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 ◎マンションの管理組合が、高圧一括受電方式を採用しても、区分所有者は、その総会の決議に拘束されない。また、規約でも定められない。

最高裁判所:平成31年(2019年)3月5日の判決について

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◎高圧一括受電方式の採用は、総会で決議できるか。 → 総会で決議しても無効。専有部分の管理・使用に関する事項ではない。

  関係条文:区分所有法第66条(団地関係)準用 第17条(共用部分の変更)1項及び第18条(共用部分の管理)1項、 また、区分所有法第30条(規約事項)1項

 平成30(受)234  損害賠償等請求事件
 平成31年3月5日 最高裁判所第三小法廷 判決  破棄自判  札幌高等裁判所

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*事案の概要:

 対象マンションの概要 
 住所 区分所有法での団地を形成   棟数 総戸数 管理組合の形態
 北海道札幌市  5棟  544戸  団地管理組合法人

 北海道の札幌市にある、区分所有法での団地関係が成立する区分所有建物(マンション)が5棟(総戸数:544戸)からなる団地。なお、管理組合は団地管理組合法人となっている。
 そこで、団地では、単棟の区分所有建物の区分所有者が、団地建物所有者と呼ばれることに注意。


 ◎電力供給方式とは、
 事案の説明の前に、通常、中規模程度のマンションでは、電力供給は、各住戸の契約電力と共用部分の契約電力の総量が50kw以上(高圧)となると、「高圧引込み」となり、
  高圧電力は以下の2方式により低圧電力に変換され、配電設備から各住戸へ送られる。
  @借室方式...建物内の1室を変圧機器室として電力会社へ貸す。貸室の内部と受変電設備等は、電力会社の管理(所有)となる。
  A借棟方式...敷地内に変圧を行う棟を設置して、電力会社へ貸す。貸棟の内部と受変電設備等は、電力会社の管理(所有)となる。外壁、屋根等の修理は管理組合で行うのが原則。

 
 *高圧一括受電方式とは 〜平成17年(2005年)の電気事業法の部分自由化の改正により創設〜
  マンションでの高圧一括受電方式は、平成17年の電気事業法の改正によりできた方式で、上で説明した「高圧引込み」により電力会社は、高圧電力を建物まで送るが、送られてきた高圧電力を管理組合(又は、代行会社)が一括して買い取り、その先は、管理組合(又は、代行会社)が管理(所有)する受変電設備を使用して、低電圧に変換し、各住戸に販売する方式である。

  なお、管理組合が電力会社と高圧一括受電方式契約を結んでも、管理組合が行うことになる受変電設備の設置や、各住戸への検針・請求・回収・領収書の発行や法律による電気設備の点検等の作業内容は、一括受電サービス会社があり、一定期間、管理組合との契約で、一括受電サービス会社が代行することが多い。

  高圧一括受電方式を採用すれば、共用部分(エレベーター、電灯等)の電気代は、20〜40%、専有部分(各戸)の電気代は、最大10%程度安くなると言われている。

  だが、専有部分も高圧一括受電方式へ変更するには、従来の個別で電力受給契約をしている団地建物所有者等の全員がその個別契約を解約することが必要となる。 


◎裁判の団地の場合
 *該当の札幌の団地では、既に、共用部分については、北海道電力株式会社と団地管理組合法人において高圧一括受電方式の契約をしている。
  しかし、専有部分の団地建物所有者又は専有部分の占有者(賃借人等)は北海道電力株式会社との間で個別に「電灯契約」と呼ばれる低圧契約を結んでいる。
  そこで、高圧一括受電方式を専有部分にまで拡大し、団地管理組合法人が一括して北海道電力会社との間で、高圧一括受電契約を結べば、各専有部分におても、電気料金が低減されるメリットが生じる。
  
  なお、受電方式の変更は、マンション敷地内にある受変電設備、配電設備の所有・管理形態の変更を伴うため、高圧一括受電方式にするには、団地においては区分所有法第66条で準用される、共用部分の変更(第17条1項)と同じく共用部分の管理に関する事項(第18条1項)に該当し、総会(集会)の決議が必要となる。

