオンコーポラス高峰館」とまったく同じで、ケース1.の繰り返しになりますが、復習を兼ねて説明します。

*事案の概要
 昭和60年6月からマンションの分譲業者(山内興産株式会社)が、総戸数38戸(内居宅は37戸)のマンションの分譲時に、区分所有者の共有となるべき建物1階部分及び敷地の各一部に14区画の駐車場を設け、マンション本体とは別に駐車場の利用を希望する購入者12名に対して、駐車場の専用使用権を1区画100万円から120万円で分譲し、合計1,410万円を受領した。

 そこで、裁判を起こした管理組合側の主張は、
  分譲業者が駐車場の専用使用権の分譲で受け取った金額は、マンションの管理組合に帰属するので、
   1.主位的に「公序良俗違反」による不当利得返還請求権に基づき、
   2.予備的に「委任契約」における受任者(管理組合)に対する委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡し請求権に基づき
  分譲業者が対価として受け取った金額を、管理組合に返還又は引渡しを求める 
  でした。

 

  なお、この他に土地を所有していたジョイホームがまだ留保している2,490分の12の敷地共有持分の登記についてこれを一度分譲会社の山内興産に移転登記し、そのうえで山内興産は、専有部分の床面積の割合で、共有持分移転登記しろの請求もしています。

 <解説> ここで、裁判での主位的請求予備的請求とは、

  民事訴訟上、主な主張についての審判の申立てがその目的を達することができない場合を考慮して、主な主張と両立しない主張につき第二次的にする審判の申立ての事で、
主な主張の方を主位的請求
といい、
二次的な請求を予備的請求
といいます。

 申立人の便宜と訴訟経済の点から、許されています。
 なお、訴状で、この主位的請求と予備的請求をした場合には、主位的請求が容認されれば、予備的請求は、不要となるため審理されません。

 ◎これに対して、マンションの分譲業者の主張は、
  1.対価は他の区分所有者への認諾取付の対価である
  2.対価を得たことは、販売業者として自己の利益のために行ったもので委任ではない 
  です。

◎一審(福岡地方裁判所小倉支部、平成6年2月1日)の判決 ~概要~ 委任による業者の返還を認めた
 判決理由:
  分譲業者は、マンション購入者全員から委任を受けて、専用使用権者を選定し、マンション購入者全員のために専用使用権設定契約を締結したので、分譲代金は、分譲業者が委任事務の処理上受け取ったものである。
 よって民法第646条1項
 「受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。」にあたる。
 としました。

 また、敷地共有持分の移転登記は、管理組合の主張が認められています。

 この判決を不服として、分譲業者の山内興産から控訴がありました。

◎二審(福岡高等裁判所、平成8年8月25日))の判決 ~概要~ 不当利得である。また、委任契約はないが、外形的に委任事務に含まれるので、業者の返還を認めた
 判決理由:
  マンション購入者と分譲業者間では委任契約は締結されていないが、敷地の一部について特定の共有者のために専用使用権を設定し対価を取得するのは、外形的に委任事務の範囲に含まれるので、業者は返還すべきである。

 二審の福岡高等裁判所で担当した裁判官3名(裁判長:秋元隆男、池谷 泉、川久保政徳氏)は、上で取り上げた、ケース2.の「シャルマンコーポ博多」~特別の影響とは~(判決日:平成7年10月27日)と同じ裁判官です。
 同じ裁判官達のせいか、問題となっています、「駐車場の専用使用権」も法的な性質から論じています。
 基本は、「シャルマンコーポ博多」と同様ですが、再度、細かく確認しましょう。

 ★駐車場専用使用権分譲の法的性質や効力
  ・土地付区分建物売買契約書や重要事項説明書の記載からは、分譲業者がどのような権限や立場から駐車場専用使用権を分譲でき、対価を得たのか不明である
  ・駐車場専用使用権の分譲で得た対価は、自己の利益としたものである
  ・分譲業者は、分譲が完了すれば、敷地について権利がないので、駐車場専用使用権の分譲で得た対価を自己のものにする根拠がない
  ・分譲業者の意思だけでは、分譲前に、用益権である地上権、地役権、賃借権、使用借権は設定できないので、これを分譲できない
  ・敷地所有権から用益権を分離して、それぞれ別個に処分することは、特殊な形態で契約自由の原則があるとしても、合意が成立したと判定するには困難である
  ・分譲業者が主張する駐車場専用使用権を別途分譲することによって、マンション自体の販売価格を低くしているは証明が難しく、根拠がない
  ・建設省の通知や通達でも分譲業者が専用使用権を設定する行為は取引の形態として好ましくないので避けることとしている
  などから、駐車場専用使用権の設定を購入者が承諾していないので有効な合意は成立していない。

  よって、駐車場専用使用権の分譲は無効で、不当利得として管理組合は返還請求ができる。
  また、敷地に関する委任契約は締結されていないが、外形的に委任の範囲に属する行為を分譲業者は行ったので、駐車場専用使用権分譲で得た金員を返還しろ としました。
 

 そこで、分譲業者が最高裁判所に上告しました。

 ★なお、管理組合が駐車場専用使用権分譲の対価の返還以外に請求した、分譲業者が留保している2,490分の12の敷地共有持分の登記について持分の移転登記手続きの請求は、一審、二審そして最高裁判所でも認められています。

◎最高裁判所の判決(平成10年10月30日)
 最高裁判所に上告したのは、分譲業者で、受けたのは、管理組合です。

裁判の当事者   主張 判決 
上告人  分譲業者 1.分譲代金を得たことは不当利得ではない
2.対価を得たことは、委任ではない 
1.不当利得ではない
2.委任ではない 
被上告人 管理組合

  なお、裁判用語として、
   ・棄却する・・・受理した訴訟について、審理の結果その理由がないとして請求を退ける(認めない)事。
   ・却下する・・・訴訟上の申し出や申請などを取り上げないで、門前払いする事。
   ・破棄する・・・事後審査を行う上級裁判所(高等裁判所など)が、上訴に理由があるとして原判決を取り消す事。
   ・差し戻す・・・原判決を取り消し,事件をもとの裁判所へ送り返して,再度の審判を命じること。原判決に誤りがあるが,上訴裁判所みずから事件自体に対し結論をくだすことが法律上または事実上できない場合に行なわれる。 
  があります。

 ★シャルム田町事件 概要

判示事項:マンション駐車場の専用使用権分譲の対価が分譲業者に帰属すべきものとされた事例

裁判要旨:
 マンション分譲者が、マンションの分譲に伴い、区分所有者の共有となるべき建物一階部分及び敷地の各一部に駐車場の設け、マンション購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権を分譲し、その対価を受領した場合において、分譲者が営利の目的に基づき自己の利益のために専用使用権を分譲したものであり、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたなど判示の事情の下においては、分譲業者が区分所有者全員の委任に基づきその受任者として専用使用権の分譲を行った等と解することはできず、右対価は、専用使用権分譲契約における合意の内容に従って分譲業者に帰属すべきものである。

参照法条: 建物の区分所有等に関する法律第1章第2節共用部分等

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 ◎ シャルム田町 判決文 全文  (平成10年10月30日:最高裁判所小法廷)

 上告人:分譲会社
 被上告人:管理組合

  主    文
 一 原判決中、被上告人B1管理組合理事長B2に関する部分を破棄し、同部分につき第一審判決を取り消す。
 二 前項の部分に関する被上告人B1管理組合理事長B2の予備的請求を棄却する
 三 上告人A1株式会社の上告及び同A2興産株式会社のその余の上告を棄却する。
 四 第一、二項の部分に関する訴訟の総費用は被上告人B1管理組合理事長B2の負担とし、前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。

  理    由
 上告代理人吉田雄策の上告理由書記載の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要及び記録によって認められる本件訴訟の経過は、次のとおりである。
  1 上告人A2興産株式会社(以下「上告人A2興産」という。)は、マンション分譲業者であるが、関連会社である上告人A1株式会社が所有していた本件敷地上に本件マンションを建築し、昭和六〇年六月から昭和六二年六月ころまでの間に、その建物専有部分の区分所有権及び本件敷地の共有持分を分譲販売した。本件マンションの専有部分の建物戸数は、三八戸(居宅が三七戸)である。
  2 上告人A2興産は、本件マンションを分譲販売するに際して、建物一階部分と本件敷地の各一部に一四区画の駐車場を設け、マンションの購入者のうち駐車場の使用を希望する者一二名に対し、本件マンションの分譲とは別に、駐車場の専用使用権を一区画一〇〇万円ないし一二〇万円で分譲し、合計一四一〇万円を受領した。
  3 本件マンションの購入者と上告人A2興産との間の土地付区分建物売買契約書には、「買主は、専用駐車場の代金として、別途金○○円を上告人A2興産に支払う。」(三条)、
 「本件敷地は区分所有者全員の共有に属するものとし、その共有持分は区分所有者が所有する専有部分の床面積の割合による。」(五条一項)、
 「本件マンションの買主は、本件敷地の一部を専用駐車場又は庭園として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する。」(一三条二項)との趣旨の規定がある。
 右三条の専用駐車場の代金欄には、駐車場の専用使用権を取得した者については「一二○万円」等と記入され、それ以外の者については空欄とされている。
  4 また、本件マンションの購入者に交付された図面集の二箇所には、駐車場について「分譲一四区画、一区画一二〇万円」と記載されている。
  5 上告人A2興産は、営利の目的で、右のとおり、本件マンションの購入者のうちの希望者に対し、駐車場の専用使用権を分譲して所定の対価の支払を受け、これを自己の利益として受領したものである。
  6 上告人A2興産と本件マンションの購入者との間では、管理組合が業務を開始するまでの間、同上告人が本件敷地の管理業務を行うことについての委任契約等は締結されておらず、また、同上告人は管理規約案も作成していない。
  7 本件マンションの区分所有者は、昭和六一年一二月に管理組合の第一回総会を開き、管理規約を設定した。被上告人B1管理組合理事長B2(以下「被上告人B2」という。)は、平成五年四月に開催された臨時総会において、管理組合の理事長に選任されたものである。
  8 本件訴訟は平成二年に提起されたものであるが、このうち、上告人A2興産と被上告人B2との間の紛争は、本件マンションの管理者である同被上告人において、区分所有者のために、主位的に不当利得返還請求権に基づき、予備的に委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき、同上告人に前記駐車場専用使用権分譲の対価合計一四四〇万円の返還又は引渡しを求めるものである
 第一審は、主位的請求を棄却した上、予備的請求のうち一四一〇万円とこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を認容し、原審も、第一審の判断を正当として上告人A2興産の控訴を棄却した。