  また、後で出てくるが、規約の変更と「電気供給規則」という細則の設定もあり、該当の高圧一括受電方式は、規約に定めることができる事項かで、区分所有法第30条1項の問題ともなった。

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◎事案の経過:高圧一括受電方式の採用を目指して (注:団地では、単棟の区分所有建物の区分所有者が、団地建物所有者と呼ばれます)
 
 1.団地管理組合法人は、平成26年(2014年)8月の通常総会で、特別多数決議(団地建物所有者及び議決権の各3/4以上)により、
   団地管理組合法人が一括して電力会社との間で高圧電力の供給契約を締結し、団地建物所有者等が団地管理組合法人との間で専有部分において使用する電力の供給契約を締結して電力の供給を受ける方式(高圧一括受電方式)への変更をする旨の決議がされた。

 2.次のステップとして、団地管理組合法人は、翌平成27年(2015年)1月に臨時総会を開催し、特別多数決議(団地建物所有者及び議決権の各3/4以上)により、 高圧一括受電方式導入への具体的な変更をするため、
   ・団地共用部分である電力の供給に用いられる電気設備に関する団地規約を変更し、それに伴い必要な経費(約5,500万円)を修繕積立金勘定から支出すること、
   ・また、「高圧一括受電方式以外の方法で電力の供給を受けてはならない」ことなどを定めた「電気供給規則」という細則も設定した。
    これは、団地建物所有者等に現行の電気供給での個別契約の解約申入れを義務付けるものである。

 3.続く、平成27年(2015年)2月、同年1月の臨時総会の決議を受け、団地管理組合法人は、
   ・個別契約を締結している団地建物所有者等に対し、その解約申入れ等を内容とする書面を提出するよう求め、総戸数:544戸のうち2名以外の団地建物所有者等は、同年7月までに解約申入れ等を内容とする書面を提出した。
   ・しかし、高圧一括受電方式導入に反対していた2名は、その専有部分についての個別契約の解約申入れをしない。

 4.全戸が個別契約の解約をしないために、団地管理組合法人は北海道電力会社に対し反対者の電気供給契約の解約をするよう申し入れたが、北海道電力会社は、約款上の理由から個別の解約は、北海道電力会社からは、できない旨の回答がなされ
   団地管理組合法人は、翌、平成28年(2016年)8月の通常総会で,高圧一括受電方式の導入を保留する特別多数決議(団地建物所有者及び議決権の各3/4以上)を行った。

◎裁判へ 
  そこで、高圧一括受電方式の導入に熱心であった一人の団地建物所有者が、
  ・2名の団地建物所有者が、総会の決議や「電気供給規則」を遵守せず個別契約の解約をしなかったために、団地全体での高圧一括受電方式への変更ができなくなっている。
  ・そのため、自分の専有部分の電気料金が削減されないという損害(導入予定時期から提訴2カ月前までの約5カ月分差額約9,100円を被った)
  と主張して、個別契約の解約申入れをしない2名に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた。

  参照:不法行為:民法第709条
 (不法行為による損害賠償)
  第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

◎一審:札幌地方裁判所:平成29年5月24日 判決
  *争点:導入に賛成しなった2名(被告)の主張:  
   @高圧一括受電導入では、工事の際に約3時間程度の停電があること。
    また、3年に一度の定期点検時に約2時間程度の停電があることは、専有部分の使用に特別の影響を生じ、
    区分所有法第17条2項で定める「共用部分の変更が専有部分の使用において特別の影響をおぼす」ので、決議には「特別の影響を受ける団地建物所有者の承諾」が必要となるが、2名の承諾がない。
   A元来、電力などライフ・ラインの供給元の選択は各団地建物所有者に決定権があり、マンションであっても法的に多数決で強制される性格はない。
   B高圧一括受電方式に変更することは、規約において団地総会だけでなく各棟の総会決議も要する。
    と反論した。
  
 *札幌地方裁判所の判決要旨:
   区分所有建物にあって、電力会社から受ける電力は全体共用部分、棟共用部分を通じて専有部分に供給されるものであるから、電力の供給元の選択においても、共同利用関係による制約を当然受けるものであるとし、
  @ 共用部分の変更及び管理に関して集会決議で決めた以上、たとえ反対であっても団地建物所有者は決議に従うのが当然である。
  A 2名の団地建物所有者が同意書を提出しなかったために、団地として高圧一括受電を導入できず低廉な電気料金の利益を享受できず、
    この行為は、他の居住者の利益を侵害したものとして不法行為が成立する。
    被告:2名の団地建物所有者は原告に対して不法行為に基づく損害賠償をすべきである。
  B 規約上、高圧一括受電方式採用に伴いブレーカーやメーターは団地管理組合法人が所有することになっているため、採用については団地総会決議で足り各棟の総会決議は不要である。

  また、導入に賛成しなった2名が主張する「特別の影響」については、
  C 停電による不便、不利益は被告に限って生じる事態ではない。全団地建物所有者に及ぶ問題につき「特別の影響」には当たらず、被告の承諾は必要ない。

  本件決議は,区分所有法66条(注:団地関係)において準用する区分所有法17条(共用部分の変更)1項又は18条(共用の管理)1項の決議として効力を有するから、被告人らがその専有部分についての個別契約の解約申入れをしないことは,本件決議に基づく義務に反するものであり,原告に対する不法行為を構成する、とし、原告の主張を認めた。

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 注:「特別の影響とは」...平成10年10月30日の「シャルマンコーポ博多事件」における最高裁判所の判決では、

  「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」の意義は、
   規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、
   当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合 をいう。

  とのことで、
  規約の設定、変更等が
  @どの程度必要なのか、またどの程度合理性があるのか を
  A一部の区分所有者が受ける不利益はどの程度か とを
  B様々な角度から比較し、考えて、 また
  Cそのマンションの区分所有関係の実態もよく検討して
  D最終的には、不利益を受ける一部の区分所有者が、共同生活を営む上で、通常、がまんできる限度を超えている場合をいう、
  ことになります。

  簡単にいいますと、「特別の影響」の有無はいろいろな角度から検討して決めなさいということで、最高裁判所の判断にしても、当然のことで、特に目新しいことはありません。
「受忍できる限度」を超えているかどうかの判断は、これまた、難しい表現で、現実としては、事案ごとに裁判所が判断することになりますが、それでも、当事者間では、なかなか納得がいかず、上級裁判所でまた争われることでしょう。

 しかし、最高裁判所が示したこれらの要件に従って、下級審は事案ごとに具体的に検討することになります。

 ◎この判断基準は、 区分所有法第17条2項にも適用される。
  最高裁判所が示した区分所有法第31条1項後段での規約の設定、変更又は廃止における場合での「特別の影響」の意義は、他の区分所有法第17条2項(第18条3項で準用)の共用部分の変更における場合での「特別の影響」の有無についても、適用され、
   ・共用部分の変更、管理行為の必要性・合理性と不利益を受ける区分所有者の不利益を比較衡量して、受忍すべき程度を超えているか否かを判断基準にする
   ということです。

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◎二審:控訴審 札幌高等裁判所:平成29年11月9日 判決
   一審判決を維持して、
    ・被告(導入に賛成しなかった2名)らは、団地建物所有者等の共同の利益たる低廉な電気料金の享受を妨げた。
    ・被告らの契約の自由は、共同の利益実現のための制約を免れない。
   控訴審においても第1審の判決が維持されたため、高圧一括受電方式採用に反対の2名が最高裁判所に上告したというのが本件の経過となります。

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◎最高裁判所が上告受理の申立てを受けた!
  最高裁判所は、通常、高等裁判所などの判決が妥当と思われる場合には、上告があっても、却下して、門前払いとなりますが、この事件では、上告の申立てを受け付けました。(民事訴訟法第318条)