二 被上告人B2の予備的請求に関する原審の判断は、要旨、次のとおりである。
 1 本件マンションの分譲に際し、その購入者は、駐車場専用使用権(以下「専用使用権」という。)の性質、効力等、契約の基本的な部分について十分に理解しないまま契約を締結したものであるから、上告人A2興産と本件マンションの購入との間において、同上告人が専用使用権を分譲し、その対価を得ることについて、有効な合意が成立したと解することはできない。上告人A2興産による専用使用権の分譲は、その効力を否定すべきである。
 2 一方、委任契約に基づく委任事務を処理するにつき、受任者が、外形的に委任の範囲に属する行為を、自己のためにする意思の下に行い、これにより金員を収受したときは、委任者は、受任者に対し、右金員を委任事務処理を行うにつき収受したものとして、受取物引渡請求権を行使することができると解される。
 3 本件の場合、上告人A2興産と本件マンションの購入者との間で本件敷地の管理業務を行うことについて委任契約は締結されていないが、同上告人は、本件マンションの購入者から、本件敷地の管理運営・使用収益ないしは本件敷地の使用に関する共有者相互間の調整を行うことの委任を受けていたものというべきである。そして、本件敷地の一部につき特定の共有者のために専用使用権を設定し対価を取得するのは、外形的に右委任事務の範囲に含まれるということができるから、本件マンションの購入者は、上告人A2興産に対し、同上告人が専用使用権分譲の対価として収受した一四一〇万円の引渡しを求めることができる。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。
   その理由は、次のとおりである。
 本件マンションの建物一階部分と本件敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人A2興産から特定の区分所有者に分譲されたものであるところ、前記一の売買契約書、図面集の記載に照らすと、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得るものとされ、また、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を認諾・承認すべきものとされていることが明らかである。
 そのほか、本件において、分譲業者である上告人A2興産が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約の私法上の効力を否定すべき事情も存しない
 そして、前記一のとおり、分譲業者である上告人A2興産は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであり、さらに、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、右分譲契約における合意の内容に従って同上告人に帰属するものというべきである。
 この点に関し、上告人A2興産が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右分譲契約における当事者の意思に反するものであるといわなければならない。
 また、ある者が自己のためにする意思の下にした行為が、他の者からの受任によってする行為と外形的に同一であったとしても、そのことだけで、関係者の具体的意思に反して、両者の間に委任契約が成立していたということはできないし、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものである。
 したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき右対価の引渡しを求める被上告人B2の予備的請求は、理由がない。

 四 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、被上告人B2に関する部分は破棄を免れない。
 そして、以上に説示したとおり、被上告人B2の予備的請求は理由がないから、第一審判決中、右予備的請求を認容した部分を取り消した上、同部分に関する予備的請求を棄却することとする。

 同上告理由書(二)記載の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
 論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。
 したがって、上告人A1株式会社の上告及び上告人A2興産のその余の上告は、理由がないから、これを棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
  裁判長裁判官   河合 伸一
      裁判官    根岸 重治
      裁判官    福田 博
      裁判官    大西勝也は、退官につき署名押印することができない。(裁判長裁判官 河合伸一)

◎最高裁判所の判決は間違っている ~変更が必要だ~

 最高裁判所の判決では、一審、二審で認めた分譲業者が得た専用駐車場分譲の対価は管理組合の物ではなく、分譲業者の物であり、返還しなくていいということです。
  しかし、この最高裁判所の判決は間違っています。

 判決文を作成するにあたって肝心なのは、福岡高等裁判所の判決文がいうように、分譲業者がどのような法的な権限を有して、駐車場専用使用権を、共有関係にある敷地の所有権とは別途に分譲することが許されているのかを明らかにしてから、区分所有法が持つ「団体的規範(多数決の理論)」において、だれがみても、特定の分譲業者の二重利得である取引形態として許されない駐車場専用使用権の分譲禁止の判決を出すべきでした。

 この平成10年10月30日の最高裁判所の判決を受けて、その後、駐車場の専用使用権を分譲する事件は、裁判となっていないようですが、これからは、民法の枠内から脱し区分所有法の理論も採用して、この古い判例を覆す訴訟が待たれます。

 マンション管理士 香川の意見は、「ケース1.ミリオンコーポラス高峰館事件」でも述べていますので、参考にしてください。


ケース4.   高島平マンションの場合
 *物件の概要  
 マンションの名称  住所  戸数   構造、階数  建築年 
高島平マンション 東京都板橋区 全35戸 SRC,8階建て(1階は店舗) 1973年(昭和48年)

 

  今まで説明してきた北九州の3件とは異なり、ケース4.高島平マンションの住所は、東京都板橋区で、今回取り上げた駐車場の専用使用権を巡る争いは、いかに全国のマンション分譲業者が購入者の無思慮に乗じているかが分かります。

 このケース4.高島平マンションでは、ケース2.の「シャルマンコーポ博多事件」で取り上げた区分所有法第31条1項の”一部の区分所有者の権利に「特別の影響を及ぼすとき」とは”、なにかをまた別の角度から取り上げます。

なお、区分所有法第31条1項は、以下の条文です。

  <参考> 建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法) 第31条(規約の設定、変更及び廃止)

第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、
規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に”特別の影響を及ぼすべきとき”は、その承諾を得なければならない。

*事案の概要
 昭和48年(1973年)に土地の所有者であった丸藤商事が、8階建で自己が経営するサウナ、理髪店を1階に設置し、2階以上は住居とするいわゆる下駄ばき(店舗併用)マンション、全36戸を建設し分譲し、丸藤商事は店舗部と住居の一部の区分所有権を持っている。
 分譲時の原始規約において、店舗を経営する丸藤商事は、建物の外壁・屋上部分の専用使用権を持ち、広告塔やサウナ用クーリングタワー、水槽、ボイラーを設置している。
また敷地においては南西側と南側の2カ所に各4台分、合計8台分の駐車場を専用使用し、自己と来客用に使用していた。これらの使用料は、無償であった。

 その後、平成元年10月29日に総会が開催され管理組合が設立され、出席組合員と議決権総数の4分の3(75%)を超える賛成(組合員総数35人中33人=94.2%、持分総数 2063.917㎡のうち 1609.145㎡=77.9%)で、
  ・店舗部の区分所有者が、外壁や屋上、敷地の専用使用権を有することの承認 
  ・専用使用権者は、総会の決議があった場合は、管理組合に専用使用料を納入すること
  ・専用使用部分の変更には、管理組合の承認が必要
  ・また、総会の決定で専用使用部分を変更できる
  など他にも使用方法を定めた新しい規約(新規約)が設定された。

 そして、平成4年10月18日開催の定期総会において、出席組合員と議決権総数の4分の3(75%)を超える賛成(組合員総数35人中34人=97.1%、持分総数 2063.917㎡のうち 1661.705㎡=80.5%)で、店舗部の丸藤商事に対して、以下の決議をした。
  ・丸藤商事(店舗部)が使用している、全8台分の内、4台分(南西側)は、管理用自動車や管理組合の自転車置場にするので、平成4年12月31日以降は、専用使用権が消滅し、専用使用できなくなる
  ・残りの4台分(南側)については、専用使用権を認めるが、平成5年1月1日以降は、無償から有償とし、使用料として 月額10万円を支払うこと
  ・他、サウナのネオン看板料、屋上使用料などを平成5年1月1日から支払うこと。

  しかし、丸藤商事は平成5年1月1日以降も、全8台分を専用使用し、また使用料は支払わず、今後も決議に従わないとしている。
  そこで、管理組合が、総会で決めた4台分の専用使用権がないことと支払のない駐車場や看板など使用料の支払いを求めて提訴した。

 

 ●丸藤商事の主張:
  ・平成元年10月に旧規約から新規約に改定したが、旧規約では、「規約の改廃は区分所有者全員の書面による合意によりおこなう」とある手続きに従っていないので、新規約は無効である
  ・旧規約に基づき、敷地の専用使用権がある
  ・無償である外壁等の専用使用権を有償化したり、敷地の専用使用権を奪う総会の決議は、自分の権利に「特別の影響を及ぼす」ので、承諾のない新規約は無効である

◎一審(東京地方裁判所:平成6年3月24日判決) ~概要~ 「特別の影響を及ぼさない」ので新規約の改正と総会決議は有効
 判決理由:
  ・旧規約で定める「規約の改廃は区分所有者全員の書面による合意によりおこなう」とある手続きの変更は、昭和59年1月1日施行の改正区分所有法(香川注:区分所有法昭和59年の改正附則9条にある)により、その効力を失ったので、改正後の「出席組合員と議決権総数の4分の3の多数の賛成」で決議された新規約は、手続きにおいても有効である

 <参考> 区分所有法 附則 (昭和五八年五月二一日法律第五一号) 抄

(施行期日)
第一条  この法律は、昭和五十九年一月一日から施行する
 (中、略)

(規約に関する経過措置)
第九条  この法律の施行の際現に効力を有する規約は、新法第三十一条又は新法第六十六条において準用する新法第三十一条第一項及び新法第六十八条の規定により定められたものとみなす。

2  前項の規約で定められた事項で新法に抵触するものは、この法律の施行の日からその効力を失う。

 (以下、略)

  ・南西側の駐車場は元々管理人室へ通じる裏通路であり、通路として使用されるべきで、専用使用権のある敷地には含まれない
  ・区分所有法第31条1項の一部の区分所有者の権利に「特別の影響を及ぼすとき」とは、
   規約の設定・変更の必要性ないしこれにより区分所有者全員が受ける利益と対比して、一部の区分所有者の受ける不利益がその区分所有者の受忍すべき限度を超えていることである
  ・しかし、敷地には自転車置場がなく、緊急自動車が止まる場所もない
  ・8台の内4台分の専用使用が無くなっても、丸藤商事には格別の不利益が及ぶとはいえない
  ・無償で使用してきた期間が19年とは長すぎる
  ・この間、他の区分所有者は丸藤商事の専用使用部分の公租公課や維持管理費を負担してきた
  ・これは、経済的な不均衡である
  ・有償化の額は、社会通念上相当である
  ・丸藤商事が受ける不利益は区分所有者として受忍すべき限度内である
  などから、
  新規約とこれに基づく総会の決議は、丸藤商事の専用使用権に「特別の影響を及ぼすものではない」ので、丸藤商事の承諾は不要で、
  ・4台分の専用使用権は消滅し、また有償化された駐車場や看板の使用料を管理組合に支払え 
  としました。

 この判決を不服として、丸藤商事が控訴しました。

◎二審(東京高等裁判所:平成8年2月20日判決) ~概要~ 「特別の影響を及ぼすので、承諾が必要」新規約の変更は無効
 判決理由:
  ・旧規約から新規約の改正手続きにおいて、「区分所有者全員の合意」がなくても新規約改正の要件「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする」においておこなっても無効ではない
  専用使用権は、
  ・分譲の際に分譲業者に留保された権利で、共有者間で共有物の使用方法として合意されたもので、債権的でなく物権的である
  ・丸藤商事の駐車場は、商業上の必要性から、マンション建設の当初から設定されている
  ・管理組合は、自転車置場がないといっているが、元々居住者は、それを前提に購入し、また実際には盗難などを恐れて自転車を敷地には置いていない
  ・管理用の自動車は、丸藤商事の駐車場を利用でき、特に管理用自動車用の駐車場を設ける必要性がない
  などから、区分所有者の必要性が商業活動上駐車場を必要とする丸藤商事の利益を上回るものではないので、規約の改正で専用使用権を消滅させることはできない
  また、専用使用権の有償化は、
  ・丸藤商事は、管理費や修繕積立金を相応に負担しているのでまったく無償ではない
  そこで、管理費と修繕積立金の増額は許されるが、そこに経済的な負担を加えることは、丸藤商事に特別の影響を与えるので、有償化された駐車場や看板の使用料の決議は、丸藤商事の承諾がないので有償化決議も無効である

 と、一審とはまったく、逆の判決をしました。

★判決文での
  ・債権的と物権的の違い
   物権的なら、債権的と異なり、排他性や絶対性などの強い支配力を持っている。

 この一審と二審での判決にありますように、普通人の物の見方においても、その人がどこに焦点をあてるかによって、判断基準が異なり、結論が違いますように、裁判所の裁判官でも、どこに焦点をあててどこを重要視するかによって、判断基準が異なり、結論が違うということです。
 この事実は、いつも自己の判断基準を持って行動することの大切さを教えてくれています。
 必要なのは、権威や肩書のある人の意見を簡単に鵜呑みにせず、自分で状況を咀嚼し、自分としての意見を持つことです。

◎最高裁判所の判決(平成10年11月20日)
 最高裁判所に上告したのは管理組合で、受けたのはマンションを分譲し、1階で店舗を構え、2カ所の駐車場の専用使用権を有する区分所有者でもある丸藤商事です。

 この高島平マンション事件の最高裁判所の裁判官は、
  ・福田 博、
  ・根岸 重治、
  ・河合 伸一氏 
  で、この裁判官の構成は、ケース2.シャルマンコーポ博多ケース3.シャルム田町 と同じですから、「特別の影響」の判断もシャルマンコーポ博多と同様になるのは、仕方がありません。

 なお、高島平マンションは東京の板橋にあるのですが、管理組合側の弁護人には、北九州で起きた、ミリオンコーポラス高峰館、シャルマンコーポ博多、シャルム田町でも参加していた山上知裕氏の名前もあります。

裁判の当事者  主張 判決 
上告人  管理組合 1.(一部の)専用使用権を消滅することは規約の改正と集会決議で可能である(消滅決議
2.今まで無償であった駐車場や屋上の看板など専用使用権の有償化は妥当である (有償化決議
区分所有法第31条1項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に”特別の影響を及ぼすべきとき”は、その承諾を得なければならない。」の解釈として、
1.被上告人(丸藤商事)が受ける不利益は、受忍限度を超えているので、承諾のない消滅決議は無効
2.有償化決議は社会通念上相当な額なら、「特別の影響」を及ぼさないので有効
被上告人 店舗部の区分所有者

●最高裁判所が考える、区分所有法第31条1項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に”特別の影響を及ぼすべきとき”は、その承諾を得なければならない。」とは、ケース.2で取り上げたシャルマンコーポ博多事件と同じですが、復習しましょう。

 *特別の影響を及ぼすときとは、
 規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうもの

 です。

 つまり、
  規約の設定、変更等が
  ①どの程度必要なのか、またどの程度合理性があるのか を
  ②一部の区分所有者が受ける不利益はどの程度か とを
  ③様々な角度から比較し、考えて、 また
  ④そのマンションの区分所有関係の実態もよく検討して
  ⑤最終的には、不利益を受ける一部の区分所有者が、共同生活を営む上で、通常、がまんできる限度を超えている場合をいう、 ことになります。

 最高裁判所がこのように「特別の影響」とはなにかを示しても、最終的には、事案ごとにケース・バイ・ケースで検討することになります。


 ◎最高裁判所の判決(平成10年11月20日)内容  
  1.南西側駐車場の専用使用権を消滅させた決議(消滅決議)は、無効である
  判決理由:
  ・丸藤商事は、分譲当初から、店を営業していて2カ所の専用使用権を取得した
  ・南西側の駐車場の専用使用権が消滅すると営業活動に支障が生じる可能性がある
  ・他の区分所有者は、元々駐車場や自転車置場がないことが前提でマンションを購入している
  そこで、丸藤商事が受ける不利益は、受忍限度を超えているので、「特別の影響を及ぼす」に該当し、丸藤商事の承諾のない「消滅決議」は、無効である。

  2.今まで無償であった専用使用権を有償化する「有償化決議」は、社会通念上相当な額と認められれば有効
  判決理由:
  ・今まで無償であった専用使用権を有償化することは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすが
  ・有償化の必要性及び合理性が認められ
  ・かつ、設定された使用料が区分所有関係において社会通念上相当な額と認められれば
  専用使用権者は、専用使用権の有償化を受忍すべきで、この場合には、専用使用権者の権利に「特別の影響を及ぼさない」 
  としました。

  3.また、設定された使用料がそのままでは「社会通念上相当な額と認められない場合」でも、
  ・その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができれば、特段の事情がない限り、その限度で、
  有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響を及ぼさない」ので、専用使用権者の承諾は不要 
  ともしています。

 そこで、二審(東京高等裁判所)においては、有償化決議で設定した駐車場や外壁の使用料の額を「社会通念上相当な額」かどうかの検討を再度しろ と差し戻しをしています。

 なお、裁判用語として、
   ・棄却する・・・受理した訴訟について、審理の結果その理由がないとして請求を退ける(認めない)事。
   ・却下する・・・訴訟上の申し出や申請などを取り上げないで、門前払いする事。
   ・破棄する・・・事後審査を行う上級裁判所(高等裁判所など)が、上訴に理由があるとして原判決を取り消す事。
   ・差し戻す・・・原判決を取り消し,事件をもとの裁判所へ送り返して,再度の審判を命じること。原判決に誤りがあるが,上訴裁判所みずから事件自体に対し結論をくだすことが法律上または事実上できない場合に行なわれる。 
  があります。  

 ~高島平マンション 判決の要旨 ~ 判決日:平成10年11月20日  最高裁判所第二小法廷

 上告人:管理組合
 被上告人:店舗部の区分所有者(丸藤商事)


 判示事項:
 一 区分所有者の有するマンション駐車場の一部の専用使用権を消滅させる集会決議が無効とされた事例
 二 区分所有者の有するマンション駐車場等の専用使用権を有償化する集会決議を無効とした原審の判断に違法があるとされた事例

 裁判要旨:
  一 区分所有者の有するマンション駐車場の一部の専用使用権を消滅させるとの集会決議が右区分所有者の承諾のないままされた場合において、右区分所有者が、分譲当初からマンションの一階店舗部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用のために駐車場の専用使用権を取得したものであって、残った駐車場だけではその営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないではなく、他の区分所有者は、同人らのための駐車場及び自転車置場がないことを前提としてマンションを購入したものであるなど判示の事実関係の下においては、右集会決議は、建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段の規定の類推適用により、効力を有しない。

 二 区分所有者の有するマンション駐車場等の専用使用権を有償化するとの集会決議が右区分所有者の承諾のないままされた場合において、右区分所有者が管理費等をもって相応の経済的な負担をしてきた権利を更に有償化して使用料を徴収することは右区分所有者に不利益を与えるということのみから、集会決議により設定された使用料の額が社会通念上相当なものか否か等について検討することなく、右集会決議を無効であるとした原審の判断には、建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「特別の影響」の有無について、法令の解釈適用の誤り、審理不尽の違法がある。

参照法条:
建物の区分所有等に関する法律第1章第2節共用部分等,建物の区分所有等に関する法律17条,建物の区分所有等に関する法律18条,建物の区分所有等に関する法律21条,建物の区分所有等に関する法律31条1項


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◎ 高島平マンション 判決文 全文  (平成10年11月20日:最高裁判所小法廷)

 上告人:管理組合
 被上告人:店舗部の区分所有者(丸藤商事)

主 文
 一 原判中、上告人の敗訴部分のうち、上告人が被上告人に対し専用使用料として平成四年一二月から毎月二五日限り一八万五〇〇〇円及びこれに対する各月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める請求に関する部分を破棄する
 二 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す
 三 上告人のその余の上告を棄却する
 四 前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理 由
上告代理人塙悟、同山上知裕、同中村仁、同中村宏の上告理由第一点ないし第四点について
 第一審判別紙第一物件目録記載三の土地(本件マンション北側土地)について被上告人が専用使用権を有しており、また、被上告人の本件各専用使用権が無償のものとして設定されたとした原審の事実認定は、原判挙示の証拠関係に照らして是認するに足り、その過程にも所論の違法は認められない。
この点に関する論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。
その余の論旨は、原判の結論に影響を及ぼさない説示部分について、法令解釈の誤り、理由不備等の違法があるというものであって、採用することができない。

 同第五点について
一 論旨は、本件マンションについて被上告人の有する専用使用権を消滅させ、又はこれを有償とする規約の設定及び集会決議が、被上告人の右権利に、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)三一条一項後段所定の「特別の影響」を及ぼすか否かの争点に関するものである。

原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、昭和四八年、自己の所有地上に本件マンションを建築し、二階ないし八階の建物専有部分(住居部分)の区分所有権と敷地の共有持分を分譲した。一階店舗部分の区分所有権は、サウナ、理髪店等の営業をする目的で被上告人が取得し、住居部分の一部についても被上告人が区分所有権を取得した。区分所有者の数は、被上告人を含めて三五名である。

2 本件マンションの敷地及び屋上、外壁、塔屋等の共用部分は、区分所有者全員がその有する専有部分の床面積の割合に応じて共有している。

3 被上告人は、本件マンションの分譲に際し、他の区分所有者全員の了承を得て、「Dマンション規約書」(以下「旧規約」という。)を定めた。その六条には、専用使用権に関し、「本建物のうち広告物その他の施設の設置のための外壁の一部、屋上及び塔屋外壁の使用権は被上告人が保有する。」(一項)、「本敷地の使用権は被上告人が保有する。」(二項)と規定されている。

4 被上告人は、一階店舗部分における営業のため、昭和四八年以降、
 (1)本件マンション屋上の塔屋外壁にネオン看板を、
 (2)屋上にサウナ用クーリングタワーを、
 (3)二階屋上にサウナ用水槽二個を、
 (4)二階ないし四階の非常階段の踊り場に支柱を設けて看板を設置したほか、
 (5)来客用及び自家用のため、敷地の南側と南西側にそれぞれ自動車四台が駐車可能な駐車場(以下、「南側駐車場」、「南西側駐車場」という。)を設置し、それぞれ無償で専用使用してきた。
なお、(4)の看板が設置されたのは平成四年以降である。