 参照:民事訴訟法第318条
 「(上告受理の申立て)
  第三百十八条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
  2 前項の申立て(以下「上告受理の申立て」という。)においては、第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由を理由とすることができない。
  3 第一項の場合において、最高裁判所は、上告受理の申立ての理由中に重要でないと認めるものがあるときは、これを排除することができる。
  4 第一項の決定があった場合には、上告があったものとみなす。この場合においては、第三百二十条の規定の適用については、上告受理の申立ての理由中前項の規定により排除されたもの以外のものを上告の理由とみなす。
  5 第三百十三条から第三百十五条まで及び第三百十六条第一項の規定は、上告受理の申立てについて準用する。


  ということは、札幌高等裁判所の判決が破棄され、重大な法律の解釈の違いとして覆ることが、予想されました。


◎最高裁判所の判決文:平成31年3月5日 判決 
 (注:ここでの、法とは、区分所有法を指す。また、対象は、団地であるため、単棟の区分所有者が、団地建物所有者になっている。)
  
(1) 前記事実関係等によれば,本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの,本件決議のうち,団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は,専有部分の使用に関する事項を決するものであって,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない。
 したがって,本件決議の上記部分は,法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。
 このことは,本件高圧受電方式への変更をするために個別契約の解約が必要であるとしても異なるものではない。

(2) そして,本件細則が,本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても,その部分は,法66条において準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく,同項の規約として効力を有するものとはいえない。
なぜなら,団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは,それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし,また,本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず,この変更がされないことにより,専有部分の使用に支障が生じ,又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである。
また,その他上告人らにその専有部分についての個別契約の解約申入れをする義務が本件決議又は本件細則に基づき生ずるような事情はうかがわれない。

(3) 以上によれば,上告人らは,本件決議又は本件細則に基づき上記義務を負うものではなく,上告人らが上記解約申入れをしないことは,被上告人に対する不法行為を構成するものとはいえない。


*これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。
 そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求はいずれも理由がないから,第1審判決を取り消し,同請求をいずれも棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部喜代子  裁判官 山崎敏充  裁判官 戸倉三郎  裁判官 林 景一  裁判官 宮崎裕子)


◎最高裁判所の判決文を纏めると
 @高圧一括受電方式への変更のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約を申し入れることは、共用部分の変更や管理事項ではない。専有部分の使用に関する事項である。
  → 集会(総会)で決議しても、ここは、無効。(区分所有法第17条1項、第18条1項関係)
 Aそして規約との関係で、高圧一括受電方式への変更のために、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けた細則は、規約で定められる「専有部分の使用または共用部分の管理に関する区分所有者相互間」の事項ではない。 
   電気料金の削減では、変更しなくても、専有部分の使用や、共用部分の管理に支障は生じない。
  → 細則で定めても、無効。(区分所有法第30条1項関係)

 したがって,高圧一括受電方式導入に反対した2名が個別契約の解約を申し入れないことは、不法行為ではなく、損害を賠償する責任はないと判断した。


*「マンション管理士 香川」からのコメント

 上の最高裁判所の判断によれば、区分所有建物(マンション)や団地では高圧一括受電方式を採用したい場合には、区分所有者(団地建物区分所有者)全員の承諾が必要となります。
 つまり、1人でも反対者がいれば、高圧一括受電方式を導入することはできないということです。

 しかし、この最高裁判所の判断でいいのでしょうか。

 多くの人が共同生活をおくるマンションでは、物事を決める場合に全員の合意(承諾)を得ることが困難(というよりは、不可能)であることが分かり、民法の共有での共有者の全員の合意を、多数決に変更しています。

 マンションに住む以上、多数決に従わないと、「共同の利益」が守られません。

 この事案「高圧一括受電方式への変更」においても、最高裁判所の裁判官たちでは、旧来の民法での理論が優先しています。1審や2審のような、特別法である区分所有法での「共同の利益」からの理由付けが欲しいものです。

 私、マンション管理士 香川は、1審の判決の方(高圧一括受電方式が総会で決議されたら、組合員は従うこと)を支持します。




最終更新日:
作成:2019年10月31日 初稿Up

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