5 上告人は、被上告人を含む本件マンションの区分所有者全員により構成される管理組合であり、平成元年一〇月二九日に第一回総会を開催した。
6 上告人は、右同日、区分所有者及び議権総数の各四分の三を超える賛成議により、旧規約に代えて、新たに「Dマンション管理規約」(以下「新規約」という。)を設定した。

7 新規約の一四条には、専用使用権に関し、「店舗部分の区分所有者は、本建物のうち広告物その他の施設の設置のための外壁及び屋上の一部と塔屋外壁、敷地の専用使用権を有することを承認する。」(二項)、「前項の専用使用権を有している者は、総会の定があった場合は、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。」(三項)、「二項の専用使用部分の変更については、管理組合の承認が必要である。また総会の定によって専用使用部分を変更することができる。」(四項)と規定されている。

8 上告人は、平成四年一〇月一八日開催の平成四年度定期総会において、区分所有者及び議権総数の各四分の三を超える賛成により、新規約に基づき、被上告人の専用使用権に関して次の議をした。
 (一) 南西側駐車場についての専用使用権は、平成四年一二月三一日をもつて消滅させる(以下「消滅決議」という。)。
 (二) その余の専用使用権については、被上告人は、平成五年一月以降、専用使用料として、南側駐車場につき月額一〇万円、塔屋外壁につき月額四万円、屋上につき月額一万円、二階屋上につき月額二万円、非常階段踊り場につき月額一万五〇〇〇円を、毎月二五日限り翌月分を上告人に支払う(以下「有償化決議」という。)。

二 原審は、消滅決議及び有償化決議ないしその前提となる新規約設定の効力につき、次のとおり判示して、いずれもこれを無効であると判断した。
1 本件各専用使用権は、一階店舗部分で行う被上告人の商業活動が継続される限り効力を有するものとして設定された。したがって、右専用使用権の存続の利益を上回る他の区分所有者の共同生活上の利益が認められないにもかかわらずこれを廃止するのは、専用使用権者である被上告人に特別の不利益を与えるものである。そして、本件マンションは居住者用の駐車場がない前提で分譲され、居住者は分譲直後から他に駐車場を求めている。また、敷地内には自転車を置く余裕があるが、多くの者は盗難等を考慮して自転車を自己の居宅の前に置いている。さらに、特に本件マンションに来る業者用の駐車場を設ける必要もなく、以上の事情には、分譲直後から変化はない。
そうすると、上告人の主張する区分所有者の必要性が、商業活動上駐車場を必要とする被上告人の利益を上回るものとはいえず、規約の設定によって南西側駐車場についての専用使用権を消滅させることはできない。したがって、消滅決議は無効である。
2 本件マンションの維持運営に要する費用は、管理費や積立金として徴収する仕組みであり、被上告人の専用使用権は、相応の経済的な負担の下で維持されてきたものである。このような経済的負担の下で認められてきた権利を更に有償化して使用料を徴収することは、被上告人に不利益を与えるものであり、本件専用使用権を有償化する規約の設定には、被上告人の承諾を要する。したがって、有償化決議は無効である。

三 しかし、原審の右判断のうち、消滅決議を無効とした部分は是認することができるが、有償化決議を無効とした部分は是認することができない。
 その理由は、次のとおりである。

 1 法三一条一項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。

そして、直接に規約の設定、変更等による場合だけでなく、規約の定めに基づき、集会決議をもって専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化した場合においても、法三一条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である(最高裁判所平成八年(オ)第二五八号同一〇年一〇月三〇日第二小法廷判参照)。
本件においては、前記一のとおり、専用使用権に関する新規約一四条が設定された後、その定めに基づき、集会決議をもって被上告人の専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化したものであるところ、右新規約の定め自体はいまだ被上告人に現実的、具体的な不利益を及ぼすものではないから、右の「特別の影響」の有無は、消滅決議及び有償化決議について見るべきものである。

 2 まず、消滅決議について、上告人は、南西側駐車場の専用使用権を消滅させることは、区分所有者全体にとって、管理用自動車、緊急自動車の駐車場を設置し、また、全員のための自転車置場を設置するという高度の必要性があると主張している。しかしながら、本件区分所有関係についての前記諸事情、殊に、
 (1)被上告人は、分譲当初から、本件マンションの一階店舗部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用のため、南側駐車場及び南西側駐車場の専用使用権を取得したものであること、
 (2)南西側駐車場の専用使用権が消滅させられた場合、南側駐車場だけでは被上告人が営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないとはいえないこと、
 (3)一方、被上告人以外の区分所有者は、駐車場及び自転車置場がないことを前提として本件マンションを購入したものであること等を考慮すると、被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益は、その受忍すべき限度を超えるものと認めるべきである。したがって、消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって被上告人の承諾のないままにされた消滅決議はその効力を有しない。 消滅決議を無効とした原審の判断は、結論において是認することができる。

 3 次に、有償化決議については、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
また、設定された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である(前掲平成一〇年一〇月三〇日第二小法廷判参照)。

 4 しかるに、原審は、被上告人が管理費等をもって相応の経済的な負担をしてきた権利を更に有償化して使用料を徴収することは被上告人に不利益を与えるものであるというだけで、有償化決議により設定された使用料の額が社会通念上相当なものか否か等について検討することなく、有償化決議は、被上告人の承諾がない以上、無効であると判断している。
 したがって、原審の判断には、「特別の影響」の有無について、法令の解釈適用の誤り、審理不尽の違法があるというべきであり、この違法は原判の結論に影響を及ぼすことがらかである。 この趣旨をいう論旨は理由があり、原判中、上告人の敗訴部分のうち、上告人が被上告人に対し専用使用料として平成四年一二月から毎月二五日限り一八万五〇〇〇円及びこれに対する各月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める請求に関する部分は、破棄を免れない。

 5 そして、設定された使用料の額が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情を総合的に考慮して判断すべきものであるところ(前掲平成一〇年一〇月三〇日第二小法廷判参照)、有償化決議により設定された南側駐車場月額一〇万円、塔屋外壁月額四万円、屋上月額一万円、二階屋上月額二万円、非常階段踊り場月額一万五〇〇〇円という使用料の額が社会通念上相当なものか否か、さらには、もし右の使用料の額が相当な額と認められない場合には幾らであれば相当といえるかについて、所要の審理判断を尽くさせる必要がある。

以上の次第で、原判中、上告人の敗訴部分のうち本判主文第一項掲記の部分は、破棄してこれを原審に差し戻すこととし、上告人のその余の上告は、理由がないのでこれを棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
    裁判長裁判官  福田 博
         裁判官  根岸 重治
         裁判官  河合 伸一

 

*なお、同最高裁判所判決により、破棄差戻しとなった後、東京高等裁判所:平成13年1月30日判決は、管理組合の有償化決議によって設定された使用料の1割から2割の金額をもって「社会通念上相当な額」と判断しました。
 以下が、管理組合の要求する月額と最終的に東京高等裁判所が算定した金額の明細と理由です。

 対象事項  管理組合算定(月額) 東京高等裁判所算定(月額)  高等裁判所の算定理由(社会通念上相当な額)
1.南側駐車場   ¥100,000  ¥10,000 近隣相場は、¥25,000だが、マンホールなどがあり賃貸には出せない。
2.塔屋外壁の看板設置  ¥40,000  ¥8,000 近隣では、年間50万円の例もあるが、これは当てはまらない。
3.屋上のクーリングタワー  ¥10,000  ¥1,000 例がないが、店舗には必要性が高く、高額にはできない。 
4.二階屋上の2基の水槽  ¥20,000  ¥1,000 これも例がないが、店舗には必要で、高額にはできない。
5.二階、四階の踊り場の看板  ¥15,000  ¥1,000 電柱では、月¥2,200だが、参考にならない。なお、この看板は平成10年12月1日付で撤去されている。
 合計  ¥185,000  ¥21,000  管理組合:裁判所比(11.3%)

 「社会通念上相当な額」と簡単にいいますが、その算定にあたっては、本当に、面倒で、東京高等裁判所にしても、社会通念の近隣の相場が無い以上、クーリング・タワーや水槽の使用料を月額 ¥1,000 としているのは、特に根拠がないけど、無償とはできないが、1万円や2万円は高い気がするので、取りあえず ¥1,000 でどうかという程度の算定の気がします。

◎高島平マンションを巡る別の裁判 ~全体共用部分か一部共用部分か

 高島平マンションでの判例を探していたら、管理組合と丸藤商事が東京高等裁判所まで争った管理費の支払いという、別の事件が出てきました。
マンションにおける全体共用部分と一部共用部分の区分け例として、ご紹介します。

 ★一審判決(東京地方裁判所:昭和58年8月24日判決)
 ★二審判決(東京高等裁判所:昭和59年11月29日判決)


 ◎争点は、
  区分所有法第3条後段でいう、一部共用部分つまり「一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分」にマンションのどの部分が該当するかということです。

<参照> 区分所有法第3条 及び 第11条1項但し書き

(区分所有者の団体)
第三条  区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

(共用部分の共有関係)
第十一条  共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する

2  前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第二十七条第一項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。

3  民法第百七十七条 の規定は、共用部分には適用しない。

 二審の東京高等裁判所では、一部共用部分と全体共用部分との関係を、「建物全体の保全、全区分所有者の利益の増進、法律関係の複雑化の防止等のため、ある共用部分が構造上特に一部区分所有者の身の共用に供されるべきことが明白な場合に限ってこれを一部共用部分とし、それ以外の場合は全体共用部分として扱うことを相当とする」として、
  全体共用部分は...マンションの屋上、外壁、塔屋、火災報知機、テレビアンテナ等は争いがない。
  丸藤商事の主張...一階の東側で別の出入り口のある、サウナ、コインランドリー、理髪店を経営しており、そのため、他の区分所有者が使用している玄関ホール、階段室、非常階段、エレベーター室、管理人室とはかなり離れていて使用していないから、他の区分所有者が使用している玄関ホール、階段室、非常階段、エレベーター室、管理人室は、彼らの一部共用部分である。そこで、それらの管理費を負担しない。

 一審では、他の区分所有者が使用している玄関ホール、階段室、非常階段、エレベーター室、管理人室等を丸藤商事以外の区分所有者の一部共用部分と認定しましたが、二審の東京高等裁判所では、
  ・確かに、丸藤商事の専有部分とは離れていて、使用頻度も少ないが、完全には分離されていない
  ・丸藤商事の専有部分の使用に必要不可欠な部分である
  そこで、他の区分所有者が使用している玄関ホール、階段室、非常階段、エレベーター室、管理人室等は、構造上、機能上も、明白な一部共用部分には該当しないので、全体共用部分である。
  よって、管理費を払え、と判決しました。

 マンションにおいては、「一部共用部分」と「全体共用部分」をどう区切るかの判断は大変に難しく、これも、事案ごとに裁判所の判断に委ねることになります。

 ★また、二審でも「専用使用権」が争われ、ここでは、専用使用権は、公序良俗違反ではない、と判断されています。
 判決理由:
  ・売買契約書に外壁の使用、敷地の使用権を保有するとあり、専用使用権の設定につき、合意が成立する。
  ・専用使用権の対価は払われていないが、その分、分譲価格が幾分低めに設定されている。
  ・自転車置場がない不便さはある。
  ・将来規約を変更する道があり、無償を有償にできる。
  などから、丸藤商事に専用使用権を認めた合意は、著しく不当ではなく、公序良俗違反とまでは言えないとしました。   


 ◎纏め、
 ということで、九州の
  1.ミリオンコーポラス高峰館、
  2.シャルマンコーポ博多、
  3.シャルム田町、
  そして、東京の
  4.高島平マンション事件 における専用使用権が付いた駐車場を巡る4つのケースを見てきましたが、もう一度最高裁判所の判決を復習しましょう。

 ケース マンション名  事件名   判決日 争点  最高裁判所の判決主旨 
   ミリオンコーポラス高峰館  駐車場専用使用権分譲代金返還請求 平成10年10月22日  *分譲業者が一部の買主に駐車場の専用使用権を分譲して得た対価は業者のものか管理組合のものか
*分譲業者は委任契約で二重の利益を得ているので、管理組合に返還しろ 
 不当利得でもなく、委任契約でもない。
→専用使用権付きで分譲された対価は、分譲業者のもの(ケース3のシャルム田町と同様)
  シャルマンコーポ博多   駐車場専用使用権確認請求 平成10年10月30日 *規約の変更が「特別の影響をおよぼすべき」とは、他  規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し当該区分所有の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう。
  シャルム田町   駐車場専用使用権分譲代金返還等請求 平成10年10月30日 *分譲業者が一部の買主に駐車場の専用使用権を分譲して得た対価は業者のものか管理組合のものか  不当利得でもなく、委任契約でもない。
→専用使用権付きで分譲された対価は、分譲業者のもの(ケース1のミリオンコーポラス高峰館と同様)
  高島平マンション   管理費等請求 平成10年11月20日 *①駐車場の一部の専用使用権を消滅させる集会決議は有効か(消滅決議
 ②無償であった駐車場の専用使用権を有償化する集会決議は有効か(有償化決議
  区分所有法第31条1項後段の「特別の影響を及ぼす」か否か
①専用使用権を消滅させることは、不利益であり、その「受忍すべき限度を超えているので本人の承諾がないと無効である。(消滅決議は無効)
②有償化することは不利益ではあるが、有償化について必要性及び合理性が認められ、かつ設定された使用料が区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められるので有効である。(有償化決議は有効)
・ケース2での「特別の影響」の応用事例

◎専用使用権付きの駐車場を巡っては、以下のように分けられます。

 ア.分譲業者に対して
   1.単純に第三者である分譲業者が区分所有者の共有である敷地の権利を分譲できるのか
   2.当初の分譲契約は、合意されたものか
   3.委任契約といえるのか

 イ.分譲業者から専用使用権付きの駐車場を購入した区分所有者の立場と規約
   1.専用使用権を分譲された区分所有者における規約改正での「特別の影響」の有無
     a.専用使用権を規約の変更で奪うことができるか
     b.無償なり低額であった使用料をどこまで有償化(増額)できるか

   です。

 では、各々を検討してみましょう。

◎区分所有法による解決
 
 まずは、上のケース1.ミリオンコーポラス高峰館 や ケース3.シャルム田町事件 で見てきましたように、最高裁判所の判決では、分譲業者が、マンションの共有の敷地において、別途専用使用権付きの駐車場を分譲しても、それは公序良俗違反ではないとか、委任ではないので、分譲で得た対価は管理組合に返還する必要はないとしていますが、この最高裁判所の判断には誤りがあります。

 最高裁判所は、各々の判決文でも、分譲業者が、どのような法的な権限により、明らかに土地の所有権の二重販売となる「用益権」を分譲でき、またその対価を自己の物にできるのかの説明がありません。

 また、ケース.1で取り上げた、最高裁判所の平成10年(1998年)という民法を中心とした「ミリオンコーポラス高峰館事件」での、分譲業者が駐車場の専用使用権を建物とは別途に分譲しても「公序良俗違反でない、また委任ではない」といいながら、遠藤光男裁判官の補足意見にある

 「一 分譲業者がマンションを分譲するに当たり、建物専有部分(敷地の共有持分を含む。)とは別に、駐車場の専用使用権を分譲してその対価を取得する販売方式については、
 (1)分譲業者が、購入者に対して分譲したはずの敷地について二重の利益を得ている疑いが持たれるのみならず、
 (2)マンション分譲後においても、専用使用権の譲渡、存続期間、有償化ないし使用料の増額などをめぐって専用使用権者と管理組合との間に紛争が生ずる等の問題の存することは、被上告人(管理組合)の指摘するとおりである。
 したがって、既に建設省が行政指導において明らかにしているように、このような販売方式は好ましいものではなく、速やかに根絶されなければならないと考える。
 しかし、立法論や行政指導としてであれば格別、基本的に契約自由の原則が妥当する現行法の下における解釈論としては、おのずから限界があるものといわざるを得ない。」

 も参考にして、民法では、専用使用権付きの駐車場の販売で分譲業者が得た対価を不本意ながら解決ができないのなら、区分所有法での解釈をしてみましょう。

  ア.分譲業者に対して
  1.単純に第三者である分譲業者が区分所有者の共有である敷地の権利を専用使用権付きの駐車場として分譲できるのか  → 分譲業者は自己の為には、専用使用権付きの駐車場の分譲はできない


 マンションでの専用使用権付きという場合において、駐車場は土地における独立した部分であり、建物としてその専有部分(室)と構造上密接な繋がりがあるテラス(バルコニー)や屋上のテラスの専用使用権とは異なるという認識は必要です。 

 そこで、土地の権利を検討しますと、当初マンションの分譲業者は、単独に土地の所有権を有していますが、
 その分譲業者が、
  ・分譲の意図(登記または外部からみて客観的にマンション(区分所有建物)として、分譲することが明らかになった時点)から、
  ・分譲業者の土地の単独の所有権は、民法の適用が無くなり、区分所有法での区分所有者の共有を前提とした敷地利用権(区分所有法第2条6項)
 へと移行します。

  

 ついでに、この区分所有法で定める共有の敷地利用権となることにより、原則として建物の専有部分と分離処分もできなくなります。(区分所有法第22条)

 <参照> 区分所有法 第2条

 (定義)

第二条  この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。

2  この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。

3  この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。

4  この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。

5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。

6  この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。


 
区分所有法 第22条

 (分離処分の禁止)

第二十二条  敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。

2  前項本文の場合において、区分所有者が数個の専有部分を所有するときは、各専有部分に係る敷地利用権の割合は、第十四条第一項から第三項までに定める割合による。ただし、規約でこの割合と異なる割合が定められているときは、その割合による。

3  前二項の規定は、建物の専有部分の全部を所有する者の敷地利用権が単独で有する所有権その他の権利である場合に準用する。

 区分所有法の適用を受けることにより、マンション(区分所有建物)として、分譲を意図した時から敷地利用権となった土地においては、
  その管理と処分は
  ・区分所有者の団体(区分所有法第3条 管理組合)へと移行し、
  ・区分所有者の団体(管理組合)の集会(総会)の決議が必要となり(区分所有法第21条 → 区分所有法第18条)、
  ・分譲業者は単独で敷地利用権を処分することはできず、
  当然に、敷地上にある「土地の用益権」だけを、駐車場の分譲などとして自己の利益の為には処分できません。

<参照> 区分所有法 第21条 及び 第18条

(共用部分に関する規定の準用)

第二十一条  建物の敷地又は共用部分以外の附属施設(これらに関する権利を含む。)が区分所有者の共有に属する場合には、第十七条から第十九条までの規定は、その敷地又は附属施設に準用する。


(共用部分の管理)

第十八条  共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

2  前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。

3  前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。

4  共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。


前条 区分所有法 第17条
(共用部分の変更)

第十七条  共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

2  前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

 そこで、分譲業者が行う専用使用権付きの駐車場の分譲行為は、例え、その分譲行為を認めるという契約があっても、元々敷地に対して権限のない、法的な根拠を欠いた取引となりますから、その分譲で得た対価は不当利得として、区分所有者の団体(管理組合)へ返還するのが妥当となります。

 区分所有建物(マンション)の分譲をするという行為においては、土地の処分権は、過去の民法での分譲業者が単独で有しているという理論から、区分所有法で定める区分所有者の団体(管理組合)へ移行するという理論が適切です。

 2.当初の専用使用権付きの駐車場の分譲契約は、合意されたものか  → 合意は成立していない

   次に、分譲業者と購入者との分譲契約が購入者の理解の上に合意されたものかどうかを検討しましょう。

  ここまで、私の評論を読んできた人は一応「専用使用権」の概要はお分かりになったと思いますが、通常、マンションを購入する人にとって、「専用使用権付きの駐車場」を、別途買うことができますと分譲業者に言われても、ピンとこないでしょう。

 ここで、マンションの購入時における購入者の気持ちを考えますと、通常のマンションの購入者なら、まず、生まれて初めて目にする、自分の年収と比べても高額な何千万円という金額に興奮します。
そして、マンション購入にあたって、前もって準備する身分証明書、印鑑証明書、住民票、実印、収入印紙などその手配でもうんざりしています。

 さらに、宅地建物取引業者から受ける建築基準法や都市計画法など多くの専門用語が入った重要事項説明書と単にマンションの購入かと思っていたら、土地付区分建物売買契約書となっている世間一般の用語との乖離による理解の難しさ。
また、銀行からの融資を受ける人なら、変動金利とか固定金利とかのメリット・デメリットの複雑さ。銀行との住宅ローンがいつの間にか金銭消費貸借契約に変わっている不思議さ。
 加えて、不動産登記に伴う司法書士への委任状の作成など、など、など、マンションを購入する人には、署名と捺印が多くて、分譲業者又は宅地建物取引業者から説明をうけても、その内容を十分に理解しないで、また理解できないうちに、ただ相手から言われるままに所定の場所に署名と捺印をしているのです。
このような状況においては、通常、購入者が契約の内容を十分に理解したとみることはできません。

 これは、購入予定のマンションの「管理規約(案)」の内容についても同様で、購入時に渡される「管理規約(案)」を読んでいる人は、まったくと言っていいほどいませんし、通常、区分所有権とか専有部分とか、共用部分など専門用語が並ぶ80条近くに及ぶ管理規約(案)の内容を十分に理解することは困難です。
マンションの購入者にとっては、そのマンションに住むことがまず、第一条件ですから、駐車場の権利が別途分譲されていることの不合理さに気が付くのは、上の裁判例にありますように、入居後となるのが実態です。

 そこで、最高裁判所の判決においては、形式にとらわれず、マンションを購入する際の購入者の心理状況までも重要視すべきでした。
単に契約書に記載されているから、契約自由の原則により、合意が成立するというのではなく、ここは、分譲業者が購入者の無思慮に乗じた契約であり、無効とすべきです。

 また、専用使用権付きの駐車場を未来永劫無償で(又は低い使用料で)、専用使用権者が使用できるとなると、これは、区分所有法第6条での「共同の利益」に反することにも該当します。

 この詳細は、下の、 a.専用使用権を規約の変更で奪うことができるか → できる で解説します。

<参照> 区分所有法 第6条

(区分所有者の権利義務等)

第六条  区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

2  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。

3  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

  3.委任契約といえるのか → 委任契約が成立する

  まず、区分所有建物(マンション)の分譲から始まり区分所有者の団体(管理組合)が、実質的に結成され、管理組合がそのマンションの管理・運営を行う過程を見てみましょう。

 通常、分譲業者は、建物が完成する前に、分譲を開始しています。
 そして、分譲に際しては、購入者(区分所有者)が入居する前に、マンションの管理を決めておく必要性から、自己又はその分譲会社に関連した会社(子会社)が、マンションの維持・管理に必要な、清掃業務、エレベーターの運行、管理費や修繕積立金の収納用口座の開設など、建物・設備管理と事務管理を内容とした「管理業務委託契約」を各購入者との間で結びます。

 この、新築マンションでの当初の「管理業務委託契約」は、マンション売買契約時に購入者全員からの合意書面により「管理規約」と同様に発効します。

  「管理業務委託契約」の内容は、管理組合に代わって、清掃作業や建物の検査・定期点検、そして、管理費や修繕積立金等の会計(収入・支出)を行い、滞納者への督促や理事会・総会の支援業務などです。

 そこで、「管理業務委託契約」の内容は、民法での委任契約(または準委任契約=法律行為でない事務の委託 民法第656条参照)と請負契約の混合契約と解されています。

 この「管理業務委託契約」に見るように、分譲が始まれば、もうそのマンションでは、敷地及び建物の管理を行う区分所有者の団体(管理組合)が存在しているということであり、分譲会社の立場は、区分所有者の団体(管理組合)からの委任(準委任)契約に基づいているだけで、そのマンションにおいて、独自に分譲会社が別途処分できる権限は存在していないということです。

 それは、分譲が開始されれば、共有の敷地にある駐車場専用使用権を別途分譲会社が譲渡するという行為を行っても、その行為は、明示されてはいないものの、管理組合から委任を受けた行為と解することが適切であり、管理組合の財産である共有の敷地に別途専用使用権を付けて販売した対価は、当然に管理組合の物となり、この対価は、分譲会社の物ではなく、分譲業者は管理組合に受け取った対価を返還すべきです。

 この委任契約が成立するの論は、上の
 1.単純に第三者である分譲業者が区分所有者の共有である敷地の権利を専用使用権付きの駐車場として分譲できるのか → 分譲業者は自己の為には、専用使用権付きの駐車場の分譲はできない
  
での、結論を、別の形で補完するものです。

  共に、最高裁判所の判決はおかしいということになります。
 最高裁判所が 1.ミリオンコーポラス高峰館 の判決文でいう「好ましくない」事態を変えさせることができます。


 
では、次に、
 イ.分譲業者から専用使用権付きの駐車場を購入した区分所有者の立場と規約
   1.専用使用権を分譲された区分所有者における規約改正での「特別の影響」の有無
     a.専用使用権を規約の変更で奪うことができるか
     b.無償なり低額であった使用料をどこまで有償化(増額)できるか

 の検討に移ります。

イ.分譲業者から専用使用権付きの駐車場を購入した区分所有者の立場と規約
  
のうち、
  1.専用使用権を分譲された区分所有者における規約改正での「特別の影響」の有無

  を検討してみましょう。
  そして、
  a.専用使用権を規約の変更で奪うことができるか → できる
  最高裁判所は、4.高島平マンション事件 において、区分所有法第31条1項後段に規定される

 (規約の設定、変更及び廃止)

第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。
この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない

 「特別の影響を及ぼす」について、専用使用権を分譲された区分所有者が、規約の改正でその専用使用権を奪われる(消滅)させられることは、特別の影響を受けるので、専用使用権者の承諾が必要と判断していますが、これは誤っています。 

 上の判例の解説でも詳細に述べましたが、「特別の影響を受ける」という際においての判断は、1.シャルマンコーポ博多事件や、4.高島平マンション事件で最高裁判所より示された以下の共通の判断があります。
 *特別の影響を及ぼすときとは、
 規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうもの

 です。

 つまり、
  規約の設定、変更等が
  ①どの程度必要なのか、またどの程度合理性があるのか を
  ②一部の区分所有者が受ける不利益はどの程度か とを
  ③様々な角度から比較し、考えて、 また
  ④そのマンションの区分所有関係の実態もよく検討して
  ⑤最終的には、不利益を受ける一部の区分所有者が、共同生活を営む上で、通常、がまんできる限度を超えている場合をいう、 ことになります。

  ここで、再度、区分所有者の共有の財産である敷地において一部の区分所有者が未来永劫に渡り無償(又は有償)で使用することのできる、専用使用権付きの駐車場を検討しますと、その存在は、他の区分所有者との関係において、著しく公正を欠いた存在であることに気が付きます。
 具体的には、専用使用権付きの駐車場の使用者は、その権利の代償として、特別に固定資産税や都市計画税を負担していますか。
回答は、ノーで、他の区分所有者と同様な負担であり、特別に公租公課を負担していません。
 他の区分所有者と同様な負担しかしていないにも関わらず、共有財産の敷地において、特別の待遇を受けているのです。
この行為は、区分所有法第6条で規定される「共同の利益」に反することになります。

 <参照> 区分所有法 第6条

(区分所有者の権利義務等)

第六条  区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

2  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。

3  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

 区分所有法第6条での「共同の利益とは」、
  ・各区分所有者が共同に持っている利益とは、所有物(資産価値、使用価値と交換価値の双方を含みます。)を維持し、これを自由に使用・収益・処分できること と考えられます。

 この区分所有法第6条の「共同利益背反行為」の解釈においては、単に建物の管理とか使用だけでなく、迷惑行為(ニューサンス)や、敷地や附属施設の保存・管理・使用に関する有害行為も含まれるとされます。

 そこで、何が「共同の利益に反する行為」かの、具体的な判断基準としては、
  ・その行為の必要性の程度
  ・それによって、他の区分所有者が被る不利益の態様・程度等の諸事情を比較考量して決める
  ことになります。

 これらをもとに、専用使用権付きの駐車場の存在を検討しますと、それは、区分所有者全員の共有である敷地において、
  ・駐車場は利用希望者が公平に利用できなければならない
  を前提にして、
  ・専用使用権付きの駐車場の使用者は、他の区分所有者が有していない駐車場を専用に使用できるという特別の待遇を受けている
  ・また、その特別待遇は、他の区分所有者に比較して、税の負担なども含めて著しく不公平な内容である
  よって、専用使用権付きの駐車場の権利の存続は、区分所有法第6条に規定する「共同の利益に反す行為」であり、また、規約の改正により、専用使用権付きの駐車場の権利を消滅するのは、区分所有法第31条1項後段に規定される「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」にも該当せず、使用者の承諾も不要です。

 ◎既存の権利者には補償金を支払うこと
  なお、今まで専用使用権付きの駐車場の権利を有していた区分所有者に対しては、その権利を奪うことになるため、補償金の支払は必要です。
 その補償金の算定に当たっては、
   ・分譲された金額
   ・専用使用したきた期間
   ・他の区分所有者が支払ってきた駐車場使用料の額
   などが参考になります。
 
 では、次に、
イ.分譲業者から専用使用権付きの駐車場を購入した区分所有者の立場と規約
  1.専用使用権を分譲された区分所有者における規約改正での「特別の影響」の有無

 において、
 b.無償なり低額であった使用料をどこまで有償化(増額)できるか → 他の区分所有者が支払っている使用料まで増額できる
 の検討ですが、これについては、 ケース4.高島平マンション事件 で検討をしましたように、最高裁判所の判断は、「従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである」です。

 この最高裁判所の判断には、「従来無償とされてきた専用使用権」を消滅させることは、専用使用権者の承諾がないとできないという認識が先にありますが、最高裁判所の判断は、上で述べた区分所有法第6条にいう「共同の利益違反」を考慮していません。
区分所有法第31条1項後半に規定される「特別の影響を受けるに」には該当しないという最後の結論は、同様になりますが、審理の過程が異なります。

 区分所有者の共有である敷地において、特定の区分所有者だけが、他の区分所有者が有していない駐車場を専用に使用できるという特別の待遇を受けることは、著しく衡平を欠いた行為ですから、これは、区分所有法第6条での「共同の利益違反」に該当します。
よって、区分所有法第31条1項後半に規定される「特別の影響を受けるに」には該当せず、その権利を消滅させることができますから、当然に、使用料を有償化することも可能です。

 今まで無償なり低額に設定されていた専用使用権の付いた駐車場の使用料は、規約の改正において、そのマンションでの他の区分所有者が負担している駐車場の使用料と同額にすればいいでしょう。
それは、正に「社会通念上相当な額」です。


以下は、マンション管理士及び管理業務主任者試験で出題された、上記、専用使用権の付いた駐車場についての例です。

参考にして下さい。

 {設問-1} 平成25年マンション管理士試験 「問6」

〔問6〕 マンション分譲会社Aは、マンションの分譲に際し、専有部分の区分所有権及び敷地の共有持分とは別に、一部の区分所有者Bらに、マンションの敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権を分譲し、その代金を受領した。Bらは、所定の駐車場使用料を管理組合Cに毎月支払い、駐車場を専用使用してきたが、Cは、集会決議により規約を変更した上で駐車場使用料を増額する旨の決議をした。ところがBらはこれに応じなかった。この場合に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定並びに判例によれば、適切なものはどれか。

1  Cが、規約を変更した上で駐車場使用料を増額したことは、一般的にBらに不利益を及ぼすものであるから、Bらの承諾を得ない限り、許されない。


X 適切でない。 受忍の範囲で、承諾はいらない。 

  
  
 設問の背景説明:新しく区分所有法の勉強をしている人には、設問が何を目的としたものか、こんな勝手な分譲なんて不合理なことをどうして分譲会社ができるのかと思うでしょう。
 でも、現実に昭和の終わり頃(また、最近でも)、マンションの分譲会社は、明らかに区分所有者の共有財産である、敷地の使用権を特定の区分所有者に販売して、利益を得ているのです。
 そこで、分譲後の管理組合がこの不合理さに気がつき各地で裁判を起こしました。
 これらの裁判について、最高裁判所は、平成10年10月22日には ミリオンコーポラス高峰館事件、平成10年10月30日に シャルム田町事件 と シャルマンコーポ博多事件、平成10年11月20日に 高島平マンション事件、 について判決を出しました。
 設問はこれら一連の事件についてです。

 具体的には、区分所有法第31条に定める「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」に関係します。
 区分所有法第31条
 「(規約の設定、変更及び廃止)
 第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
  2  前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。 」

 第31条1項が定める「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす」とは、論争の起きる箇所で、判例はこの判断として”「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。」”としています。(平成10年10月30日:シャルマンコーポ博多事件)
 そして、設問の駐車場の使用料増額に対しては、”これを使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである”と判断しました。
 確かに駐車場使用料を増額するのは、該当の利用者にとっては不利益ではありますが、受忍すべき範囲であり、区分所有法第31条1項後段にいう”一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきに該当しないので、その承諾はいらないとしましたから、適切ではありません。
 

2  Bらが訴訟において駐車場使用料増額の効力を争っているような場合に、Cが、Bらの駐車場使用料の増額分の不払を理由に駐車場使用契約を解除し、Bらの駐車場の専用使用権を失わせることは、契約の解除を相当とするに足りる特段の事情がない限り、許されない。

○ 適切である。 訴訟が継続中である。
  設問は、選択肢1で引用しました、最高裁判所の判決:平成10年10月30日:シャルマンコーポ博多事件 で以下のように判決文があります。
 ”管理組合は、規約の設定、変更等又は規約の定めに基づく集会決議をもって使用料を増額することができ、これが専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものでない限り、専用使用権者は増額された使用料の支払義務を負うことになる。しかし、この「特別の影響」の有無、殊に、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、裁判所の最終的な判断を待たなければ明らかにならない場合が少なくない。したがって、専用使用権者が訴訟において使用料増額の効力を争っているような場合には、裁判所の判断を待つことなく、専用使用権者が増額された使用料の支払に応じないことを理由に駐車場使用契約を解除し、その専用使用権を失わせることは、契約の解除を相当とするに足りる特段の事情がない限り、許されないものと解するのが相当である。” 
 よって、適切です。


3  AがBらにマンションの敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権を分譲する売買契約は、公序良俗に反するものであるから、無効である。

X 適切でない。 分譲契約は公序良俗に反しない。

  私なら、このような購入者の無思慮に乗じて、暴利を得る分譲業者の行為は許さないのですが、今度は、最高裁判所の判決:平成10年10月22日: ミリオンコーポラス高峰館 で以下のような判決文があります。

 ”売買契約書、重要事項説明書、管理規約案の記載に照らすと、本件駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人(分譲会社)が特定の区分所有者に分譲したものであるところ、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得ることを、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を承認すべきことをそれぞれ認識し理解していたことが明らかであり、分譲業者である上告人が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情も存しない。
 なお、本件のように、マンションの分譲に際し分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得する取引形態は、好ましいものとはいえないが、このことのゆえに右契約の私法上の効力を否定することはできない。”
 とあり、不本意ですが、判例によるなら、駐車場の専用使用権を分譲する売買契約は公序良俗に反するものと認められませんから、無効ではないため、選択肢3は適切ではありません。
 なお、公序良俗とは、民法第90条
 「(公序良俗)
 第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」です。


4  Aは、区分所有者全員の委任により、Bらに駐車場の専用使用権を分譲したものであるから、Cは、Aに対して、委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき、AがBらから受領した専用使用権の分譲代金の引渡しを請求することができる。

X 適切でない。 分譲会社の行為は委任には該当しない。
  分譲会社が勝手に受領した専用使用権の分譲代金を何とかして、管理組合のものにできないかと、管理組合から相談を受けた弁護士が苦労して「委任」を持ち出した事件です。 
 これには、最高裁判所の平成10年10月22日の ミリオンコーポラス高峰館事件 と、同平成10年10月30日判決の シャルム田町事件 が該当します。
 まず、ミリオンコーポラス高峰館事件の判決文は以下のようになっています。

 ”右売買契約書の記載によれば、分譲業者である上告人は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意の内容に従って上告人(分譲会社)に帰属するものというべきである。この点に関し、上告人が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右専用使用権分譲契約における当事者の意思に反するものであり、前記管理委託契約書の記載も右判断を左右しない。また、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものといわなければならない。
  したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき右対価の引渡しを求める被上告人の予備的請求(注:主位的な請求は不当利得返還請求権でした)は、理由がない。”
 
 また、シャルム田町事件 では以下がその該当部分です。
 ”分譲業者である上告人A2興産は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであり、さらに、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、右分譲契約における合意の内容に従って同上告人に帰属するものというべきである。この点に関し、上告人A2興産が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右分譲契約における当事者の意思に反するものであるといわなければならない。また、ある者が自己のためにする意思の下にした行為が、他の者からの受任によってする行為と外形的に同一であったとしても、そのことだけで、関係者の具体的意思に反して、両者の間に委任契約が成立していたということはできないし、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものである。したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき右対価の引渡しを求める被上告人B2の予備的請求(注:主位的な請求は不当利得返還請求権)は、理由がない”
 と判断して、「委任」関係を適用して専用使用権の分譲代金の引渡しを請求することはできないとしましたから、適切ではありません。

 なお、委任とは、民法第643条以下にあります。
 「(委任)
 第六百四十三条  委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」


答え:2  選択肢4の委任関係はわからなくても、多くの人が疑問を感じている、分譲会社によるマンション敷地内の駐車場の専用使用権の分譲が、一応、平成10年での法の解釈では、おかしいが仕方ないという認識であるという判決の概要を読んだ人は多いと思います。


{設問-2} 平成19年 管理業務主任者試験 「問33」

【問 33】次に掲げる管理規約の改正内容と、改正に際し、その承諾を得なければならない特別の影響を受ける区分所有者の組合せのうち、最も適切なものはどれか。




組合せ問題である。この形式では、4択よりも正解の確率が当然に低くなる。
まず、規約は、区分所有法第30条「(規約事項)
「 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
  2  一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。」により多くの事項を定めて良いが、
  同法第31条 1項(規約の設定、変更及び廃止)
「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」
  とあり、規約の改正では、一部の区分所有者の権利に関係するときは、その人の承諾が必要となる。
 そこで、特別の影響を受ける区分所有者とはなにかが問われている。
  「特別な影響」といっても抽象的な概念であり、具体的な場合に何がそれに該当するかは一概には言えない。
 状況に応じて、受忍限度を明らかに越えたものかどうかを、変更等の必要性・合理性・緊急性と制約を受ける権利等の性質・内容・制約の程度等を総合的に判断して結論を下すことになる。

1.→ 承諾が必要? 
 管理費の負担は、区分所有法第19条(共用部分の負担及び利益収取)
「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。 」により、原則、専有部分の床面積の割合によっている。
 それを、同一にすることは、専有部分の床面積の小さな区分所有者にとっては、負担が増すことになり受忍の限度を超えているといえる。しかし、各専有面積に余り差がないときは、承諾も不要であるが。
 <参考>標準管理規約(単棟型)第46条 関係コメント
 「 ②各住戸の面積があまり異ならない場合は、住戸1戸につき各1個の議決権により対応することも可能である。
また、住戸の数を基準とする議決権と専有面積を基準とする議決権を併用することにより対応することも可能である。」
    特に、「平成19年マンション管理士試験 問7 選択肢2」とも絡むと、承諾が必要といえるのか? 
 (参考:平成11年3月15日:広島地裁呉支部での判決がある。これによると、修繕積立金の額を従来から変更し、専有床面積の割合による場合と、各戸均等とした場合には、最大で7倍の差が生じ、不利益を受ける専有部分の床面積の少ない区分所有者は、「特別の影響を受ける」として、彼らの承諾を必要とした。)

2.→ 承諾は不要。 
もともと、他人に迷惑となる動物の飼育を禁止するとの規約を細分化して、犬猫等の動物の飼育を禁止するとの定めに改正するのは、小型犬を飼育している独居高齢の区分所有者にとって、受忍範囲内である。{判例}ペット飼育を制限・禁止する新規約は有効であるとされた事例(東京高裁 H6・8・4)

3.→ 承諾は不要。 
騒音問題とも絡み、夜間のピアノ演奏やスピーカーでの音楽再生は午後8時までとするとの定めは適切である。たとえ、音楽大学の受験生でも、夜遅くまで、練習することは、適切ではない。

4.→ 承諾は不要? 
マンションの外壁は、共用部分であり、1階店舗の外装工事を行う場合、極端な制限であれば、1階店舗部の区分所有者に対しては、受忍限度を超えることも考えられるが、合理的な制限程度なら、不要か。(東京地裁 S63・11・28)

答え:1 (選択肢4がすこしひっかかるが。) 社団法人高層住宅管理業協会の正解:1


{設問-3} 平成28年 管理業務主任者試験 「問34」

[問 34] マンションの専有部分及び専用使用権に関する次の記述のうち、区分所有法、標準管理規約及び判例によれば、最も不適切なものはどれか。

1 専有部分とは、一棟の建物に構造上区分され、かつ、住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に独立して供することができるように利用上区分された、区分所有権の目的である建物の部分である。  


〇 適切である。
まず、区分所有法での専有部分とは、区分所有法第2条
 「(定義)
 第二条  この法律において
「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
 2  この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
 3  この法律において
「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう
 4  この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
 5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
 6  この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。

 とあり、
  区分所有法第2条3項によれば、「専有部分とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう」です。
 では、「区分所有権の目的たる建物の部分」での、「区分所有権」とは、これは、同じく区分所有法第2条1項
 「「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう」となり、
 引用されています、前条は、区分所有法第1条

 「(建物の区分所有)
 第一条  
一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる
 となります。
 区分所有法の構成で、専有部分とは、条文上遡らないと分からないようになっています。
 これらを纏めますと、
 ・専有部分=区分所有権の目的たる建物の部分(ただし共用部分=廊下、階段室などは除く)
 ・建物の部分=①構造上区分された数個の部分...
構造上の独立性という
           ②独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの...
利用上の独立性という
 となります。

 そこで、設問の
 専有部分とは、一棟の建物に構造上区分され、かつ、住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に独立して供することができるように利用上区分された、区分所有権の目的である建物の部分であるは、適切です。

2 地下に設けられた駐車場部分は、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていなくても、構造上、利用上の独立性を備えている場合には、専有部分として登記して分譲することができる。  

〇 適切である。 専有部分は、①構造上の独立性 と ② 利用上の独立性 があればいい。
選択肢1で説明しましたが、専有部分と共用部分の区切りは実に難しくて、裁判でも争いがあります。
 基本的には、①構造上の独立性 と ②利用上の独立性 を備えていれば、専有部分となり、専有部分であれば、登記ができ、分譲ができるとなります。
 昭和56年6月18日付最高裁判所判決
 では、
 「
建物の区分所有等に関する法律一条にいう構造上区分された建物部分とは、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断されており、その範囲が明確な建物部分をいい、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていることを要しない。」
 として、建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当であるとしていますから、
 地下に設けられた駐車場部分は、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていなくても、構造上、利用上の独立性を備えている場合には、専有部分として登記して分譲することができるは、適切です。


3 専用使用権とは、敷地及び共用部分等の一部について、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利であり、専用使用権の対象となっている当該部分を専用使用部分という。  

〇 適切である。
標準管理規約の位置付けとしては、まず、民法や区分所有法などマンション生活での基本的な法令が存在し、法令でも明確でない部分に関しては判例があり、これらを拾い集めて国土交通省の役人がマンションの居住者の”参考ルール”として標準管理規約に纏めたもので、特に法的な強制力はないということを理解してください。

 正しいとか、誤っているとか、適正であるとか、適正でないの判断をする順序としては、標準管理規約に記載されている定義が先行するのではなく、民法や区分所有法、判例などを基本として判断します。ただし、標準管理規約もそのマンションにおいて規約として承認されると、その規定は、かなりの拘束力を持ちます。
 
 そこで、区分所有法や民法では定義のない「
専用使用権」とは、何かとなると、参考になるのは、もう判例や法学者の解釈となります。
 判例を調べましたが、該当の定義付けは探しだすことができませんでした。
 そこで、法学者の解釈は、例えば、「コンメンタール マンション区分所有法(稲本洋之助、鎌野邦樹 著)」によれば、「
建物の共用部分または敷地を特定の区分所有者または特定の第三者が排他的に使用する権利である。」
 とされ、
 「マンションの法律 (玉田弘毅 著)」によれば、「
区分所有者の共有に属する建物共用部分及び敷地について、特定の区分所有者又は第三者がこれを排他的に使用できる権限のことをいう」
 
とあり、
 これらも参考にすると、「専用使用権とは、敷地及び共用部分等の一部について、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利であり、専用使用権の対象となっている当該部分を専用使用部分という」は、適切です。

4 敷地に、特定の区分所有者に対して無償の駐車場専用使用権が規約に基づいて設けられていた場合、後に、当該駐車場部分の使用を有償化する決議をするには、必ず当該専用使用権者の承諾を得なければならない。  

X 不適切である(正解)。 無償の駐車場使用料を有償化するのは、特別の影響に該当せず、一部の区分所有者の承諾は、不要。
 敷地に、特定の区分所有者に対して無償の駐車場専用使用権が規約に基づいて設けられていた場合で、後に、当該駐車場部分の使用を有償化する決議をするとなると、これは、区分所有法第31条
 「(規約の設定、変更及び廃止)
 第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。
この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
 2  前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。

 とあり、
  区分所有法第31条1項によれば、規約の変更が一部の区分所有者の権利に
特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないとありますから、設問の場合の無償の駐車場専用使用権者がこれに該当するか、どうかということです。
 しかし、「特別の影響をおよぼすべきとき」とは、曖昧な表現ですね。そこで、設問については、平成10年11月20日の高島平マンション事件 として、最高裁判所の判決 があります。
 判決の要旨としては、
 ①駐車場の
専用使用権を消滅させる決議(消滅決議)は、使用者の専用使用権に特別の影響を与えるので無効。
 ②駐車場の
専用使用料を有償化する決議(有償化決議)は、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである
 としていますから、
 敷地に、特定の区分所有者に対して無償の駐車場専用使用権が規約に基づいて設けられていた場合、後に、当該駐車場部分の使用を有償化する決議をするには、「特別の影響を及ぼす」には該当しないため、”必ず当該専用使用権者の承諾を得なければならない”は、適切ではありません。



答え:4


{設問-4} 平成26年 管理業務主任者試験 「問35」

【問 35】 マンションの駐車場に関する次の記述のうち、民法、区分所有法及び判例によれば、最も不適切なものはどれか。

1 分譲業者が、敷地に区画された駐車場部分に排他的利用を可能とする専用使用権を設定して、区分所有権とは別に分譲・販売することは、民法第90条の公序良俗に反し無効な契約であり、分譲業者は受け取った対価を管理組合に返還しなければならない。


X 適切でない。 公序良俗には反しない。 判例。 詳細は、平成25年のマンション管理士試験 「問6」
  通常の人間の判断なら、マンションの管理組合の共有関係にある敷地を勝手に分譲会社が自社のために、別に売ってしまうなんてことは、いくらなんでも、おかしいと思うのですが、最高裁判所の判断は違っています。
 元の判決は、最高裁判所:昭和56年1月30日:に「 土地付分譲マンション付属の駐車場専用使用権分譲特約が公序良俗違反として無効とはいえないとされた事例 」として、
 「本件マンシヨン購入者と訴外D興発株式会社との間の駐車場専用使用権の設定に関する約定が
公序良俗に違反するものとは認められないとした原審の判断は、正当として是認することができる」 とあり 短い判決ですが、論点は、
 「 マンシヨン分譲業者がマンシヨンの敷地の持分と右敷地内の付属の駐車場専用使用権とを別個に譲渡することが同一土地から二重に利益を得ることになるものと速断することはできず、マンシヨン購入者の全員において、駐車場専用使用権を土地付マンシヨン本体の分譲とは別個に購入者に対して分譲する権利が分譲業者に留保されていること並びに右専用使用権の分譲を受けた者及びその譲受人が右駐車場を専用使用することを容認・承諾して、分譲業者とマンシヨン分譲契約を締結したことなど原審認定の事情のもとにおいては、右駐車場専用利用権の設定に関する約定が公序良俗に反するものとはいえない。 」 です。
 
 これを受け、最高裁判所:平成10年10月22日:ミリオンコーポラス高峰館 では、以下のような判決文があります。

 
”売買契約書、重要事項説明書、管理規約案の記載に照らすと、本件駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人(分譲会社)が特定の区分所有者に分譲したものであるところ、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得ることを、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を承認すべきことをそれぞれ認識し理解していたことが明らかであり、分譲業者である上告人が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情も存しない
 なお、本件のように、マンションの分譲に際し分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得する取引形態は、好ましいものとはいえないが、このことのゆえに右契約の私法上の効力を否定することはできない。

 とあり、不本意ですが、判例によるなら、駐車場の専用使用権を分譲する売買契約は公序良俗に反するものと認められませんから、無効ではないため、適切ではありません。

 なお、公序良俗とは、民法第90条
 「(公序良俗)
 第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」
 です。
 
  この最高裁判所の判例は、もう変更されるべきです。



2 建物内の構造上、利用上の独立性が認められる駐車場部分を、専有部分として登記して、住戸部分とは別に分譲・販売することができる。

○ 正しい。 平成25年管理業務主任者試験 「問39」、 平成25年マンション管理士試験 「問1」
  まず、建物内の構造上、利用上の独立性となると、区分所有法第1条、
 「(建物の区分所有)
 第一条  
一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。 とあり、
 設問の「建物内の構造上、利用上の独立性が認められる駐車場部分」となると、駐車場であっても、区分所有権の目的になれます。
 すると、区分所有法第2条
 「(定義)
  第二条  この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
   2  この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
   
3  この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
   4  この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
   5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
   6  この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。 」
 とあり、
 3項により、区分所有権の目的たる建物として、専有部分になり、専有部分は登記ができますから、住戸部分とは別に分譲・販売することができるので、正しい。

 *でも、追求していくと、駐車場などは、共用部分か専有部分かの区分が難しくて、よく裁判で争いになります。


3 敷地上の駐車場使用契約が使用貸借契約である場合には、契約の相手方である駐車場使用者との契約更改がない限り、集会決議によって有償化することはできない。

○ 適切である。
 マンションでは、多くのことは、集会の決議で決められます。
 それが、区分所有法第39条
 「(議事)
  第三十九条  
集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
   2  議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。
   3  区分所有者は、規約又は集会の決議により、前項の規定による書面による議決権の行使に代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)によつて議決権を行使することができる。」
  です。
  しかし、使用貸借契約とは、無償で貸していることです。これを、有償化(有料)にするには、基本となっています契約そのものを変更(更改)することが必要です。 この場合、区分所有法の適用がありません。(なお、有償化すれば、集会で、金額の増減などは決められます。)
 参考:民法第513条
 「(更改)
  第五百十三条  当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは、その債務は、更改によって消滅する。
   2  条件付債務を無条件債務としたとき、無条件債務に条件を付したとき、又は債務の条件を変更したときは、いずれも債務の要素を変更したものとみなす。
」 


4 敷地に区画された駐車場について、無償で利用している一部の区分所有者等の専用使用権を消滅させるには、その変更に必要性、合理性、相当性が認められない限り、集会の決議のほかにその者の承諾が必要である。

○ 適切である。
 この裁判は、高島平マンション事件で、最高裁判所:平成10年11月20日 が該当します。
  判決では、①専用使用権の消滅 と ②専用使用権を有償化する件 が争われました、ここでは
  ①
区分所有者の有するマンション駐車場の一部の専用使用権を消滅させる集会決議が無効とされた事例 として、
   「区分所有者の有するマンション駐車場の一部の専用使用権を消滅させるとの集会決議が右区分所有者の承諾のないままされた場合において、右区分所有者が、分譲当初からマンションの一階店舗部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用のために駐車場の専用使用権を取得したものであって、残った駐車場だけではその営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないではなく、他の区分所有者は、同人らのための駐車場及び自転車置場がないことを前提としてマンションを購入したものであるなど判示の事実関係の下においては、右集会決議は、建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段の規定の類推適用により、効力を有しない。」 として、
 専用使用権を消滅させる集会決議が無効と判断されています。
 なお、区分所有法第31条1項後段の規定は、
 「(規約の設定、変更及び廃止)
  第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。
この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない
   2  前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。 」
 で、
 この規定を類推適用しました。
 また、区分所有法第31条1項での「特別の影響を及ぼすべきとき」は、最高裁判所:平成10年10月30日の判例 によりますと、
 「建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、
規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう。」 
 ですから、適切です。



答え:1  判例からも出題されますから、マンションに関する判例は、読んでおいてください。
       選択肢1や選択肢4はよく出題されています。 ここは、平成25年のマンション管理士試験を勉強していれば、答えは早い。
       {ある受験者の感想…選択肢1の判例は知っていた。しかし、選択肢3などは単独で出されたら、Xにしてしまうかも}

《タグ》敷地内の分譲会社の駐車場、集会決議。  区分所有法 + 判例






更新記録:
2017年 9月24日:第1版完成。
2017年 9月 3日:委任契約が成立するを入。
2017年 8月16日:各ケースでの争点の図を入れた。
2017年 5月22日:第1版 作成中。

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